第二十八話 朝の挨拶とクラスメイト


 「行ってきますー!」

 「行ってくるよ」

 「気を付けてねー」


 入学式の翌日、俺と兄ちゃんは揃って学院へと向かう。自己紹介の後は本当に何もなく、昼前には教科書を揃え、体操着を貰い解散となっていた。


 「なかなか面白そうじゃない、ラースのクラス。僕のクラスは普通だからなあ……」

 「でもルシエラがいるじゃない」

 「あ、うん。でもあまり関わりがないんだよ?」

 「まあ、関わらないのが一番だとは思うけど……」


 ルシエラはトラブルメーカー臭がプンプンするからね。でもルシエールと関わったらセットでついてきそうだなと少々不安を感じる。


 「おはよー」

 「あ、おはようノーラ」

 「おはよう!」


 昨日話し合い、朝はノーラと待ち合わせをしようということになったので、道の途中でぽやんとした顔のノーラが挨拶をしてきた。俺は軽く挨拶し、兄さんはテンション高くノーラの手をとって歩き出す。

 

 「今日から授業だっけー?」

 「いや、体力測定とかじゃなかったっけ? 兄さんも最初はそうだったよね」

 「そうそう、みんなあの時、化け物を見る目をしてきたんだよね。僕はいつものトレーニングと同じ感じでやっていただけなのに。すぐに仲良くなれたけどしばらく寂しかったよ」

 「そうなんだー……オラだったら泣いちゃうかもしれないねー」


 俺達のトレーニングは暇潰しレベルでこなしていたけど、俺が作っていたメニューは厳しかったからなあ。そう思うと、数週間だけ働いたトレーニングジムのバイトは無駄じゃなかったなと思う。


 さて、そうなると俺とノーラも注意しなければならない。俺は当然【超器用貧乏】で体力はかなーり振り切っている。一度、10kmくらい家とベルナ先生の家を往復したけどほとんど疲れなかったからね。

 大人と比べたらどうか分からないけど、同世代は確実に凌駕しているはず。ノーラもふんわりしながらもメニューをこなしているので、ダンシングマスターのヘレナ達には勝っていると思う。


 「それじゃあお昼にー」

 「うん!」


 兄さんとノーラが手を振って別れた後、俺はノーラへ言う。


 「今日の体力測定、あまり本気でやるなよ? 兄さんみたいになるから」

 「あ、そうだねー。でも、オラはラース君がいるから寂しくはないけどねー」

 「……」


 えへへー、と笑うノーラ。そのセリフはお互い独り身の時に聞いていたら破壊力抜群だったと思う。至極残念である。

 まあ、それを言っても始まらないので俺は俺で青春を探そう。幸いクラスは男女半々だからね。


 ……ま、復讐が終わるまではそんなことを考えている間は無いかもしれないけど。


 ガラリとクラスの扉を開けて俺とノーラが入って行くと、


 「おっはよー♪ おお、ノーラちゃんと登校? もしかして彼女?」

 「いや、違うよ。俺の兄さんの彼女なんだ。手を出したら兄さんに何されるかわからないよ。とりあえずおはようヘレナ」

 「およ、名前覚えててくれたんだ? ラース君やるぅ♪」

 「おはよーヘレナちゃん」

 「んふー、ぽわぽわしてノーラちゃん可愛いぃ」

 「わわ……」


 と、上機嫌でパチンと指を鳴らしてノーラに抱き着いていたのはヘレナだった。俺はカバンを置きながらヘレナに返す。


 「十人しかいないんだ、覚えられるって。なあジャック?」

 「おお、ラースかおはよう! んだなぁ、今年は俺達の歳の子共は少ないらしいぜ。何か王都の学院で王子が入学するからそっちに女の子を入れる親が多かったってよ」

 「へえ、良く知ってるね」

 

 俺が意外な情報を持っているなと感心していると、その横に居るヨグスに首を向けて聞いていた。


 「だよな、ヨグス!」

 「朝から声が大きいんだよ君は……。そうらしいよ、まあ女の子が王子に気に入られればと思えばチャンスだからそうなるんじゃない? 僕たち男にはどうでもいい話だよ」

 

 と、ヨグスは本に戻り、ジャックはウルカに話しかける。王族なら確かにワンチャンスあるだろうなあ。例えばお姫様が学院に入学したとしたら、本人の意思はともかく名前を覚えてもらって損はない。

 上司にゴマするサラリーマンみたいだなとどうでもいいことを考えていると、次々にクラスメイトが教室へ入ってくる。


 「おはようルシエール」

 「おはよう、あふ……」

 「おはよー」


 定番である一番後ろの窓際が俺の席で、前がノーラ。隣の席がルシエールという配置で、ヘレナの手から逃れたノーラが席に着きふにゃっとルシエールに挨拶をすると、あくびをかみ殺したルシエールがつられてふにゃっと返す。


 「眠そうだね、どうしたの?」

 「あ、うん。昨日お姉ちゃんが私のクラスのことを根掘り葉掘り聞いてきてなかなか眠れなかったの」

 「仲いいねー。デダイト君とラース君みたい」

 「お姉ちゃんは興味あることはぐいぐい来るの。昨日はラース君と私の――」

 「俺?」


 俺の名前が出てきて聞き返すと、ルシエールが慌てて首をぶんぶん振って言う。


 「な、何でもないよ! うん、なんでも!」

 「逆に気になるんだけど……」


 あの姉なら何かあってもおかしくなさそうだし、警戒しておくにこしたことはないか。そして鼻歌交じりに入ってくるマキナと、ドヤ顔のリューゼが最後に入ってくると全員が揃う。

 しばらく雑談をしていると、スーツではないラフな格好をしたティグレ先生が入ってくる。


 「よし、静かに! 全員出席しているな。今日は体力測定だ。学院では語学や数学を主にやっていくが、剣術や魔法もやっていく。もちろん得意でない子もいるだろうけど、己を知っておくのは良いことだ。なぜなら無茶をしなくなるからだ。こういえば体力測定もその一つだということが分かると思う。それじゃ着替えてグラウンドへ行こう」


 話を聞いてよく考えているな、と思う。

 日本の学校というのは詰め込み方式で、集団生活と与えられた課題の出来で能力の優劣を決めるけど、ここは個の能力を尊重している感じがする。何故かというと、

 

 『得意でない子もいるだろう』


 この言葉が出たからである。

 『できたか、できなかったか』で判断するのではなく『向いているか、向いていないか』で評価をするのではないかと思った。

 これって似ているけど、全然違って……って今は関係ないか。とりあえず着替えてグラウンドへ向かわないとね。

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