第十三話 魔法使いの心得


 「そ、それじゃあ魔法についてお話するね」

 「はーい!」

 「どきどき」

 「わくわく……」


 母ちゃんとの会話が一息ついて、俺達は外にある丸太に腰かけてベルナさんを前に話を聞く態勢になり、元気よく返事をする。


 「……これも、これも欲しい……でもお金が……薬を売れば元は……デダイトの学院入学料はあと少しだから……」


 母ちゃんは近くの薬草が栽培されている一帯でぶつぶつと物色しているのが見え、息子としてはありがたい。最近、両親のおかずが減っているのは気のせいではなく、貯蓄に回しているらしかった。

 後三年で兄ちゃんは学院に入学できる年齢、十歳になるので計画的だなと思う。薬の作成によっては楽できるかもしれないと思うと、ベルナさんと会ったのは良かったのかもしれない。

 そんなことを考えながら母ちゃんを見つつ、ベルナさんの話に耳を傾ける。


 「えーっと、魔法は魔力が必要なんだけど、これは誰でも持っているの。だ、だからみんなも使えるから安心してね。でも、ひとつ注意点があるからよく聞いて?」

 「うん」


 俺が頷くと、口元だけがにっこり動きその注意点を話し出す。それも俺達に分かりやすく簡単に。


 「魔力は人によって持っている量が違うの。走ったら疲れるでしょ? でも同じ場所まで走って疲れる人と疲れない人がいるよね。それと同じことが魔力でもあるの。だから魔力量以上の魔法を使うと疲れるし、気を付けないと気絶しちゃうの。だから簡単な魔法を何回か撃って、どれくらい魔力があるのか確認してね」


 魔力は体力に似ているそうだ。あんまり無理すると気絶……やんわり言っているけど、下手をすると命に関わりそうな気もする……。無意識に手をグッパーしていることに気づき、俺は姿勢を正す。


 「次に、魔法の種類ね。わたしが得意なのは攻撃魔法なんだけど、他には身体能力をあげる補助魔法、傷を癒す回復魔法、それと生活魔法が基本ね」

 「基本、ってことは他にもあるの?」


 俺が手を上げて聞くと、口を『お』という感じで開けたベルナさんが俺の頭を撫でてくれる。


 「うんうん、賢いねラース君は。そう、他にもあるの! 姿を消したり、空を飛んだりする古代魔法が!」

 「古代魔法!? そんなのがあるの!」

 

 兄ちゃんは本で一通り魔法についての知識を得ており、もちろん俺も本を読んでいるので基本の説明はわかっている。なので兄ちゃんが驚くのも無理はない。そして古代魔法についての記述を目にしたことがないので、俺も驚いていた。


 「古代魔法……それってどんなやつなの?」

 「んー、今はまだ教えられないかなぁ。まずは基本魔法を覚えてからだし、多分古代魔法は使うまでに年月を要するからね」

 「特殊なスキルが必要とかー?」

 

 ノルトが俺の真似をして手を上げて言うと、ベルナさんが首を振る。


 「魔法は特殊なスキルって必要ないからそうじゃないの。わたしは【魔力増幅】のスキルを持っているけど、関係ないからね。【魔法の効率術】みたいな知識系のスキルを持っていたら早いかもしれないけど」


 なるほど……魔法は特殊な位置づけじゃないから誰でも使えるけど、その中で難しいものはスキルがあれば習得しやすいけど、それが無い場合習得は何年もかかるって感じなのかな。


 「どれくらいかかるとかって知ってるの?」

 「人によるけど……古代魔法は四十歳くらいになってようやくって人もいたよ? だから今は基礎をやろうねー♪ ふんふんふふーん♪」

 

 小さい子に話しかけるように……いや、小さい子の俺達に鼻歌交じりで楽しそうに何か棒を用意し、俺達に握らせてくる。親指の先っぽみたいな大きさのガラス玉がついていた。


 「これは?」

 「杖に見立てた棒よー。これを使って振れば魔力が少なくても発動するから。ちょ、ちょっとやってみましょうねー<ファイア>」

 「おー」


 そう言ってベルナさんが魔法を使い棒の先から小さい炎が出た。ノルトは丸太から立ち上がってぱちぱちと手を叩くのが微笑ましい。

 

