第十四話 運命の収穫祭①
ポーン! ポポン!
「うおおお、町だあ!」
「町だー!」
「お前らテンション高いなあ」
――ベルナ先生との魔法訓練から早二週間。俺、兄ちゃん、ノルトは差があるものの徐々に魔法を使えるようになってきた。
……まあ、ノルトが雑草を燃やしていい感じに火事になりかけたり、兄ちゃんが花畑に水をやりすぎて水浸しになったりとまだまだ制御は必要だけど。
俺は最初の三日間、兄ちゃんたちと同じように火が大きすぎたり無駄にでかい落とし穴ができたりとまあ、二人のことは言えないレベルだった。
だけどある時、急に『あ、なるほど』と理解できるようになり、今では焚火をするくらいの火は出せるようになった。何度も使ったので【超器用貧乏】で成長したのだろうと予想する。
二週間でこのレベル……もしかしてかなりやばいスキルなんじゃないかなと恐ろしくもあったけど。
それはともかく、今日から三日ほど収穫祭が始まり初日の今日、俺は家族で町へと繰り出していた。ニーナは実家に帰ると言って途中で別れた。どこかに家があるのだろう、いつか行ってみたい気もする。
「さて! 今日はふたりも初めての町だ、屋台で買い食いしながら歩くぞー」
「「おー!」」
「あ、焼き鳥だって、あれにしましょう」
そこからは怒涛の町内巡り。
「おー、ローエンさん! また野菜頼むよ。最近美味いって評判だぞ? 息子さんかい、初めて連れてきたねえ」
「はは、下の子も大きくなってきたからそろそろお祭りくらいはいいかと思いましてね」
「マリア、この前の薬効果が凄いってギルドから評判いいよ! ちょっと多めに頼めないかねえ……?」
「いいですよ。ちょっと材料を採りに行くから収穫祭が終わってから納品しますね」
ちなみにマリアは母ちゃんのマリアンヌの略称らしい。俺と兄ちゃんがそろってびっくりして顔を見たのが面白かったらしく、お店の人にも笑われていたのは恥ずかしかった。
他にも冒険者ギルド、俺達が通うであろうオヴリヴィオン学院といった場所にも案内され、買ってもらった串焼きやホットケーキのようなお菓子に果物のジュースに舌鼓を打ちながら楽しく過ごす。
ただ――
「おや、ローエンさん。こんなところで贅沢してていいのかね? 息子、二人もいたのか。金が無いのに生意気な……」
「まったくだ。なあ、マリアこんなやつと別れて俺と暮らそうぜ? 金はこいつよりあるからよ」
「お断りよ。行きましょみんな」
「ああ。金はあるんだ、息子を学院に通わせないといけないんでね? では失礼するよ」
と、一部俺達を見かけたら因縁をつけてくる者が何人もいたことが最悪だった。俺と兄ちゃんが困惑顔で立っていると、兄ちゃんを見ながらひとりの男が口を開く。
「チッ……長男のせいでおまえは――」
「! それ以上言うなら、俺も黙ってはおれんぞ! 息子は関係ない! 黙っていろ!」
「お、おい、行こうぜ……」
「くそ……」
父ちゃんがものすごい剣幕で男の胸倉を掴み締め上げると、男たちは慌ててどこかへ逃げ去っていった。今度こそ本当に見たことない、激怒という言葉がぴったりの父ちゃんが俺達の目線に気づき、兄ちゃんを抱っこして言う。
「あ、あはは! ああいうタチの悪いやつらがいるんだよ、だからお前たちには町に近づいてほしくないんだ。できれば、もうちょっと大きくなるまで、な? 学院に通うようになったらここを通るからそれまでは我慢してくれ」
「うん……父ちゃん、お金大丈夫? 僕学院行かなくてもいいよ? ベルナ先生に魔法を習うから」
その時、父ちゃんは一瞬泣きそうな顔になったのを見逃さなかった。もしかしたら無理をしているのかもしれないと俺は母ちゃんの手をぎゅっと握って早く楽させてやりたいと強く思った。
「さ、それじゃもう少し遊んだら帰りましょうか。まったく、不愉快な連中よね、相変わらず」
「ま、仕方ないさ。行こう」
「うん! ……あれ……?」
スッと道の角を曲がった女性に目が行く俺。今のはニーナじゃなかったかな? あの三つ編みは間違いないと思う。もしかしたら実家はこの近くかな?
俺はいたずら心が芽生え、サプライズで家を尋ねてみようかと考える。
「ねえ、ちょっとトイレへ行ってきていい? すぐ戻るから!」
「え? そうだな、家までは丘があって遠いし……我慢できないか?」
「ちょっと難しいかも!」
「ラース大丈夫?」
「うん! すぐ戻るよー!」
兄ちゃんにそう言われチクリと胸が痛むが、俺は素早くニーナの後を追う。広場のベンチで待ってくれると言っていたので帰りは問題ないと思う。
さて、問題のニーナだけど、歩くのはゆっくりだしすぐ追いつくだろう。そうと思っていると、後ろ姿を発見する。
「やっぱりニーナだ。ふふ、驚くかな?」
てくてくと歩くニーナはいつものメイド服ではなく、おしゃれなワンピースだった。そういえば眼鏡もかけている。
もしかして彼氏とデートだったりするかも? だったらそれは邪魔しないでおこうと考えていると、祭りのある屋台の場所とも、住宅が立ち並ぶ場所とも違うところへ向かっていることが分かった。
「……? こっちはもう家は無いけど……あ……」
ニーナが向かっていたのは大きな屋敷だった。一瞬、キョロキョロと周囲を見渡した後、ホッと一息ついて、玄関へ続く道に入り大きな屋敷を目指して歩いていく。
「ここってもしかして……」
俺の考えの答え合わせをしてくれるように、玄関でニーナに向って声をかける人物が目に入る。
「よく来たなニーナ。父上がお待ちだ」
「(あいつはリューゼ……! やっぱりここは領主の屋敷だったんだ。でもどうしてニーナがこんなところに……?)」
俺は庭の木々に隠れながら屋敷の庭に侵入した。
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