第二十七話 癖が凄いやつら


 ガチの怖い顔をしているティグレ先生に窘められ大人しくなったブラオとリューゼの親子。

 父兄も少し顔を引きつらせ、生徒は緊張し背筋が伸びていた。そんな空気の中、ティグレ先生はぎこちない笑顔のまま話を続ける。

 

 「さて、今日は教科書を確認したら帰るだけなんだが……親御さんもいることだし、自己紹介をしてもらうおうかな。お……私に君たちのことを教えてくれるかい」


 うん、顔は怖いけどやっぱりいい人なんだろうなと思う。ただ、時々『俺』って言いそうになっているところを見ると、口は悪いのかもしれない。

 そんなこんなで始まった自己紹介だけど、俺、ノーラ、ルシエール、リューゼは顔見知りなのでそれを除くと残り六人。


 「ヨグスです。読書が好きです。スキルは【鑑定】。よろしく」

 「ふむ、読書に鑑定は相性が良さそうだな。よろしくなヨグス」

 「はい」


 ひとり目はヨグスという眼鏡の男の子で、冷静・クールな感じで自己紹介も短い。……と言えば聞こえはいいけど、本を読むと自分ひとりの世界に入り込みそうな感じの冷たい印象を受けた。勉強ができそうだけど、友達はできなさそうなタイプだ。

 というかスキルも紹介するもんなんだなと、頬杖をついて聞く。成長したら弱点になりそうだけど、そのあたりはどうなんだろう?


 「よし、ヨグスだな。じゃあ次だ」

 「は、はい! わたしはクーデリカです。スキルはこ……【金剛力】、です……は、恥ずかしい……」

 「がんばってークーちゃん!」

 「はは、お母さんかな? クーデリカだな。女の子で金剛力とはなかなか珍しいな。将来なりたいものはあるのかな?」

 「は、はい、ミズキさんみたいな冒険者になりたいです!」

 「なるほど、ならスキルを磨くときっと助けになるぞ! ……メモメモ……」


 ふたりめはオレンジ色をした短めのツインテールを揺らす女の子、クーデリカ。両手をグーにしてわたわたと立ち上がり自己紹介をしてくれた。怪力って感じのようなスキルだけど、女の子にそれはどうなんだろう……そういやあの悪魔がランダムだって言ってたからこういうこともあるんだなと納得する。


 「じゃあ次は……」

 「俺だな! 俺はジャックってんだ、よろしくなみんな! 将来はウチの魚屋を継ぐつもりだからみんな買いに来てくれよな! スキルは【コラボレーション】ってんだ!」

 「元気がいいな! 鍛えがいがあり……んん、魚屋で使うスキルじゃないけど、もしかしたら面白いことになるかもな。野菜を売っているローエンさんのところとコラボ、とか……?」

 「よろしくなー!」


 三人目のジャックがそういって座る。この町は海からは遠いので仕入れは結構大変で、基本的には川魚や湖の魚になる。だけど海がある町からどうにかして移送することで海魚が食べられるのだという。だけど、俺も見たことあるけど高いんだよね……


 「ありがとうジャック、じゃ次――」

 「はいはーい! 次はぁ……ア・タ・シ♪ 超かわいい、ヘレナちゃんでーす! スキルは【ダンシングマスター】で、いつか王都に行って演劇デビュー予定でーす♪ 応援よろしくぅ」


 ハイテンションで椅子から立ち上がり、ガタンと椅子が倒れて自己紹介。そして、ちゅっと俺達に投げキスをする薄い褐色の肌をしたポニテ女子。それが四人目のクラスメイトであるヘレナだった。

 

 「ダンシングマスターとはなかなかレアなスキルじゃないか。歌と踊りが得意なのか?」

 「歌はねぇ、全然だめなの! でも、踊りは自信あるよー?」


 ウインクしながらくねくねと腰を捻るヘレナは実に楽しそうだった。顔も可愛いし、アイドルになれば売れそうだなと前世で見ていたことがあるアイドル養成番組を思い出す。


 「王都でチャンスをつかむのは厳しいが、ゼロじゃない。きちんと勉強をして頑張っていこうな」

 「はーい!」

 「やっぱり王都は学歴でしょ? 高いお金を払う価値はあるかなって思ってさ」


 後ろではやはり褐色の母親がけらけらと笑いながら周りの親御さんに話しかけていた。入学金は結構高いんだけど、仕事はなんなんだろう……見た目は結構チャラい感じの人なんだけど……

 俺がそんなことを考えていると、五人目が手を上げて席を立ち口を開く。


 「もう、あたしの番でいいでしょうか?」

 「ああ、ヘレナもういいかい?」

 「はーい! ……アンタ、ちゃんと自己紹介できるのぉ?」

 

