第七十七話 父と娘
「シーナにグレース……いきなり何を言いだすんだ……そんなこと許可できるわけないだろうが……」
国王様の呆れた様子に俺も胸中で賛同する。さすがにお姫様が行くのは無理だろうというのは子供でもわかる。案の定兄さんを始め、ジャックとマキナもポカンと口を開けてその光景を見ていた。
しかし興奮しているお姫様達はなおも続ける。
「では、許可されなくても行きますわ!」
「誰か私達に付いてくるものはいませんか!」
踵を返し、俺達の方へ歩きながらそんなことを口走る。そこへグレトーが慌てて立ちふさがりふたりを止めた。
「お、お待ちくだされ! おふたりに何かあったらどうするおつもりですか!? ……それに妹君が向かったはず。無事に戻ってくるのを祈りましょう」
「……あなたもお母さまとグルですのね? いいえ、ベルナはわたくしたちが必ず助け出します!」
……なんとも勇ましいお姫さまだ。やはり騎士の国だけのことはあるのかな? だけど、俺はこれに便乗することにした。
「話の途中ですみません。俺はレフレクシオン国、ガルド領の領主の息子、ラース=アーヴィングと申します」
「なんですの? 急いでいるのよこっちは」
「承知しております。話しかけた理由は一つ。目的が姫様達と同じくベルナ先生の救出だからです」
「……どうぞ続けてください」
お姉さんだろうか? 金のロングヘアに整った顔立ちの女性がそう言い、俺は続ける。
「ベルナ先生はオブリヴィオン学院の教師で、俺達の担任なんです。俺や兄さん、母さんはずっと一緒にいて家族だとも思っています。もし、行くなら俺を連れていっていただけませんか?」
「ラース! 申し訳ありません、息子が……」
母さんが頭を下げると、女性が顎に手を当てて眉を潜める。
「子供が役に立つとは思えませんわ……スキルはなんですの? わたくしは【鏡明】自分たちの姿を転写して相手に見せることができますわ」
「……俺のスキルは【器用貧乏】です」
「それは……」
姉であろう女性が渋い顔をする。こういうところにもきちんと伝わっているのは面倒だ。まあ、昔の王族が持っていたんだから伝承されているんだろうけどね。やはりというか、妹の巻き毛金髪の妹姫が言う。
「まったくダメですわね! そんなハズレスキルを連れて行っても足手まといになるだけですわ!」
「そんなことありません! ラース君はとても凄いんです! 聖騎士部の練習試合でも大きい男の子を倒したんだから!」
「そうだよー! ラース君は凄いんだよ!」
俺が反論しようとしたところでマキナとノーラが両手に握りこぶしを作って怒りを露わにしていた。こういうのは素直に嬉しいなと思っていると、グルドーがしゃしゃり出てくる。
「……確かにこの小僧は強かったですぞ。五年生のゴングに手も足も出ない状態で倒したのですから……」
「聖騎士部のトップクラスを……? ふうん、では何か得意技を見せていただけるかしら?」
「わかりました<インビジブル>」
「……!? 古代魔法!? ど、どこに……」
「上ですよ」
俺はすぐにレビテーションで飛び、声をかけると、姫様やグルドー、国王様がぎょっとした顔で俺を見上げていた。
「あとは……<ファイア>」
以前リューゼに見せた特大のファイアを降りながら出現させると、騎士たちにどよめきが起こった。当の金髪巻き毛妹は目を丸くして口をぱくぱくさせていた。
「凄い……!」
「これもベルナ先生のおかげです。兄さんやこっちのノーラも魔法は幼少期からベルナ先生に教わっています」
「はい!」
「これでいいかな?」
「この歳で魔法を維持できるの……!? なるほどこれなら……」
そこで後方からいよいよと言った感じの声がかかった。
「いいかげんにせんか! シーナにグレース、お前たちが行くことは許さんからな!」
「ではベルナが死んでもいいと?」
「そ、れは……騎士を追加で寄こすつもりだ……」
「ご自身で助けに行く、とは言わないのですね。……いえ、失言でした、すみませんお父様。しかし、なんと言われても行きます。……そんなことだからお母さまの言うことを頷くだけになるのではありませんか?」
