第百二十四話 ヨグスの男気
ノーラが勝ち、勢いに乗っていきたい二試合目。
冷静なヨグスが意気込んでいるのが後ろ姿でも分かるけど、無理はしないで欲しいところだ。
[Bクラスの生徒はゴウ君です! 午前の戦闘競技にも出ていましたが、体が大きいですねー]
[そうですね、パワータイプの子かと思いきや魔法もいけるということでしょうかぁ? 逆にヨグス君は戦闘系スキルではないので、これは楽しみな対戦カードですね!]
「ヨグス君、だね? よろしくね」
「ああ、うん。よろしく。……!」
ヨグスが握手に応じ握り返すとヨグスの表情が変わった。相手は体が大きく、ウチのクラスで一番背の高いリューゼよりも背がある。何かを感じ取ったのだろうか?
「始め!」
存在感が減ってきたティグレ先生の合図でヨグスは距離を……取らない! 至近距離から一気にケリをつけるため懐へ飛び込んだ。
「<アクアバレット>を食らえ!」
「思い切りがいいね、だけど! <ファイア>!」
「!? 危ない……!」
「なんだ、一瞬で背後に回った!?」
「ううん、ちゃんと移動していたわねえ。足運びが見えなかったけど」
ゴウは体を入れ替えるようにスッと移動し、背後からファイアを放つ。ヨグスは間一髪で横に転がってそれを避けて体勢を整える。
「今のは……」
「オレのスキル【シャドウ】ってやつだよ。影があれば色々できるんだけど、今のは影を踏んで移動したんだ。これだとかなり素早く動ける。例えばこう」
「速い!」
ゴウは自分の影をティグレ先生の影に合わせるとスッとティグレ先生の影の上に立っていた。瞬間移動なんてものじゃない。まるでワープだ。
「まあ、影が無いと意味が無いんだけどね。他にもあるけど、最終戦があるから手の内はここまでかな?」
「……余裕がありそうだけど、僕を倒すなら近づかないとダメなんじゃないかな? 君、大した魔法は使えないんじゃないかな? さっきのもファイアじゃなければ終わっていたのにさ」
「……」
ヨグスの言葉に口の端を吊り上げると、即座に魔法を放つ。それはファイアだった。
「やっぱり……! <ウィンド>!」
「フフフ、最初の攻撃一回でオレが魔法をまともに使えないのを見破るなんてやるね。そのメガネは伊達じゃないのかな?」
風でファイアを打ち消しヨグスが走る。
「言ってるといいさ! <ウォータージェイル>!」
「なんの!」
単純なダッシュで水の鎖を回避するゴウ。立て続けにアクアバレットで追撃をかけるが、体の通り、身体能力自体が高いゴウは難なく回避していく。
「魔力が尽きるまで撃つかい? <ファイア>」
「くっ……」
[攻撃を仕掛けているのはヨグス君! しかし、苦しいのもまたヨグス君だ! 魔法は弱いですが、ワッペンに魔法を当てても勝ちになるため、これはゴウ君が有利か!]
[このままではそうなりますねぇ。【シャドウ】というスキルは逃げにも攻撃にも転じれる珍しいスキルですね。しかしヨグス君は考える子ですから策はあるかもしれませんよぅ?]
[期待しましょう! あ、こらEクラス! 頑張りなさいよ!]
