⑦夜、ひび割れる
「は、は、はぁ」
「おつかれさま」
「みて、くれました?」
「ええ。すごかったです。いままでとは違う」
「ほんと?」
「あなたも、表現者なんですね」
「ひょ、表現?」
「私もなんです。まあ、昔の話ですけど」
「何か、やってたんですか」
「ええ。おっと」
「あれ、近付けない」
「ちょっと今日はくっつかれると差し障りがあるので」
「なんですか差し障りって」
「気にしないでください」
「気になる」
「画家だったんですよ」
「がか?」
「お絵描きです。山の景色を描いてて。実は私の絵は7桁の価値があります」
「えっと、え、ひゃくまんえん」
「うそです」
「びっくりしたぁ」
「8桁の価値を出したこともあるので」
「いっせんまっ」
「真に受けないでください」
「あ、へ、なんか、その、すいませんでした。こんな中途半端なおど、踊りを」
「いやいや。ただのコンビニの夜勤ですから。いつも楽しみに見てます」
「え、えへ」
「おっと」
「なんで離れるんですか」
「差し障りがあるので」
「なんですか差し障りって」
「あなたの感情を私は理解できます。表現を志す者なので」
「あ」
「そういうことです」
「あ、いや、えっと」
「うわ、かわいいな。そうか、恋愛感情は初めてなのか」
「はい。はずかしながら」
「私もです」
「えっ」
「だからなんというか、差し障りがあるので」
「差し障りって何」
「ご想像にお任せします」
「最近私も、もてるんですよ」
「そうなんですか。キャンパス内では引く手あまたでしょうね」
「キャンパス。絵の?」
「いえいえ。大学の」
「大学?」
「そういえば、毎日のように夜ここに来て踊ってますけど、大丈夫ですか勉強とか」
「学校で寝てます。授業中とか」
「やっぱり。だめですよ。授業はちゃんと受けなきゃ」
「大丈夫です。一次関数とかヨウ素反応とか、教科書読むだけで分かりますよあんなの。みんなばかみたい」
「えっ」
「どうしました?」
「すいません、あの、差し支えなければ、どこの学校なのか教えてもらっても?」
「そこの中学です。この道進んだ先の」
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