第二十九話 体力測定①


 「よーし、揃っているな。体力測定は各クラスずらしているからここは君たちだけだ。もし出来なくても恥ずかしくないぞ! はははは!」


 着替えてグラウンドで待っていると、ティグレ先生がボードを持って体育座りをしている俺達へ声をかけてくる。妙にテンションが高いけど、こっちが素なのかな。


 「まずは走り込みから行い、次にジャンプ力、筋力、魔法力をチェックしていくぞ。最初の走り込みが恐らく一番きつい。ダメだと思ったらそこで中断して構わないからな?」

 「ふふふ、足がなるわ……」

 「僕はこういうの向いてないんだけどね」


 不敵な笑いを浮かべる黒髪少女のマキナ。それと真逆に疲れた表情で呟くのは読書好きのヨグスだった。後はウルカが渋い顔をしているくらいで、残りはそれほど不快感を示してはいなかった。


 「(他の連中がどれくらい走れるか分からない。俺とトレーニングをしていたノーラは多分ちょっと目立つから周りに合わせて走れ。俺はルシエールと同じくらいで走るつもりだ)」

 「(あ、そうなの? ルシエールちゃん可愛いもんねー。オラもそうするー)」


 まったく関係ない返しを受けつつも、意図は伝ったようでノーラはこくこくと頷いてくれる。グラウンドへ並ぶと、ティグレ先生が手を叩いてスタートとなった。


 「ほっ……ほっ……」

 「んっんっ」

 「ふたりとも一緒に走ってくれるの? ふう、ふう」

 「ああ、俺達もこういうのは初めてだし、ルシエールは昔から知っているから一緒に走ろうかと思ってさ」

 「オラもー」

 「ふふ、ちょっと嬉しいな。お友達ができるか心配だったから」

 「うんうん。オラも女の子の友達がいなかったから嬉しいー」


 そんなほわっと空気をまとうふたり。俺はこのふたりと走ることを選択して本当に良かったと思う。


 「うおおおおおりゃあああ!」

 「待ちやがれ! 俺の前を走るのは許さねぇぇぇ!」

 「そりゃ領主の息子である俺のセリフだろうがよ!?」


 清楚系に見えるマキナが叫びながら先頭を走り、ジャック、リューゼの順番で激走していく。見た目は黒髪ロングのお嬢様なのにまさかの脳筋だったとは……

 

 「すごいねー」

 「うん。あんなに飛ばして大丈夫かな?」

 「そ、そうだね」

 「あ、クーデリカ」

 「クーちゃん!」

 「えへへ……、わたしも一緒にいいですか?」

 「もちろんー」


 俺達の後ろから一周してきたマキナ達を眺めていると、少し前を走っていた【金剛力】のスキルを持つクーデリカが合流した。力は凄そうだけど、小柄だから体力は並かなとは思う。

 女の子が寄ってきて喜ぶノーラがクーデリカに笑いかけながら尋ねていた。

 

 「【金剛力】ってどんなスキルなのー? 聞いても良く分からなくて」

 「えっとね、は、恥ずかしいんだけど使うと力が凄く強くなるの……。例えば――」


 クーデリカがノーラの背後に回ると、ひょいっと腰から持ち上げてタッタッタと走っていく。

 

 「ひゃああん!? 凄いねー!」

 「そ、そうかな……女の子が力持ちって恥ずかしくて……」


 ノーラを降ろして顔を赤くする。ノーラはクーデリカよりも身長があるし、筋肉もついているのでそれを持ち上げるのは素直に凄いと思った。


 「冒険者希望だったら絶対役に立つスキルじゃない? 力は魔物を倒すだけじゃないからね。もし仲間が木や岩の下敷きになったりしたら、助けられるのはクーデリカだけの可能性もある。大岩を川に投げて魚を気絶させて採るみたいな使い方もできるでしょ?」

 「ほえー……そ、そうだね! わ、わたし役に立つよね!」

 「うんうん」

 

 俺がそう言って頷くと、パァっと顔を綻ばせてにこりと笑う。誰かになにか言われたのかもしれないけど、使い方次第で役に立つのだと自信をもって欲しいと思う。


 「私の【ジュエルマスター】も役に立つかな?」

 「そうだなあ。そのスキルがどれくらいものか分からないけど、俺はその能力欲しいなあ」

 「ふーん」


 もちろん、宝石を発掘して資金を得るためである。領主になるには少なくないお金を持っていなければならないため、尚更欲しい。何故か顔を赤くしたルシエールが素っ気なく答えると、みんな集中して走りだす。そこで、まだ二周目だけど、


 「ふう……これ以上は無理です」

 「お、そうか? お疲れさん、二周だな」

 

 ヨグスがここでリタイア。見た感じまだ余裕はありそうだけど、こういう泥臭いのは好きじゃないのかもしれない。


 「う、うふふふ……ど、どうしたのジャックにリューゼ君? お、遅れているわよ……」

 「く、くそ……体力おばけめ……」

 「……」


 すでに五周目に入った三人の速度が下がっていく。だいたい一周400mくらいのトラックを全力で走っていること自体おかしい。リューゼはすでに無言である。あいつ顔色がやばい。

 

 「ふう……! 僕ももう駄目! 悔しいなあ」

 「ウルカは三周と少しか、頑張ったじゃないか!」

 「あ、ありがとうございます……。僕、スキルが変だからこういうことでも頑張らないとと思ってるんです……」

 「目標があるのはいいことだぞ?」


 そんな中ウルカが走り終え脇へと転がっていく。見た目は気弱そうだけど、昨日の親父さんの剣幕などを考えると色々あるのかもしれない。


 「アタシもおーわり!」

 「ヘレナはまだ余裕がありそうだがいいのか?」

 「いいの♪ お肌に良くないからねー」


 恐るべし十歳ギャル。ヘレナも歌と踊りを目指しているからか、体力はありそうだ。


 「わ、私もう駄目……」

 「わたしも……」

 「あ、大丈夫ー?」


 と、ここでルシエールとクーデリカも四周目でギブアップした。俺達は全然平気なんだけど、疲れ方から見るともしかしたら気を使って無理して走っていたかもしれない……気づいてやれなかった……反省だ……


 「くそおおおお! もう駄目だ!」

 「ぐふう……」


 そしてついに、ジャックとリューゼが息絶え、走っているのはマキナだけになった。


 「あははははは! 勝った! この私が一番! 男の子に負けていられない――」

 「あ!?」


 高らかに勝利宣言をしたマキナ。しかし限界だったのだろう、次の瞬間足をもつれさせ前のめりに派手に転んだ。


 「……? 動かないよ先生!?」

 「おお!? ……大丈夫かマキナ!」

 「ふ、ふふ……ウィナー……」


 ディグレ先生が抱き起すと、鼻血を出しながらガクリと力なく首が下がった。一応、マキナのために説明しておくと、顔はめちゃくちゃ美人なんだ……


 「少し休憩ー! ちょっとマキナを保健室に連れて行く! ……今年は楽しくなりそうだな」


 そう言ってすたすたとマキナを連れて鋭い目つきをさらに吊り上がらせて建物へと向かっていった。


 しばらくすると鼻に詰め物をしたマキナが不敵な笑みをし、腕を回しながら帰ってくると、体力測定が再開される。次はジャンプ力だっけ? 

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