ベルナ先生もやんわりと応援してくれるがヨグスには焦りも見える。これは相手が悪いか? そう思ったところでヨグスが構えを解き深呼吸をする。
「……ふう、大丈夫だ。僕は負けないよ」
俺達か、自分か、その両方か。
言い聞かせるように呟き、すぐにヨグスは突撃を開始した! 魔法は使わずゴウに迫る。
「やけになったのかな? それならそれで構わないけどね! 殴ったら負けだよ?」
「……」
答えずにヨグスはギリギリまで接近する。口元に笑みを浮かべたゴウがファイアを撃つと、ヨグスは紙一重で背後に転がった。
「<アクア――>」
「【シャドウ】! <ファイア>!」
「うあ!?」
背後から撃とうとしたが、振り返って影を移動し再び背後に回られファイアを食らう。だけどヨグスは諦めずにまた背後に回り、魔法を撃つ。しかしゴウは【シャドウ】でそれを回避し、同じ光景を繰り返していく。
「ああ! ダメだってヨグス! それは通用しないんだ!」
「前から魔法を撃ってー!」
だけどヨグスの動きを見て、俺はポンと手を打つ。
「ああ、そういうことか」
「どういうことなの? 応援しないと!」
「まあ、ヨグスを見てなって」
マキナの言葉に俺は笑ってヨグスに目を向ける。ヨグスとゴウはだんだんと端の方へと戦場を移していた。
「どうしたんだい? そろそろ魔力も勿体ないし、降参した方がいいんじゃない?」
「……僕は勝つと言って出て来たんだ。それを違えるつもりはないよ」
「そんなにボロボロでどうしようっての?」
「こんな僕でも、勝ち筋は……ある! <ハイドロストリーム>!」
「!? まだそんな魔法を!」
ヨグスが使える魔法で一番強いハイドロストリーム。これなら広範囲に攻撃できるので胸のワッペンに当てることも可能だろう。しかし――
「避けられなくはない……! 【シャドウ】」
「かかった!」
ゴウがスキルを使った瞬間、ヨグスが叫び体を移動させる。そして影は『白線の外側』になった。
「あ!?」
「そこまで! 場外でヨグスの勝ちだ!」
[おおっと!? なんとゴウ君、自ら白線の外に出てしまったぁぁぁぁ! これは計算しての行動ですかね!]
[そうですね、わざと【シャドウ】を何度も使わせて相手に有利があると見せかけ、端へ少しずつ誘導していましたよ!]
[やりますね! 眼鏡は伊達じゃない頭脳プレーと言ったところでしょうかぁぁぁぁ!]
「く……! ……ふふ、はははは! やるねヨグス君。少々スキルにあぐらをかいていたようだ」
「ふう……それでも厄介なスキルには違いないけどね。悪いけど勝たせてもらった」
「冷静そうに見えてなかなかどうして、熱い男じゃないか。また戦ってくれ」
「ふん、僕はごめんだね」
ヨグスがそう言って肩を竦めると、ゴウは大笑いしながらヨグスの肩を叩いていた。迷惑そうにしながらも勝てた喜びが表情に出ているヨグスを見て俺達も嬉しくなる。
「やったなヨグス!」
「ああ、何とか汚名返上ってところだね。次の魔物の名前当ても任せてくれ」
自信たっぷりに言う彼に俺達は頷くと、リューゼが口を開く。
「それじゃ、次は俺だな! 決めてくるぜ!」
「任せるよリューゼ」
と、意気込んだものの、相手の子が一枚上手でリューゼは負けてしまう。以前、魔法の授業をしたとき、元々魔法が得意ではなかったのだから仕方がない。
クーデリカもそれなりで、ウルカは別の競技、ルシエールも同じ理由で消去法でリューゼだった。
「悪い! やっぱまだまだ魔法はダメだわ!」
悔しい顔だが、分かっていたことだと笑う。こいつのいいところは後でうだうだ言わないところだから今回のことも割り切っていると思う。
「仕方ないよ、相手は本当に魔法使いを目指す子みたいだからね。じゃ、僕が行ってくるよ。ヘレナまでは回さないね」
「お願いねえ♪ 肌に傷がついたらダンスの時困るし?」
俺は笑って競技へ向かい、兄さんと同じ戦法で吹きとばして終了させた。
[強い! あの兄にしてこの弟ありということか! この際やっぱり弟でもいいから玉の――あ、いえなんでもありません!]
[あら、ミズキちゃんお散歩ですか? ここは入ってきちゃ駄目って言われてましたよね]
[すみません、少し道に迷ってしまったよう……で!]
[ひぃ!?]
何故かギラリとした目を向けるミズキさんがまた追い出されていき、俺達は苦笑する。ギルド部だと頼りになるのになあ。さて、次のお相手はDクラスか。どんな子が出てくるかな?
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