第三十話 体力測定②


 「さあ、次は何!」

 「いや、ジャンプ力だって言ってたじゃないか」

 「ラース君冷静……」


 相変わらずハイテンションのマキナについ突っ込んでしまい、ルシエールが苦笑して呟いた。正直なところ鼻栓がツボっていて心中穏やかじゃないのは内緒だ。そんな中


 「これは一回だけでいいからすぐに終わる。しかし逆に言えばチャンスは一度……人生においてこういうことは多々ある。一回キリのチャンスをモノにするため、全力でその場の試練にチャレンジするんだ!」


 あ、だんだん隠さなくなってきた。早いなあ……

 俺は兄さんから話を聞いているから、こっちが素だということは知っていて、いわゆる熱血教師というやつである。目つきは悪いけど優しい人だよ、尊敬しているとは兄さんの弁。王都でも学校の先生をやっていたみたいな話がある。


 それはともかくジャンプ測定だけど、俺としては垂直飛びの方が覚えがいい。懐かしいなと思いながら俺は飛んでいくみんなを見る。

 手に白い粉をつけて高さが書かれたボードに手を当てるだけの簡単なものだ。手を伸ばしてそこを0cmとし、そこから上にタッチしたものが記録になる。


 「えい!」

 「えーい!」

 「ほっ!」

 「とぉー」


 女の子たちは柔らかい掛け声を出して記録を出す。30㎝前後が基本らしい。――ひとりを除いて。


 「ふぬ!」

 「42センチ! 凄いなマキナ」

 「ふふん、これくらいは余裕よ! 騎士を目指しているんですもの!」

 「くっ……」


 勢いで鼻栓が取れたのがツボったけど笑うのも失礼だと我慢した俺。しかし元気だなマキナはあれだけ走って足腰がまだ生きているとは……


 で、女の子が終わった後は俺達男子組と交代だ。ウルカが最初に飛び、女の子とあまり変わらないくらいの高さを記録し、ジャック、ヨグスはそれなりに飛ぶ。


 「貧乏人、お前行かないのか?」

 「……」

 「聞いてんのか!」

 「どうしたリューゼ? あとは二人だけだ、どっちからでもいいから飛んでくれ」

 「チッ」


 俺はリューゼの言葉をスルーする。舌打ちをしながらボードへ立つリューゼを見る。

 あいつと接したり会話するときに『ルール』を設けた。その『ルール』に抵触する限り、俺はあいつをスルーし続けると決めた。クラスから浮くかもしれないが、まあその時はその時だ。


 「43cmだな、いいぞリューゼ!」

 「へへ、そりゃ俺だからな! 最後は貧乏人のお前だけだぜ? ……ってなんとか言えよ!」

 「……」


 俺は無言でリューゼの脇を通り、さっとジャンプしてボードを叩く。


 「40cmか、ラースもいい記録だ!」

 「ふふん、やっぱ俺が一番だな!」


 リューゼが鼻を鳴らしていきがるけど、もちろん俺は本気で飛んではいない。ノーラもかなり手加減してルシエールと同じくらいの高さにしていて、俺も制限をかけた。

 さっきの走り込みもそうだけど、トップを取らないことには理由があって、こいつにも痛い目を見てもらうつもりだからだ。兄さんを殺しかけた男の息子だからね、こいつには同じ目にあってもらうくらいは考えている。

 それに格下だと思っていた相手に差をつけられて負けるほど悔しいものはないだろう。こういう手合いは特に。


 ……俺の弟がそうだったからな。

 高校生の時だったか、一度だけゲームで圧勝したことがあったんだけど、弟のキレっぷりはやばかった。いきなり拳が飛んでくるとは思わなかったからだ。だけど、建設現場のバイトで鍛えた俺にはそれほど効かなかったし、カッとなって殴り返したところ、両親にひどく怒られたというくだらないエピソードがある。

 そこで両親の言いなりになるべきではなかったのだろうと今では思う。悪いことは悪い。それを叩きこむべき両親こそ悪だったのだ。


 そういう経緯から、俺はできる限りリューゼに対し『ルール』を遵守し、僅かではあるけど下になるよう調整するつもりなのだ。


 そしてみんながワクワクする魔法力のテストへと移行する。


 「じゃあ次は火魔法<ファイア>を使ってあの的に当てるテストだ」

 「わー! わたし魔法って初めて使うの!」

 「アタシも♪ ルシエールちゃんとノーラちゃんは?」


 クーデリカとヘレナは初らしく、目をキラキラさせている。ヘレナはルシエールとノーラへ声をかけると、意外な答えが返ってきた。


 「オラは少しつかえるー」

 「私はお姉ちゃんに教わったからできるよ」


 どうやらルシエールは姉に教わっているらしい。あの姉なら教えたがりそうな気がするなあ。兄弟とか姉妹ってこういう時に得だよね。

 

 「僕は独学でやってたから」

 「ウルカ、やるじゃん!」

 

 ジャックとウルカがそんな会話をする中、


 「僕は少々苦手かな?」

 「俺は【魔法剣士】のスキルなんだ、教えてやろうか! なあ、貧乏人お前にもよ」

 「ヨグス、コツを掴めばすぐにできるようになるよ」

 「無視すんなおい!」


 とりあえずリューゼを無視してヨグスに声をかけていると、ひとり、さっきまで威勢の良かった人物がなりを潜めていることに気づく。


 「一応聞くが<ファイア>が使えないものはいるかい?」

 

 ティグレ先生が手を上げてそう言うと、びくっとした後、彼女はそっと手を上げた。

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