 「さ、やってみて」

 「「「はーい!」」


 元気よく返事をし、各々棒を振って魔法を使う。


 「ファイア!」

 「ファイアー」

 「ファイア」


 ぷすんと、なんだか煙のようなものが棒の先から出るだけで火は全くでなかった。その様子を見てベルナさんがにこにこと頬に手を当てて口を開く。


 「なかなかでないでしょ? そうねえ『火よ出ろー火よ出ろー』ってどんな火を出したいか考えながら使うといいかな?」

 「うーん、難しいなあ」

 「デダイト君、がんばろうー」

 「イメージが大事なのか……」


 そしてそこからさらに数時間――


 「ファイアァァァ!」

 「ふ、ふぁいぁ……はあ……はあ……」

 「フ……<ファイアアアアア>!!」


 すでに三人とも体力の限界で、半ばやけくそに叫んでいた。だがその時、ボッ! っと俺の棒から火が灯ったのだ。


 「お、おおおお!? で、出た! 今出たぁぁぁ!」

 「ラース君、すごいすごいー!」


 ノルトが俺の手を取ってぴょんぴょん跳ねて労ってくれる。正直、やっとでたという印象で、これほど苦戦するとは思っていなかったりする…… 


 「あ、ラース君は出たね! どう、結構難しいでしょう? でも魔法が使えると便利だから、覚えると色々できるようになるから頑張ろうねー。でも、いたずらで人に向けて撃ったり、動物に使ったりしたらだめですからね? そういうことをするといつか自分に返ってくるんです!」

 「うん。兄ちゃんやノルトが火傷したら俺、嫌だしね」

 「そうだね……そう思ったら怖いかも」


 兄ちゃんが不安げに言うと、ベルナさんが笑いながら俺達の頭を撫でてくれる。


 「そうそう、そう言う気持ちが大事なの。さ、今日は初日だからこれくらいにしましょうか、いただいたケーキを食べましょう」

 「うん! 次は僕も火を出すよ、ラースには負けられないもんね!」

 「兄ちゃんならすぐできるよ。めちゃくちゃ踏ん張ってたし」

 「うう……」

 「オラもがんばるよー」

 「うんうん、すぐできるようになるよ」

 「そういえばもうベルナ先生って呼ばないとね」


 俺が言うと、あわあわとベルナさんが口を開く。


 「ええ!? わたしが先生ー?」

 「うん。なんか教え方が先生みたいだった。魔法の先生だよ。それにどもらなくなったもんね!」

 「あ! 生意気言わないのー」


 ベルナさんの手から逃れ、俺達が家に戻ろうとしたら栽培場所から出てきた母ちゃんと鉢合わせる。手にはたくさんの薬草をもってほくほく顔だ。


 「あら、終わったの? やー、ベルナは本当にすごいわ。これ、買っていい?」

 「そ、そんなにですかー!? ぜ、全然いいですけど使えるんですか?」

 「スキルが無いと調味か添え物にしかならないんだけど、これなんか――」


 と、また母ちゃんのうんちくが始まったのだった。母ちゃんも楽しそうだからいいけどね。


 そのあとはみんなでケーキを食べて、帰宅。

 だけどいつもと違い、お風呂に入った後、どっと疲れが出た。これが魔力を消費したってことなのかな? 

 次の日には兄ちゃんもノルトも火を出せるようになり、ベルナさんがお菓子を作ってくれ、みんなでお祝いした。町の買い出しはいつも父ちゃんが行く町じゃなくて、逆のふもとにある町の方が近いらしい。

 

 とりあえず魔法が使えるようになったことを喜び、新しい毎日を過ごすことになる。

 

 そして、俺……いや、俺達家族にとって初めての収穫祭が訪れた。俺はついに、両親の隠していた謎を知ることに――

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