第13話 姫の国
なんやかんやありつつも、オレたちは無事目的地のロザレス国に到着していた。
オレアレスとロザレスの国境である大きな川を渡った先で、入国手続きを終え、王家のバラの紋章がデザインされた重厚な鉄扉を抜けるとそこには、初めて見るような、でも懐かしいような、知っているような、やっぱり知らないような、そんな感情を来訪者に与える不思議な街が広がっていた。
世界中から様々な人種、文化が集まっているからだろう。オレの故郷リコリッド風の丸窓をとりいれた建物もあった。全てが混ざりあい、誰しもに懐かしさと新鮮さを同時に与える不思議な国だ。
その感覚は王都に入るとますます強くなった。王様の博愛主義は健在のようだ。
ルッカは目を輝かせ物珍しそうにあたりをキョロキョロしている。ロザレスに入って既に5日目。毎日見てもまだまだ見飽きない。
かく言うオレも新しい発見の連続で実はワクワクが止まらない。本当はルッカのようにキョロキョロあれこれ見たいが恥ずかしいので我慢している。
視線のやり場に困り、下を見ると、少し前を歩くルッカの腰に目がいった。2枚のチャクラムがライラック色のリボンで結ばれルッカの動きに合わせて揺られている。髪を結ぶのはやめてチャクラムを結びつけることにしたらしい。オレは肝心なことを思い出した。
「ルッカ、武器を調達したい。武器屋を探してくれ」
「武器?」
不思議そうにこちらを振り向くルッカに、こくりと頷く。
「この前、武器がなくて困ったからな。お前は持ってたみたいだけど」
言って、ルッカのチャクラムを指差した。「あぁ」とルッカは笑う。
「これはあの森で拾ったんだ。キノコ魔人に流された先でカネノナルキみたいな感じでこれが成ってて。誰かが 昔、枝に通したまま忘れたのかもね。おかげで助かったよー」
「さすがスーパーラッキーボーイ」
もはや、笑うしかなかった。ルッカも得意そうに笑っていたが、ふと何かに気がつくと鼻をクンクンさせ、近くにあったレストランを指差した。
「武器もいいけどその前にお昼ごはん食べよ。『腹が減っては戦は出来ぬ』だよ」
「武器が無くても戦は出来ない!」
「分かるよ」
と、口では宥めつつもルッカは問答無用でレストランにオレを引っ張っていった。相変わらず力が強い…!
昼前にも関わらず店内は客で賑わっていた。ルッカの気分で入った店だが、味はいいのだろう。一安心して空いている席につく。向かいに座ったルッカはやっぱりキョロキョロ周りを見ている。
メイド服姿の女性が声を掛けてきた。
「こちらメニューになります。ご注文が決まりましたらお呼びください」
「おっふ…」
心臓が弾け飛ぶかと思った。
白く透き通った肌、ウェーブがかったサファイア色のツインテール、ペリドットの大きな瞳、モルガナイトの控えめな唇。この国は不思議と美男美女が多いが、その中でも一際美しい。
思わずため息が出た。彼女は微笑を
「この店のオススメは何?」
美人メイドがルッカに向き直り、微笑んだ。
「こちらの『姫』メニューになります」
彼女はメニュー表に手を添えた。所作まで美人だ。美人の手が示したところに『姫』と書かれ、その下にヴァネッサやカレンなど女性の名前がずらりと並んでいた。彼女は説明を続ける。
「今の一番人気は新作の『メリナ』かな。まぁオムライスなんだけどね。意外と庶民的でしょ」
砕けた態度で言って、彼女が少し寂しげな表情を浮かべたのをオレは見逃さなかった。そんな顔も綺麗だ。ルッカが首を傾げた。
「なんでわざわざ女性の名前をつけてるの?それに『姫』って…」
確かに不思議なネーミングだ。ルッカ、いい質問だ。これでもう少し彼女を見ていられる。
「これはロザレス国王の姫君のそれぞれの好物なの。正確には結婚が決まった姫君のだけど―あなたたち、旅の人よね?」
彼女はオレたちがこの国の出身ではないことを確認すると説明を続けた。
「この国では姫君の結婚発表とともに、その姫の好物の王宮直伝レシピが国民に公表されるの。そのレシピを元に、王宮の味を再現するのが流行ってて。そして、この店は王宮の味に限りなく近いって評判なの。なんで王宮の味を国民が知ってるのよって思うけど」
微苦笑する彼女に、オレたちは『メリナ』を注文した。厨房にオーダーを伝えにいく後ろ姿を眺めていると、ルッカがこちらを見てニヤニヤしていた。
「シーンー。見てるだけじゃなくて話しかけなよ」
「なななななんで!」
ルッカに気づかれるほどそんなに見てしまっていただろうか。そんな、オレが、あんな美人を、滅相もない。少しだけ、見させてもらっただけだ。
「そんなことより!『メリナ』は14番目の姫メニューだったぞ。姫が14人もいるってことだろ? ロザレス王…凄いな」
オレは別にその手の話が苦手な訳じゃない。少しだけ女性慣れしてないだけだし。全然、大丈夫だし。
「正確には結婚が決まったのが14人で姫の人数は全部で18人。王子はいなくて、この国は『姫の国』と呼ばれてるの」
さっきの美人メイドが口を挟んできた。隣のテーブルに食事を運んできたようだ。
「そそそそそうなんですか」
オレは恥ずかしさのあまり顔を手で覆った。指の隙間からルッカがガクッとするのが見えた。
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