第六話 今更出てきてどうするの?


 「おかえりー! ね、ね、どうだった!」

 「どうでしたかっ!」

 「早く早く!」

 「うわわ!?」


 家へ帰るなり母ちゃんとニーナ、そして兄ちゃんに連れられてリビングまで運ばれ、ひとりがけの椅子に置かれると興味津々といった顔で三人が俺を見つめてくる。

 あー……期待させちゃってるなあ……兄ちゃんが【カリスマ】だったし、俺もそこまで良くなくても、魔法使いとか剣士みたいなのが手に入ると思っていたはずだ。でも、事実を伝えるしかないのだと俺は口を開く。


 「えっと……なんかハズレのスキルの【器用貧乏】ってやつだった……」

 「え……」


 母ちゃんから笑顔が消え、俺は金のプレートを渡す。


 「はふん……」

 「奥様ー!?」

 「うーん、これってどういうスキルなの?」


 膝から崩れ落ちる母ちゃんを支えるニーナはさておき、兄ちゃんは冷静に尋ねてくる。俺の代わりに父ちゃんが答えてくれた。母ちゃんはソファに座った。


 「一応『なんでもできる』スキルなんだけど、どのスキルに対しても劣化したみたいな能力しか発揮できないみたいなんだ。だから、デダイトの【カリスマ】で商売がすごく上手くとするだろ? ラースはそこそこ上手くいく、って感じだな」

 「うう……ラース様、不憫でございます……」


 ガチ泣きのニーナにぎょっとし、俺は慌てて椅子から立ち上がって言う。


 「仕事は好きなのできるからいいと思うんだけど……」

 「うーん、ラースの言うこともわかるけど、ギルドにしても仕事を雇う人にしても、スキルの良し悪しは見てくるから、不利になる可能性はあるんだ。ま、家で畑を耕していれば気にしなくていいから」


 俺の言葉に父ちゃんがそんなことを言うのでソファに座った父ちゃんの隣に行く。


 「そうなんだ? うーん、なんかお仕事してみようと思ったんだけど難しいかなぁ」

 「……気にしなくていいから、な? でも学院にはちゃんと入学できるよう、父ちゃん頑張るからな?」

 「「ど、どうしてそれを……!?」」

 

 父ちゃんの言葉に俺と兄ちゃんが驚きの声を上げた。だって、学院に行きたいことは言っておらず、大きくなったら父ちゃんと母ちゃんを手伝うと言っていたからだ。


 「はっはっは、デダイドとラースは俺達に聞こえていないと思っていたようだが、子供考えていることなどお見通しだ! ……というか、部屋から聞こえてたんだけどな」

 「ありがとう父ちゃん! 俺、学院に行ってスキルとか関係ないくらいいい成績取っていい仕事に就くよ!」

 「僕もー! ね、ラースはハズレじゃないよ母ちゃん」

 「……そうね。自分の子がハズレだからなんだって言うのかしらね! ごめんねラース。きっと学院へ入学させてあげるからね!」

 「おーいおいおい……いい話ですよ……このお家でメイドをやらせてもらって本当に嬉しいです!」


 ニーナのおーいおいおいは古いなと思いながらみんなで笑い合う。うん、やっぱりウチの家族ははみんな優しい。俺がハズレスキルを授かっても差別なんてしなかった。

 前世はそれが当たり前だと思っていたけど、どれだけ虐げられていたか、今になればわかる……。

 

 結局、今日はお祝いだと盛り上がり、貧しいながらも母ちゃんとニーナが腕を振るった料理を食べて就寝となった。



 ――それはさておき、お金はあって困るもんじゃない。五歳でもなにかできないか考えてみようとベッドであぐらを組んで目を瞑る。

 

 だが……


 「勝手にバイトをしたら怒られそうかな……」


 結論はそこで落ち着いた。

 遊びまわっていた時期もあるので基本的に行動範囲は自由なので町へ行くことはできるだろう。だけど、町の人の様子から父ちゃんがあまり歓迎されていないことが今日の行き帰りでそれがわかった。

 

 それと、


 「……それとあのブラオとかいう領主との間に何かあることが気になるかな。父ちゃんはあいつに頭が上がらない感じだったし、迂闊に町へ行くのは良くないかな?」


 なら今の俺にできることは一つ。しっかりと【超器用貧乏】を使えるようになること。学院に入学するのは十歳なので、あと五年は修行に使える。

 だけど問題はあって、これのスキルをどうやって使うのかが分からない……


 「……明日から頑張ろう……」


 まあ、五年もあれば何とかなると思い俺は布団に潜り眠りについた――


 ◆ ◇ ◆


 ――はずだったんだけど……


 「あれ?」


 次に目が覚めた時、俺は全く知らない部屋に座っていた。服もパジャマではなく、普段着だった。しかしここってどこかでみたような……


 『やあ、ちゃんと来られたね』

 「だ、誰!?」


 急に後ろから声をかけられびっくりしながら慌てて振り返るとそこには、黒いスーツ姿の人物が立っていた。やけに眠そうな目をしているなと思っていると、口を開いた。


 『怪しいもんじゃありませんよ。この前、アタシにお礼を言ってくれた時に返事をしたでしょう?』

 「返事……あ! あの気の抜けた声と同じ……!」

 『失礼ですねえ。まあ、どうでもいいんですけどね?』


 イシシ、と笑うスーツの……どっちだろう? 男にも女にも見える目の前の人物に、俺はとりあえず尋ねてみる。

 

 「結局君は誰なのさ? 男か女かも分からないし……まさか本当に神様?」

 『お、おと……!? アタシのどこが男に見えるってんです!?』

 「いや、スーツがズボンだし、髪も短くてボサボサ……ニートみたいだから……」

 『ノウ!?』


 ニートという単語が効いたのか、膝から崩れ落ちて手をつき、プルプルと震える。ああ、言い過ぎたかな。


 「ご、ごめん……まさかそんなにショックを受けるとは思わなかったから」

 『いえ、よく考えればアタシはそういう感じでしたので問題ありません』

 「なんだよ!?」


 ガクっと体を崩してしまうが、意に介していない様子で俺に話を続けてきた。


 『アタシの名前は”レガーロ”。あ、女ですからね? で、あなたをこちらの世界に呼んだのは他ならぬアタシでしてね、はい』

 「……やっぱりそうなんだ。この部屋、よく見れば前世の俺の部屋だ」

 『イシシ、これなら信じてくれると思いましてね』

 「なら君は神様ってことでいい?」

 『いえ、アタシは……まあ、いわゆる悪魔ってやつです。人によっては神に見えるかもしれませんがね』


 悪魔!? まさかの発言に俺は後ずさる。しかし、レガーロは手をひらひらと振って俺に言う。


 『ああ、ああ、魂をくれとかそういうんじゃありませんから心配しないでくださいや。とりあえずあなたにはスキルについて説明をしとこうと思いましてね? アタシが授けた【超器用貧乏】、知りたくありませんか?』

 

 この口ぶり。もしかしてこいつが授けてくれたのか? 親切な悪魔というのは少々気になるけど、


 「……お願いしてもいいかい?」

 

 俺はそう口にしていた。するとレガーロはにっこりと笑い、


 『もちろんでさぁ』


 と、言い放った。


 というかもう転生して五年経ってるんだけど、出てくるの遅くない……?

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