第十七話 スパルタ指導のベルナ先生
「はい、そこで集中力を切らさないー」
「うぐぐ……」
「ふぬー」
「んー」
今日も今日とてベルナ先生のところで魔法の訓練をする俺達。久しぶりにノルトもやってきていたので三人揃っての訓練だった。
全員、基本的に魔法を『放つ』ことはできるようになったんだけど、先生が次に指導をしてきたのは『とどめる』ということだった。
……どういうことか? それは文字通り、出した魔法を対象物に当てるのではなく、棒の先に出した魔法をとどめるのが目的である。
「こういう感じねぇ」
と、棒の先に火を灯すベルナ先生。簡単そうに見えるんだけど実際やってみると上手くいかない……。
『放つ』というイメージはボールを投げるような感じで問題なく、この前ブラオへ飛ばしたようにふよふよと飛ばしたのはフッと息を吐いたような感覚でやった。
「あ、ああ……飛んで行っちゃうー」
「火が落ちた……」
兄ちゃんとノルトがファイアの火を制御できず失敗する横で、俺は何とか棒の先に火をとどめることができた。
「んんん! こ、こうだ……!」
「あー、ラース君凄いー!」
「く、くそ、僕だって……!」
俺はライターやマッチの火をイメージをしてなんとかとどめることができたが――
ゴウゥ!!
「うわっち!?」
「あら、大変! <ウォーター>」
「つめたっ!?」
「「ぽかーん……」」
力を入れすぎたのか俺の棒からとんでもない火柱が出た。兄ちゃんとノルトがあんぐりと口を開けて驚いていたが兄ちゃんのやる気に、文字通り火が付いたのか棒に魔力を込めて訓練を続ける。
そして二人がいないときは――
「はい、この桶を<ウォーター>でいっぱいにしてくださいー」
「ええ!? 俺、まだコップくらいしか……」
「いっぱいにしましょう♪」
「あ、はい」
またある時は……
「<ウィンディ>で落ち葉を集めて<フレイム>で燃やしてねー? ああ、もちろん火は<アクアスプレッド>で消化すること」
「全部、中級クラスの魔法なんですけど……」
「あーあー、聞こえませーん」
と、ベルナ先生は鼻歌交じりに無茶を要求してくるという、何気にスパルタ教育者だった。まあ、俺ができるであろうという、あと一歩、かゆいところに手が届くかどうかの微妙なラインを見極めて要求してくるからタチが悪い。だけど、その成果があって俺の魔法はかなり上達した。
兄ちゃんとノルトもその辺の同年代よりは確実に魔法を使うのがうまくなっている。先生は見せびらかしたり、不用意に使わないようにと俺達に口を酸っぱくして言うのでそれを守っていた。もちろん、ベルナ先生に嫌われたくないからね。
そして月日は流れ――
「<フレイム>!」
ゴゥゥゥ……
「あ、凄いわねー。もう中級魔法をとどめておくことができるようになったのねー」
「へへ、教え方が上手いからだと思うよ! 次は何を教えてくれるのかな?」
「そうねぇ。古代魔法、チャレンジしてみる?」
「ついに!?」
――ブラオに復讐すると誓いを立てたあの日から早三年。俺は八歳になっていた。
この頃は、年長さんとして下の子の面倒を見ないといけないからと孤児院にいてノルトもあまり顔を出せず、兄ちゃんは学院への入学準備で大忙しとなり、ほとんど俺一人でここに来ていた。
たまに薬草を買いに母ちゃんと来るけど、今は兄ちゃんのことで手一杯。……兄ちゃんにつきっきりでなんとなく寂しい感じはするけど、俺のことを蔑ろにしているということはないので、精神的余裕は問題ない……はず。
兄ちゃんが学院へ入学することで、きっと面白いことになると思う。正直【超器用貧乏】で、鍛えれば鍛えるほど俺の身体能力はかなり高くなったけど、兄ちゃんとしてカッコ悪いところは見せられないと頑張った結果、気力、体力、時の運……もとい、剣術、体力、魔法力は同じ十歳相手で勝てるやつはいないであろうレベルまで高まっている。
このことでひとつ分かったのは【超器用貧乏】の特性。鍛えて、楽になったルーチンを繰り返しても能力は上がるんだけど、ベルナ先生のように少しきついな、と思えるトレーニングをすると効果が高いみたい。 だから、一回のトレーニングで兄ちゃんが二%あがったと仮定すると俺は三%。でも負荷をかけると四%になるって感じかな?
さて、八歳になった俺はついにベルナ先生から【古代魔法】の習得にOKを貰えた。実はこの古代魔法、本で読んだ限りハチャメチャな魔法で、姿を消す、空を飛ぶなどは基本魔法。
完全に習得できれば自身をドラゴンに変えたりすることもできるのだとか。だけど『どうやっていい』のかは使い手の思考にどれだけ柔軟性があるかにかかっていて、『できる』と信じて疑わない心も必要なのだ。
確かに、姿を消すとか空を飛ぶのは荒唐無稽だから、前世なら鼻で笑い飛ばしていたと思う。
「ラース君は魔力がどんどん上がっているけど、古代魔法は魔力だけじゃ難しいからねー? じゃあ、ちょっと消えてみましょうかー」
その瞬間、フッとベルナ先生の姿が消える。俺が「あ」と間抜けな声をあげたその時、俺の背後に立って肩を揉むベルナ先生が現れた。
「ふう……この距離でも疲れるわねぇ。古代魔法は魔力をかなり消費するから多分消えても一分とかくらいかも? さ、やってみて? 魔法は<インビジブル>と呟くのよー」
まあ消える魔法なんてあったら犯罪やり放題だし、制限時間があるのはわかる気がする。けど、それより簡単に言うけど、
「何も口にせず魔法を出す化け物先生め……」
「なにかしらー?」
「いひゃい!? 頬を引っ張らないでよ!? ……もう、じゃやってみるね? <インビジブル>」
すうっと体が冷える感覚があり、俺は成功したと直感で思う。ベルナ先生はそれをくみ取ってくれたのか手鏡を目の前に出してくれた。
「や、やった! 一発成功!」
「だと思ったでしょう? ふふ、よーく見てぇ?」
スッと鏡を下に向けると、俺の下半身はばっちり出ていた。かなり気持ち悪い……
「うわあ……あ、体が凄くだるい……」
スゥっと鏡の向こうにあった下半身から上半身が生えるように姿が現れ、俺は尻もちをつく。ベルナ先生が疲れたと言っていたけど、これ相当魔力をくうなあ。
「まあ、最初はこんなもんよー♪ 休憩したら今日は終わり。また今度、ね」
「はーい!」
元気よく返事をする俺だけど、鼻歌を歌いながら家へ入るベルナ先生の背中を見てふと気になる。
「(この人はいったい何者なんだろう……)」
それを聞くのはなんとなく憚れると思うのはなぜだろう。
そして兄ちゃんが学院へ入学する日がやってくるのだった。
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