第四話 父ちゃんと腹立つおっさん
小太りのおっさんが俺達の下へにたにたと笑いながら歩いてくる。それに気づいた父ちゃんが顔を上げると、おっさんが父ちゃんへ声をかけた。
「ローエンさん、奇遇だなこんなところで」
「お、ブラオじゃないか。息子が今年五歳でな、スキルの受領に来ているんだ」
「……口の利き方に気を付けて欲しいもんだがな? なるほど、その子がそうか。もう一つ奇遇だな、実は俺の息子も今年五歳になるんだ」
軽い口調で話す父ちゃんに嫌悪感を隠しもせず、睨むが俺に目を向けた後すぐに冷静になり、横に控えていた目つきの悪い子供を紹介してくる。
「俺の子で、リューゼだ」
ブラオというおっさんがそう言うと、リューゼは鼻を鳴らして俺達を見下すような目で口を開く。
「リューゼってんだ。いつか親父に代わってこの領地を治めることになるから、今のうちに俺へ媚を売っておいて損はしないと思うぜ? お前、名前は」
「……ラース」
「冴えない名前だなー。ま、せいぜいいいスキルが手に入るよう祈っておくんだな! お、こっちの子可愛いじゃん」
なんかムカツクやつだと思っていると、リューゼは目ざとく熊のぬいぐるみを持った女の子に突っかかっていく頭を撫でようとしたけど女の子がスッとその手を避ける。
「……いや……」
「いやとはなんだ! 俺は領主の息子だぞ! こいつ……!」
「あ……」
カッとなったリューゼは熊のぬいぐるみを奪い取って一歩下がる。女の子が手を伸ばすもあと一息というところで手を引き、取れないようにからかう。
「う……ぐす……返して……」
「いやだね! 俺に逆らった罰だ!」
「おいおい、ブラオ止めさせないか」
「ふん、貴族……領主に逆らうからだ。思い知らせねばならんよ。ローエン、お前も口の利き方に気を付けろよ?」
「……」
なんだ? 父ちゃんの顔があの時みたいに寂しそうな苦しそうな顔になっている。このブラオと何か昔あったのか……?
「うう……」
「あははは! こいつ本気で泣き出したぜ、弱っちいやつ!」
おっと、今は父ちゃんよりこの子だ。俺はリューゼからサッと熊のぬいぐるみを奪う。
「止めろよ! 女の子を泣かせて、お前最低だな」
「な!? お前も俺に逆らうのか!」
「逆らうとかそういう話じゃないだろ? 領主なら困っている人を助けるもんじゃないのか? はい、返すね」
「……! ……ありがとう……」
ちょっとびっくりした後、にこっとほほ笑んでお礼を言ってくる女の子。うわ、本当に可愛いなこの子……そんなことを思いながら顔を赤らめていると、リューゼも顔を真っ赤にして俺に掴みかかってきた。
「生意気だぞお前!」
「いてっ!? やったな……!」
頭をポカリとやられたので、俺はイラっとしてリューゼにお返しをしようと拳を握った。
「おい、ローエン! 貴様、息子の躾はできていないようだな! リューゼを殴ったらどうなるかわかっているんだろうな?」
だけどその瞬間、ブラオのおっさんがそんなことを言い、俺は父ちゃんにぐいっと引っ張られた。
「よせ、ラース」
「でも父ちゃんあいつが!」
「すまん、止めてくれ……」
「え……」
とても悲痛な顔で俺を力強く引き留める父ちゃんに呆然とし、拳を下げる。それをチャンスと見たのか、リューゼが口を開く。
「へへ、ボコボコにしてやる……!」
「くそ……」
何か弱みでも握られているのだろうか。悔しそうな父ちゃんの手前、反撃はできない……どうするかと思っていると、入り口が開け放たれて司祭のような人が声を上げた。
「皆さん、準備が整いました! 聖堂へ移動をお願いします!」
「む、時間か。リューゼ、そんなやつに構うことはない。先にスキルを授かりに行くぞ」
「……わかりました。運が良かったな!」
よくある捨て台詞を言い残しリューゼとおっさんが来た時と同じようにずかずかと出て行った。父ちゃんを見るとふうと一息ついて俺と目線を合わせて言う。
「……すまないなラース。あいつは領主のブラオで、俺の昔馴染みなんだ。あの通り、気にいらないことがあると何をするか分からないから手を出してはいけない。なに、あいつは滅多に外に出ることは無いから、ここ以外で会うことは無いだろうさ」
「……わかったよ父ちゃん」
力なく笑う父ちゃんに頷いて答えると、ポンポンと頭を撫でてくれた。ちょうどその時、女の子の保護者が帰ってきた。
「いやあ、ごめんよルシエール! 緊張でお腹が痛くてなかなかトイレから出られなくてさ!」
「……プイ」
「あれ!? ご機嫌斜め!? どうしちゃったのさ?」
父親だと思われる軽そうな感じの男性が焦りながらそっぽを向く女の子に声をかけているので、俺が代わりに教えてあげることにした。
「さっき、領主の息子ってやつがその子をいじめていたんだ。だからだと思うよ」
「おや、君は? なるほど、そういうことだったのか。傍にいてやれなくてごめんよ。お腹の事情はどうしても我慢できないからねえ」
「……何回も言わなくていい……」
「はは、ごめんよ……ってローエンさんじゃないか……じゃあこの子はローエンさんの……そ、それじゃ僕達はこれで」
そう言ってそそくさとこの場を離れるふたり。何だろうこの違和感は……? そういえばと思いよく見ると、周囲は和気あいあいとおしゃべりをしているのに、父さんに話しかけてくる人は居ない。
「(これは何かあるのか?)」
俺は父ちゃんをないがしろにされているみたいでなんとなく面白くないと思う。でも、その時
「ばいばい……ありがとう」
と、女の子……ルシエールが俺に手を振ってくれた。笑顔だったので、助けた甲斐はあったなととりあえずホッとする。
……でも、父ちゃんの件はその内調べないといけないかもしれない。いつも優しい父ちゃんが避けられる理由がきっとあるはず。そんなことを考えながら俺達は聖堂へと向かう。
◆ ◇ ◆
「わはははは! 流石は俺の息子だ、いいスキルを貰ったな!」
「当たり前だよ父上!」
到着すると領主親子の馬鹿笑いが聞こえてくる。すでに儀式を終え、端の方にある椅子に座っていた。すぐに帰るものだと思っていたけど最後に司祭からの祝辞があるらしくそれまで待つのだそうだ。
何人かすでい終えており、がっくりとした表情をした子供は居ないので望んだものか、それなりなものを授かったらしい。
「……ん」
「おお……! ありがとうございますありがとうございます!」
「全ては神の御心ひとつ。良かったですね」
先ほどのルシエールは結構良かったスキルのようで、父親が一心に頭を下げてお礼を言っていた。あまり必死な姿にちょっと引き気味で柔和な顔をした司祭がルシエール達を下がらせた。
「次の子は?」
「あ、はい。ウチです!」
「お願いします!」
そしていよいよ俺の番となり、年甲斐もなくワクワクしながら司祭の前に立つ。……まあ、肉体年齢は五歳だから許して欲しい。
「ではこのプレートに手を乗せて」
「はい。こうですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。……『天から見守りし我らが父よ、新しき子に父の力を分け与え給へ』」
司祭が呪文のような文言を唱えると、金のプレートが光り出し――
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