 ヘレナは次に席を立った女の子にいやらしい目を向けてそんなことを言う。だが、気にした風もなく、黒髪ロングの子は凛とした表情で背筋を伸ばして言う。


 「あたしはマキナ。スキルは【カイザーナックル】。あたしにちょっかいをかけたら……」


 ひゅひゅん……


 「叩き潰すわよ」

 「す、すごいねーあの子。オラ、手の動きが見えなかったよー……」


 ノーラの言う通り、ニヤリと笑うマキナの手の動きは早く、実はグーチョキパーをしていたことは多分俺にしか見えていないと思う。ヘレナが渋い顔をしているところを見ると、仲が悪いのかもしれない。


 「将来は王都で騎士希望です。よろしくね」

 「は、はいー!」

 「んー!」


 マキナはノーラとルシエールににこりと笑いかけ、ふたりは慌てふためいていた。ルシエールはよほど驚いたのか謎の返事なのが可愛かった。

 

 「女騎士かあ。最近人気だから、カイザーナックルを鍛え上げれば多分いけると思う。頑張っていこう!」

 「はい」


 そういって静かに着席すると、ティグレ先生が六人目を指名する。そういえばずっと下を向いて俯いている男の子がいるなと気づく。


 「えーっと、ウルカ君だったかな? 自己紹介を」

 「あ、は、はい……」

 「頑張れ、息子よ……!」

 「と、父さん、恥ずかしいからやめてよ……ぼ、僕、ウルカです。【霊術】のスキル、です……」


 また怪しいスキルが出て来たなあ……でも正直興味がある。霊と会話するとか、アンデッドを操るとかだったら面白そうかなって思う。まあ、この手のスキルは【超器用貧乏】じゃ手に入らないから見てみたいってのはあるけどね。

 そこで、リューゼが頭を後ろに組んでから口を開いた。


 「幽霊が見えるとかそういう能力だろ? 気持ち悪いよなー」

 「こら、リューゼ君、そういう言い方はダメだ!」

 「はーい」

 

 ティグレ先生の怒りにも悪びれた様子もなく返事をする。怖くないのかなと思っていたけど、冷や汗をかきながら目を逸らしていたので虚勢のようだ。


 「ぐぬぬ……俺の息子は気持ち悪くなんてない……! 時代はスキルじゃない! 賢さだー!」

 「平民子などこんなもんだろう? 落ちこぼれは大変だな」

 「子供には関係ないだろう! それに落ちこぼれでもないわ!」

 「領主に逆らうのか貴様……!」

 

 ウルカの親父さんは熱血タイプのようで、あまりの言い草に激怒してブラオに食って掛かっていた。ぎゃーぎゃーと騒ぐ外野に父さんたちが止めようとしたところで――


 バン!


 と、先生の机が大きく響いた。そして――


 パキパキパキ……


 「ブラオさん、権力の行使は……」

 「あ、ああ、分かっている! その手をパキパキさせるのはやめろ!」


 机にひびが入っているのも見逃してはいけないけどね……そんな感じでウルカは顔を真っ赤にして椅子に座り、うやむやとなった。


 「ノーラですー。【動物愛護】のスキルを持ってますー! よろしくねー」

 「可愛いわよノーラちゃん!」

 「あははー……」


 母さんがノーラの自己紹介で興奮し、


 「リューゼだ! スキルは【魔法剣士】のレアスキル持ちだ! 俺の子分にしてやってもいいぞ? 次期領主はこの俺だ! ぐあ!?」

 「まだわかっていないようだから拳骨だな」


 リューゼがついに拳骨を食らい、いよいよルシエールの番だ。


 「あ、えっと、ルシエール=ブライオン、です。実家は商家をやっていてスキルは【ジュエルマスター】っていう鉱石を見つけたり加工したりするスキルなの。よろしくね」


 昔よりはっきりとした口調でにっこりと笑うルシエールには苗字があった。貴族かと思ったけど、商家は儲けがあれば貴族並みの待遇があるらしいので納得だ。

 しかしそれよりも鉱物資源をどうにかするスキルとは……渋いな……見た目の可憐さから想像できず、何故か建設現場服を着たルシエールを想像し苦笑する。


 「……おい、何笑ってんだお前? お前の番だぞ、貧乏人」

 「ああ、俺の番か」

 「チッ……」


 リューゼの嫌味にはいちいち一喜一憂してやらないと決めているので、俺は席から立ち自己紹介をする。


 「俺はラース=アーヴィング。スキルはハズレだって言われた【器用貧乏】」


 そこでみんなからどよめきが起こる。俺は気にせず続ける。


 「でもスキルとは関係なく仲良くしてほしいです。もしかしたらハズレスキルのせいでみんなの手を借りることもあるかもしれないけど、その時は協力してくれると嬉しいです」

 「うん、いいことだ。ひとりで生きることはできない。かならず誰かを頼ることになるのだ、今からそれを考えられているのは凄いぞ! 鍛え……こほん。さ、これで全員だな。今後はこの十人で切磋琢磨していくから頑張ろう!」


 ティグレ先生がそう締めて自己紹介は終わった。


 さて、癖のありそうなクラスメイトだけどどうなることやら。俺は期待と不安を同居させながら椅子に背を預けた。

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