第三十四話 家庭の事情とギルドマスター
「私もギルドへ行っていい?」
「あ、お断りします」
「なんでよー!?」
時間軸はまだ帰り道。兄さんとノーラが手をつないで歩いているのを冷やかしたものの、まったく怯まないふたりに飽きたルシエラは再び俺に絡んでくる。昼休みの悪夢再びだ。
とりあえずこれからどうするのか、という話になった時、兄さんは孤児院までノーラを送ると言い、俺はギルドで依頼をすると告げたところ、先ほどのルシエラのセリフが飛び出した。
「ルシエラ、ラースを困らせたらダメだよ? ……ラースは家のために頑張ってるんだ。本当は僕が率先して働くべきなんだけど」
「いいって。俺が兄さんに黙ってギルドに出入りし始めたんだしさ。それにたまに兄さんも手伝ってくれるじゃないか」
「ごめんなラース」
「大人になったら返してくれればいいよ!」
「ははは、それもそうだね」
と、俺達が笑うと、ルシエラが不思議そうな顔で俺達を見る。
「仲いいわねー。男同士の兄弟ってケンカしているイメージがあるもの。ウチの三軒先に住んでるモートさんとこなんかそうじゃない?」
「モートさんは知らないけど、兄さんが優しいからケンカになることがないよ。だからノーラもいつもにこにこしているし」
「うんー。デダイト君は優しいよー」
ルシエラはそんなノーラを見て一瞬だけ目を細めたけど、すぐに笑顔になりまた俺に絡んでくる。
「というわけでギルドに行きましょう!」
「ダメ! デダイト君の話聞いてた? 邪魔したらダメ!」
「ちぇー」
本気で窘めてくれたようで、バツが悪そうに顔を顰めてからそそくさと俺達から離れた。
「ありがとうルシエール」
「ううん。お姉ちゃんは強く言わないとダメだから。ラース君も怒っていいからね? それか私を呼んで」
頼もしいお言葉である。俺とは逆に、姉に迷惑をかけられているんだろうなと想像がつく。一応年上だから尊重してお昼は何も言わなかったけど、妹の許可も出たのでこれからは遠慮せずにいこうと思った。
「じゃ、僕たちはこっちだから」
「また明日ねー」
途中、兄さんとノーラと別れ三人になり。俺はルシエールに気になっていることを尋ねる。
「そうそう【ジュエルマスター】って、宝石関連だよね? 使ったらどうなるの?」
「えっと、宝石って加工する前は原石っていうそれこそ価値のない石なんだけど、加工するのは難しいの。でもスキルを使って原石を削るとどうやったらきれいに削れるかがわかるんだよ。だけど原石を手に入れるのも簡単じゃないし、それ以外に役に立たないから私もハズレスキルだと思う」
俺の【器用貧乏】に気を使ってかそう言ってくれる。でも宝石は加工の仕方に価値が付与されるものなので、原石があれば一攫千金は狙えるような……
「いやいや、俺は何を考えている……」
「?」
お金儲けの道具になると一瞬考えてしまった頭を振り、恥ずかしくなった俺は前を歩く。そこで二人と別れる道に差し掛かった。
「私達はこっちだから」
「今度、連れてってよ。実はギルドに行ったことなくて興味があるのよ。パパがうるさくてさ」
「そうなのか?」
「まあねー。んじゃ、またね♪」
と言って歩いていく後ろ姿を見送る俺に、ルシエールが耳打ちをしてくる。
「(お姉ちゃんね、いつもお父さんに『お姉ちゃんなんだからしっかりしろ』とか『お姉ちゃんなんだからこれくらいできるだろ』って言われていつも怒られていたの。だからお店の手伝いも嫌々だし、よく口げんかしているよ。お父さんのいない学院だと自由になってるのかも……だからお昼はびっくりしちゃった)」
「(そっか。そういうことなら……まあ、気持ちはわかるな……)」
「(え?)」
俺は前世で兄貴だったからな……両親の期待は弟にいっていたから、聞こえてくるのは『兄なのにダメなやつだ』とか『兄なのに出来が悪い』といったものだったけど、俺が親なら絶対に言いたくない言葉だ。
今の両親は兄さんと俺のできないところはそれとして、必ずどこかを褒めてくれる。できないことを補うのが兄弟だとも。
しかしあの気弱そうな親父さんがそんなことを言うとは。人間、やっぱり見かけだけじゃわからないもんだな……
それとルシエラか。今度は邪険にせずちゃんと話してみようかな? 羽目を外して引き返せなくなった感があるんだよね。あの性格だと友達がいないことも考えられるし。
それにルシエールの姉で兄さんの友達でもあるから、という言い訳をしながら俺はギルドへと入って行く。
「こんにちは!」
「ラース君、いらっしゃい。学院の制服、似合ってるじゃない」
「ほう……」
「顔を赤くして見ないのミズキ……」
中へ入ると早速ギブソンさんとミズキさんが出迎えてくれる。そういえば入学式の日はそのまま家に帰ったから初めてなのだ。
「あ、ちょうどいいや。ギルドマスターが出張から帰ってきたんだけど、ラース君に会いたいってずっと言ってたんだけど、どうする? 時間あるかな? というか出張でまったくラース君と会えず一年たっちゃったから会ってほしいんだけどね」
ギルドマスター!? なんでそんな偉い人が俺に会いたがっているんだろう? まあ、依頼が絶対ってわけじゃないし、一年もすれ違いしていたのならそれはそれでなんか不憫だ。
「いいですよ!」
「良かった、なら奥の部屋に一緒に行こうか」
そう言って受付から出てきたギブソンさんに連れられ、俺はまだ見ぬギルドの奥へと進んでいった。
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