第七十四話 先生の激怒と不安
ガタガタ……
「うわ!?」
俺が開けようとした樽が手にかけた瞬間震えだし、俺は尻もちをつく。次の瞬間樽が倒れて蓋がコロコロと転がり、中からメロンやミカンといった果物が転がってきた。それだけなら良かったんだけど、その後が悪かった。
「うあああ! 目が回った……」
「オラもう駄目ー……暑いー……」
「マキナにノーラ!?」
ずるりと出て来たのはなんとマキナとノーラのふたりだった。そして、兄さんの開けた木箱にも異変があった。
「ハッ!? こ、ここは!?」
「ジャック君!?」
鎧や武器の入った箱からは今まで寝ていたのであろうジャックがよだれを垂らして上げ底だった箱から出て来たのだ。兄さんも驚いて尻もちをつくと、母さんが口を開く。
「あなた達どうしてこんなところに入っているの!」
「ま、まだ馬車の中か……い、いやあ、次は俺を連れてけって言ったのにおいて行こうとするから……」
「そりゃ置いていくよ!? 隣の国の国王様と会うんだよ?」
俺がそう言うと、ジャックは憮然とした表情を見せ、俺達に言う。
「……でも戦いがあるわけじゃねぇんだろ? 俺達だってベルナ先生が心配だ。だから追いかけて来たんだよ。たまたまルシエールが学院長の依頼を受けて品物を運ぶ話を聞いててよ、荷物にこっそり忍び込んだんだ」
聞けば封はルシエールとクーデリカがやったらしい。ふたりも行きたがっていたが、それはジャックが止めたのだと言う。
シュンとするノーラやマキナ達を乗せたまま、お昼に差し掛かってきたので近くの町へ入るとティグレ先生が三人に拳骨を食らわしていた。
「いたぁ……」
「うう……いたいよー……」
「あがががが……」
「危険なところだってわかってんのかお前ら!」
「だ、だって、ベルナ先生が……それに、話を聞きに行くだけなんでしょ? だったら私たちが行ってもいかと思って……」
マキナが涙目で答えると、ティグレ先生がため息を吐いて目を細める。すでに町からはかなり離れている。子供だけで返すには厳しい道のりになるに違いない。
そこへ母さんが少し考えた末、ティグレ先生へ提案する。
「ティグレ先生、ここまで来てしまった以上戻るのも大変ですし、このまま進んではどうかしら?」
「しかし……」
「大丈夫です。ローエンはこのことを知っていますし考えもあります。ノーラはウチの子とあまり変わらないからいいけど、マキナちゃんとジャック君は親御さんが心配するかもしれないから、この町で手紙を出しておくわね」
父さんと母さんはここに来るまで色々考えていたらしく、自信があると頷く。ここから戻るのも大変だし、最悪宿にでも籠ってもらえば大丈夫かな? そして手紙を出すという案が出てくるのはさすが母さんだと思う。
そしてティグレ先生も同じことを考えていたらしく、ため息を吐いて三人に言う。
「……仕方ねぇ……お前たちは俺の話にびびってついてこねぇと思って聞かせたのが間違いだった……。絶対 大人しくしていろよ? さすがにこの人数は守り切れるかわからねぇ……」
「大丈夫だよー! ラース君もいるしー」
「ええ。私も戦うわ!」
「いや、大人しくしろって言われたばかりでしょ……。俺も確認に行くだけだから、戦闘になることは無いと思うよ」
……問題はベルナ先生がいて、さらに何らかの束縛を受けている場合だ。姫であれば命に関わるようなことは無いと思うけどその時どうするか。
だけど最近、聖騎士部の模擬戦があったし、それに参加していたマキナや俺もいる。グレトーとかいう嫌な奴に問い合わせてもいいかもしれない。
「はあ……ノーラには危険な目にあって欲しくないんだけどな……」
「オラ、頑張るー! デダイト君もラース君もいるし、平気だよー♪」
「へへ、よろしくなラース!」
「はあ……ジャックはリューゼより危なかっしいよね」
「マジで!? あいつよりか……」
そんな話をしながらお昼を取った後に俺達は再び馬車へ乗り込む。それほど遠くない隣国だけど、それでも三日はかかる。それに道中は魔物も出現するため、ティグレ先生と俺が倒していく。あまり時間をかけられないので、戦いたがっていた兄さんやマキナの意見は無し。
野宿は母さんがいるのでせず、町で宿泊しながらようやくルィツアール国の最初の町へと到着した。
「おー! 外国だ!」
「あまりはしゃぐと田舎者だって思われるよ、ジャック? それにこの大陸にある国はどこも俺達とそれほど変わらないだろ」
南の大陸だと肌の色が違ったりするらしい。ヘレナの褐色の肌はお母さんが南出身だからなんだそう。それはともかく、今日の宿へ到着する俺達。チェックイン中、宿の主人がティグレ先生に声をかけてきた。
「旅行者かい? 子供も多いけど……」
「ええ、俺はレフレクシオンのオブリヴィオン学院の教師でしてね。先日、こちらの国の聖騎士部と練習試合を行わせてもらったんですが、そのお礼にと思いやってきたんですよ」
「へえ、だから子供が……そっちの美人さんは奥様で?」
「いえ、私はこの子の保護者ですわ」
美人だと言われて少し得意顔の母さんが俺と兄さんの頭を撫でながらそういうと、宿の主人はにっこりと微笑む。しかしその後、顔が曇らせながら顎に手を当てて言う。
「うーむ、しかしタイミングが悪かったなあ。最近……といっても結構前らしいが北の山でドラゴンが見つかったらしいんだ。そいつが姫を差し出せと要求してきたってよ」
「ええ!? ベルナ先生食べられちゃうの!?」
「嫌だよー!」
ドラゴン!? それに姫を差し出せってもしかして……俺が最悪の状況を思い描いていると、ティグレ先生ももちろんそこに行きついたらしく身を乗り出して宿の主人に迫る。
「ドラゴンが居るのか!? ……姫を差し出せってこたあ生贄にするつもりか!? もういったのか!?」
「お、おいおい、落ち着いてくれよ。国王様だって愛する娘を差し出すような真似をするわけないだろう? 討伐するために計画を練っているって話だ」
「……」
「先生、向こうへ行こう」
「ああ」
俺はティグレ先生の袖を引っ張ってそう言うと、先生は大人しく引き下がってくれた。討伐隊を結成するなら生贄じゃないことに少し安堵する。だけど、ティグレ先生は別の問題を口にしていた。
「……どう対抗するつもりだ? 種類がわからねぇけど、下手をすると国が焦土になるぞ……」
「え? ドラゴンってそんなに強いの!?」
「まあ、個体数が少ないし、それほど表立って出てくるようなやつはいねぇんだけどな。生贄を要求してくるような悪いやつもいるんだ。そういうやつはだいたい力が強い」
俺はゲームなんかで知っているけど、実物は見たことが無い。ドラゴンってやっぱりやばい魔物なのかと、強いはずなのに冷や汗をかくティグレ先生を見てそう思うのだった。
嫌な予感を覚えつつ、俺達は城へと到着する。
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