第16話 山小屋「3oink」にて

 イルドラゴ山の麓にレンガ造りの山小屋「3oinkスリーオインク」はあった。

 るるは山小屋に入るなり、今夜の晩飯、寝床、明日の朝飯にお昼の弁当、それから登山に必要な道具一式の準備を店主に言いつけた。るるの後ろでオレとルッカは顔を見合わせた。オレたちは登山をするためにここまで連れてこられたのだろうか。


 短い赤髪の快活そうな女店主が困ったようにオレたちを見回した。


「今、入山禁止なんだよ。ドラゴンが荒れ狂っててね。知らなかったのかい? 今日は泊まってっていいから、明日帰りな」


 ルッカは指2本で頭に角を作り、オレに向かって「ドラゴンだって」と口パクした。ドラゴンの表現はそれで合ってるのだろうか?


 女店主の話を聞き、るるは大型のりす程度の布袋を取り出すと、カウンターにドンっと置いた。金属が触れあう音がする。布袋の口から大量の金貨が覗き見えた。


「そのドラゴンを退治しに来たの―それで足りなければ言って。それじゃあ、さっき言った通り頼んだわよ」

「「ドラゴン退治!?」」


 オレとルッカは同時に叫んだ。るるは振り返り、首を傾げる。


「あれっ? 言ってなかったっけ? 知らずによく着いてきたわね」


 問答無用で連れてこられたんですが。オレとルッカは顔を見合せて苦い顔をする。

 赤髪の女店主が、そういえばと声をあげた。


「フィリペンドゥラの王子がドラゴン退治に立候補したって、さっき郵便配達のおじいさんが言ってたわよ。だから、あんたたちが行くことないわ」


 オレは反論する。


「王子が立候補したのはメリナ姫の結婚相手にだろ?」

「両方よ」


 るるは忌々しそうに吐き捨てた。


「ロザレスの姫と結婚するには条件をクリアする必要がある。その条件は姫が決める。メリナの条件は、最近急に暴れだしたイルドラゴ山のドラゴン退治」

「じゃあ王子に任せたら良いだろ」


 それで何もかも上手くいくじゃないか。オレに同意するように女店主も大きく頷く。るるは左右に大きく首を振った。


「王子より先にドラゴンを倒さなきゃダメなの!」


 ルッカが勢いよく挙手した。


「はい! 今日の晩ごはんは何ですか! お腹が空きましたっ!」


 そう言われれば、もう晩飯の時間だ。オレもお腹が空いてきたし、みんなもそう思ったのだろう。4人の腹の虫の音が一斉に3oinkにこだました。

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