第三十一話 魔法のテスト


 魔法ができない人はいるかとティグレ先生が俺達に尋ねると、意外な人物から手があがる。


 「ん? マキナは使えないのか?」

 「あ、はい。というか使ったことがありません……。両親は使うんですけど、危ないからって使わせてくれなかったんです。騎士になるにも必要なさそうだと思ってましたし」

 「なるほど。確かに魔法を使う騎士はそれほどいないから間違ってはいないが、攻撃の初級魔法くらいは覚えておいた方がいい。ま、これは講義で話すとして今回は測定だし、見学で大丈夫だぞ」

 「うぬう……」


 謎のうめき声を出して悔しがるマキナをよそに、魔法測定が始まる。

 一番手はウルカでヘロヘロながらもしっかりと的へ当てることができた。二番手のジャック、三番手のヘレナも飛ばすことはできたけど的には届かず、クーデリカはとても普通に的に当てた。

 ヨグスは苦手だと言っていただけあって、火は出たもののかなーり小さく的に当たったかどうかという感じで消えた。

 

 「<ファイア>!」


 で、ルシエールは凛とした表情で迷いなく魔法を放ち、的を見事に燃やしていた。


 「お、ルシエールは見事だな! 人に教えるには自分がよく理解していなければできることではない。ルシエラはちゃんと理解してくれていたか……」

 「あはは……お姉ちゃん、雑ですからね……」


 何故か遠い目をするティグレ先生と分かっているといった感じのルシエールが困惑気味に苦笑する。なるほど、ルシエラには近づかない方が良さそうだと直感で感じる。

 すると、ぽてぽてとノーラが近づいてきて小声で俺に尋ねてくる。


 「(ルシエールちゃんがあれくらいできているから、オラも普通にやっていいかなあ?)」

 「(んー、全力じゃなければいいんじゃないか? 俺は少し弱めに撃つけど)」


 わかったーと、軽い足で新品に替えられた的の前に立つ。そしてノーラは指を突き出して魔法を使う。


 「<ふぁいやー>!」

 「あ、お前それは――」


 俺が止める間もなく魔法は放たれて的はボッと燃えて消える。


 「えへへー、上手くできたよー! ……あれ?」

 「……」

 

 振り返るノーラは上機嫌だったけど、見ていたマキナ以外が唖然とする。

 

 ……無理もない、魔法は基本的に手のひらを突き出して放つ。だけど、ノーラは指先からも出すことができるのだ。

 違いがなさそうに見えるけど、実際に『何かと戦う』場合、手のひらから出す場合両手の二か所のみになるけど、指なら最大十か所から出すことが出来ると言えば結構な脅威だと想像がつくと思う。

 ノーラは十本全部から出すことはできないけど、遊びでこれをやったノーラは素直に凄いと思ったものだ。

 誰でもできそうだけど、『手のひらから出す』という先入観が強い者はできないらしい。魔力を小さく細くするイメージが上手くできないと難しいからとベルナ先生は十本の指に火を灯しながらドヤ顔していた。


 「す、すごいな、ノーラ! 見事だ、花丸をやろう!」

 「わーい!」

 「すごいすごい!」


 クーデリカがノーラに抱き着いて喜んでいると、リューゼが焦りながら口を開いた。


 「ふ、ふん、貧乏人の彼女が調子に乗るなよ……? 次は俺の番だ!」

 「がんばってねー」

 「お、おう……」


 褒められて上機嫌なノーラが見送ると、リューゼが的の前に立ち、手のひらに魔力を集中させる。そして俺をチラリと見ながら叫んだ。


 「はああ! 見ろ! これが俺の実力だ! <ファイァァァ>!」

 「おお!」


 ティグレ先生もその気合に拳を握る。【魔法剣士】を持っているリューゼならもしかすると――


 へろへろ……ぽしゅ……ぺちん


 「ど、どうだ! はあ……はあ……貧乏人にゃできねぇだろ!」

 「……」


 うん、全力でそれは逆に難しいよ……。というかノーラどころかルシエールにも劣っているし、なんならウルカ以下だ! お前は一体何を見ていたんだ? そう叫びだしたいが我慢だ……!


 「リューゼ、いきがる前にちゃんと勉強しような? 家で練習とかしていないのか?」

 「父上がレアスキル持ちなんだからいつかできるようになるって言ってたからやってないぜ! いつか先生より強くなるかもな! ま、何もしなくてもお金が手に入るし、努力する必要もないけどな」

 「ふむ……やはりブラオさんの影響は良くないな……よし、ラースが最後だ! これが終わったら休憩にするから手早く頼むぞ!」

 「はーい」

 「さて、貧乏人はどうかなあ!」


 最後の俺に声をかけてくれたティグレ先生に返事をし、的に立つ。正直、いくらなんでももう少しできると思っていただけに動揺があったのも事実。

 【鑑定】や【金剛力】ならまだしも【魔法剣士】だよ? 魔法が使えてなんぼのスキルであれはない。あれはないんだ……


 「……<ファイア>」


 ポッっと火が出てスーッと的へ一直線に飛んでいく。


 「わはははは! やっぱり雑魚いな貧乏人はよ!」

 「おお……俺より小さい……!」

 「……ホッ……」


 直後、パコン! という音ともに的に穴が開きぷしゅっと消えた。ジャックとヨグスがなんとなく安堵の声をあげているのを耳にしていると、リューゼが俺に絡んでくる。


 「まあ、これが才能ってやつだよな! 魔法が撃てただけでもすげぇじゃねぇか。ま、せいぜい頑張るんだな!」

 

 そう言って俺から離れて女の子達の下へ行くリューゼ。ま、せいぜい今のうちに優越感に浸ってるといいよ。

 

 「先生、終わりました!」


 胸中でほくそ笑みながらティグレ先生に終了を告げると、目を見開いたティグレ先生が立っていた。


 「せんせー、休憩しよう?」

 「先生、目が怖いよ……」


 ノーラが先生の袖を引っ張ると、ハッとしたように慌てて手を叩いて俺達を集合させる。


 「よ、よし、今から十分休憩だ! そのあとクラスに戻って――」


 と、体力測定が終了した。さて、学院の勉強はこれからだ、気を引き締めていかないとな。俺は話を聞きながら気合を入れるのだった。

 

 すぐに休憩が終わり俺達はクラスへと戻っていく。


 「さて、戻ろうか」

 「うんー! 次はお勉強かなー」

 「多分ね……ん?」


 「フ……<ファイア>……くすん……」


 隠れて魔法を使うマキナがちょっといじらしいと思った。



 ◆ ◇ ◆


 「……ラース=アーヴィング。思った通り面白いなやっぱり。なんで力を隠しているのか分からないけど、魔法のテストに出した<ファイア>はかなり特殊だ。ノーラの指から魔法も驚いたけど、ラースはそれ以上だ。子供たちは火の大きさに気を取られていたが、そもそも火が燃えずに的を貫通すること自体そうそうあることではないんだからな」


 熱血教師ことティグレが着替えながらぶつぶつと呟く。顔は満面の笑みで、見るものを卒倒させる力を秘めていた。一年前、剣術でノーラとのやり取りを見ていたティグレは魔法もただごとではないと興奮していた。加えてその時一緒にいたノーラは学院に入ることはノーチェックだったので、ダブルでついていると思っていたりする。


 「デダイトとルシエラも面白かったが、ラースはそれ以上だな。リューゼと何かあるみたいだから、そこは注意しておかないとダメか。いや、リューゼを何とかするべきか? ……これは……家庭訪問だな」

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