第十二話 母ちゃんと魔(法使い)女
「――というわけで、魔女は悪い人じゃなかったんだ。俺や兄ちゃん、ノルトを助けてくれたのはベルナさんなんだよ」
「うーん。確かにノルトもそんなことを言っていたとは聞いているが……お前たちだけで山奥へ行くのはなあ……」
「父ちゃん、僕も魔法を使ってみたいよー」
ノルトが見つかってから三日。
俺達に拳骨をするくらい父ちゃん達は怒っていたので、ベルナさんのことを話すのは少し待とうと兄ちゃんと示し合わせて、今日事情を話した。
思った通り話を静かに聞いてくれ、父ちゃんは思案する。……まあ熊に襲われたことを兄ちゃんが話したので親としては危険な場所に行ってほしくはないだろうから仕方ないけどね。
ノルトも助かった経緯を町の人にベルナさんのことを話していたみたいで、図らずも魔女の存在は一部の人に知れ渡ることになった。
こうなると、魔女は危険だとか言われて山狩りが行われたりしないかを心配していたけど、ノルトが無事に帰ってきたし、今まで被害もないからと誰も気にしなかった。呑気ではあるけど、俺は町の人の優しさに嬉しくなった。
……それ故に父ちゃんと母ちゃんのことが気になるんだけど、ね。
というわけで、ベルナさんのところへ遊びに行きたいと懇願しているんだけど、なかなか首を縦に振らない父ちゃんに、黙って聞いていた母ちゃんが口を開く。
「どっちにしても助けてくれたお礼はしたいし、挨拶にはいかないとね。女性だから私がこの子たちに付いて行く。それでいいかしら?」
「確かにお礼はしないとな。ならマリアンヌ、お願いしていいか?」
「もちろんよ! じゃあ、準備があるから明日行きましょうか」
「やったー!」
「魔法だ魔法だ!」
俺達は小躍りして喜んでいると、ニーナがリビングへ入ってくる。
「ノルトちゃんが来ましたよー。今日もトレーニングですか? 飽きませんねえ」
「三人だとあまりやることはないからね。追いかけっこをするだけでも楽しいよ? 兄ちゃんとノルトと木剣で戦うのもいつか役に立つかもしれないし」
「ほえー……」
ニーナがポカーンと口を開けている中、俺はソファから立ち上がり母ちゃんへ尋ねる。もちろんノルトとのことだ。
「ノルトも一緒に行ってもいい?」
「ええ、いいわよ。お友達ですものね」
「うんうん! 先に行くよラース!」
兄ちゃんはいそいそとリビングを出てノルトのところへ向かった。俺も慌ててリビングから出て今日も三人でトレーニングする。
ノルトにベルナさんのところへ母ちゃんと一緒なら行けると言ったら相当喜んでいた。ノルトは母ちゃんがいないのでウチの母ちゃんにとても懐いていたりする。
ちなみにあのぶかぶか緑服もウチで洗濯をするので、今ではすっかり綺麗になっている。髪は恥ずかしいからと切らせてはくれないらしいけど。
そういうわけでベルナさんの家へ行く当日となり、俺達はピクニック気分で山へと向かった。お土産は母ちゃんの焼いたケーキで、ノルトがケーキの入ったバスケットを持っている。
「転ばないでね」
「うんー! ありがとう、デダイト君ー」
兄ちゃんが横を歩くノルトに声をかけながら俺の後ろを歩いていた。俺と母ちゃんが並んで歩く形である。最近兄ちゃん、ノルトによく構っている気がするけど、やっぱり初友達は大事にしたいんだろうね。紹介した甲斐があったよ。
「ふふ、仲がいいわね。ラースはいいの?」
「え? 何が?」
「うーん、ラースにはまだ分からないかしら? ま、ケンカしないようにね」
「?」
母ちゃんがよくわからないことを言い、俺は首を傾げる。やがて森を進んでいくとベルナさんの家へと到着する。一面の花畑はやはり夢ではなく、花の良い香りが漂っていた。
「これは凄いわね……あっちは薬草栽培? と、とりあえずご挨拶しましょうか」