「……!?」
何か思い当たる節があったのか、国王様は立ち尽くして苦い顔をする。
「行きましょう。えっと、お母さまですか? お話はこちらで――」
「え、ええ」
「グルドー、あなたも来なさい」
「あ、えっと……」
グルドーは国王様と姫様にきょろきょろと目を向けていたが、国王様が顎で『ついていけ』と暗に指示し先頭に立って歩き出す。姫様二人は国王様には目もくれず、グレースと呼ばれていた巻き毛の女性が俺達を引っ張り別室へと向かった。
「……本当に行くのですか?」
「ええ。ベルナは小さいころ、おじいさまとお母さま。……それとわたくしに虐められていましたの……。わたくしはそれをまだ謝っておりません」
「あの子、私達を相当恨んでいるようで、他人行儀だったんです。それがショックで……もしここで助けることができれば認めてもらえるのではないかと」
ベルナ先生が慕われるのはあの性格があってのこと。だけどこの二人がどうしてこれほどベルナ先生を構うのかが気になる。だけど、今はそれは置いておこう。まずは救出することが先決なのだから。
しばらく歩いていくと、まずは準備が必要だとグルドーが武器庫へと案内してくれた。そこには剣や槍、防具などがずらりと置かれていた。
「学生騎士用の武装だ、無いよりはマシだろう。サイズは自分で合わせろ」
「おお……かっけぇ……ラースどうだ!」
「俺達は機敏に動ける方がいいから、あまり重武装にしない方がいいよ? ほら、ここからパーツが外れるだろ」
「お、マジだ! 小手と胸当てと脛当てっと……」
ジャックは軽装状態での装備を整え、ノーラはマキナと一緒に選んでいる。体力は二人ともあるから苦にはならないはずだ。
「オラ、兜が欲しいー」
「ちょっとぶかぶかだけどないよりはいいかな? 私は聖騎士部と同じフルプレートでいいか……デダイト君は?」
「僕もラースと同じ装備かな? 剣はこれを使わせてもらおう」
そう言って手に取ったのはティグレ先生と同じ大剣だった。俺と打ち合いをしている時はショートソードくらいの棒しか使ったことが無かったのでこれは俺がびっくりした。
ブォン!
「うん、重さもちょうどいいや」
……ちゃんと訓練しているみたいだね。ノーラとイチャイチャしているからサボっているのかと思ったけど、そんなことは無かったらしい。
「お母さまはお薬を?」
「ええ、【ホスピタリティ】のスキルのおかげで治療系のことは大概できるんですけど、薬が一番効果が高いんですよ」
「そうなのですね私は【赤色操作】というものでして、赤い色のものなら手に吸い付けたり、吸い付くことができるんです。こんな感じですね」
そういってシーナ様は壁にぺたりと張り付いていた。これが何の役に立つのか、と言われれば難しいけど、例えばリンゴを吸い付けることで収穫がめちゃくちゃ早くなったりするに違いない。……父さんの畑にはトマトしかなかったけど。
俺はいつものダガーを腰に下げ、ジャックとマキナは剣。ノーラは魔力を増幅してくれる杖を握り、母さんも胸当てや小手、兜を装着して準備が整う。
そうこうしていると、三十人ほどの騎士も武器にやってきて各々装備を始めていた。その中に――
「お、お前等!?」
「あれ? ゴングだっけ? 学院の生徒が武器庫にどうしたの?」
「がるるるる」
試合でマキナと戦ったゴングが姿を現し驚愕の表情を浮かべる。マキナは痛い目にあったからか俺の後ろで威嚇していた。
「いや、そりゃ俺のセリフだろうがよ……俺は騎士の人達が集まってたから追ってきた……それに姫様も?」
「まあ色々あってね」
俺がそう言うと、グレースが動きやすい服と装備に変わり剣を掲げて大声で叫ぶ。
「それじゃ、行きましょう! いざ、ドラゴンの下へ!」
「はああ!?」
ゴングが尻もちをついて面白い顔をしていた。
さて、ティグレ先生なら大丈夫だと思うけど早く合流しないとね。
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