「へへ、凄いでしょ!」
別に俺のことではないけど、見つけた俺達が驚かれているようで少し気分が高揚する。見れば後ろのふたりも同じようで笑っていた。
「こんにちはー!」
「遊びに来たよー」
俺とノルトが玄関に声をかける。兄ちゃんはまだちょっと怖いのか、俺達の後ろに立って様子を見ていた。しかし中から返事は無かった。
「……あれ? 返事がない……」
「もう一回、オラが行ってみるよー。こんにちはー!」
ノルトが珍しく大きな声で言うも、やはり返事は帰ってこなかった。
「まさか……」
俺はなんだか嫌な予感がし、慌てて玄関のドアを開ける。ただならぬ俺の様子に気づいた兄ちゃんがノルトをすり抜けて入ってくる。
「ベルナさん!」
「ううう……遊びに来るって言ったのに……遊びに来るって言ったのにぃ……」
「えええ……」
バタンと開け放たれたリビングの向こうに彼女は居た。リビングにあるテーブルを指でいじりながらめそめそと泣いていた。そんなに楽しみにしていたの!? ていうかまだ四日なんだけど……。
そう思いながら俺はベルナさんの肩をゆすって声をかける。
「遊びに来たよベルナさん!」
「ふえ……? あ、ああ! き、きたあ!」
「うわっぷ!?」
「わあ!?」
涙と鼻水でべたべたになった顔のまま、俺と兄ちゃんを見るなりガバッと抱きつかれた。服がボロボロだけど、この人結構胸が……
「ちょ、ちょっと落ち着いて!?」
「良かったぁぁぁぁ!」
それからしばらく泣き止まなかったので、落ち着くまで待つことにした。
「ご、ごめんなさい……」
「いいのよー。まさか魔女がこんなに可愛いお嬢さんだったなんてねえ」
母ちゃんがいることに気づいた後、恥ずかしくなったのかベルナさんは体を小さくして顔を赤くしていた。母ちゃんはというと、友達が来て歓喜したその姿が可愛いと笑っていた。
「はい。これ、ウチで焼いたケーキよ」
「わあ、お、美味しそうです! 紅茶を出しますね」
この前と同じく、紅茶を出してもらい一口飲むと、母ちゃんの目が大きく見開かれてベルナさんへ質問をする。
「……このお茶、隣国産の茶葉じゃない? どうして山奥に住んでいるあなたが持っているの?」
「あ、分かるんですねぇ、嬉しいです。故郷から持ってきた種を山奥で育てているんです。あの時は逃げ……あ、あ、いえ、山なら迷惑がかからないかなと思いまして」
「……そう」
「?」
母ちゃんは何か考えていたようだけど、すぐに笑顔になりベルナさんへ言う。
「いいわ、事情は聴かない! あなたなら子供をどうにかすることはないでしょうし、魔法を覚えたいっていうから頼むわね。ここまでの道を少し切り開いてもいいかしら? ちょうどウチの裏手になるのよ」
「ええ、ま、任せてください。魔法は攻撃の方が得意ですけど、使い方を誤らないようきちんと教えますね。山はわたしの持ち物ではないですし、わ、わたしからは何とも言えません……」
「それもそうね。ローエンに頼んで道にしてもらおうかしらね、あ、それと私も遊びに来ていいかしら? 欲しい薬草を売ってほしいんだけど」
「ええ、ええ! もちろんです! そんなお譲りしますよぅ」
「いいえ、貴重な薬草が多いもの、買わせてもらうわ」
「なんか俺達より母ちゃんの方が遊びに来たみたいだよね」
「いいんじゃないかな。僕たちもいつでもきていいみたいだし」
「わーい!」
そんなこんなで母ちゃんとも友だちになったベルナさん。母ちゃんの【ホスピタル】のスキルと相性がいいみたい。
それはともかく、俺達はさっそく魔法についての話を聞くことにした。
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