②夜、コンビニ

「はっ、はっ、はぁ」

「すごい」

「うわっ」

「あっごめんなさい。見てたんです。コンビニのレジから」

「あ、ああ、コンビニの店員さんですか」

「はい。すごかったです。なんというか、綺麗でした」

「ありがとうございます。踊ってて綺麗なんて言われたの、はじめて」

「えっ」

「親から無理矢理やらされてた習い事だったので。ダンス」

「そうだったんですか」

「将来はダンサーとか言ってて。とんでもない迷惑ですよ。踊ってても怒られるし、踊ってなくても怒られるし」

「大変なんですね、踊るってのも」

「ほんとですよ。だから、意地でもダンサーにはならないって決めてるんです」

「えっ」

「事務の仕事につくのが夢です。秘書検定とか簿記とか取って」

「うわ実用的なやつ」

「えへへ。踊りなんかしんでも仕事にしねぇぞって思ってます」

「残念だなぁ」

「え」

「あっごめんなさい。踊り、きらいなんですもんね。忘れてください」

「なんで残念なんですか?」

「いやあの、ごめんなさい」

「きかせて」

「近い近い」

「あっごめんなさい。汗とかついちゃった」

「いやあの、こんなに夜に融けて踊るのがうまいのに、踊りの仕事をしないなんてもったいないなって」

「もう一回言って」

「いやあの」

「もう一度」

「踊りの仕事をあきらめるなんて、もったいないなって」

「違う」

「近い近い」

「その前のところ。夜になんて言ったの?」

「あ、夜、ええと、夜に、融ける?」

「夜に、融ける」

「ごめんなさい」

「うれしい。私の名前、融っていうの。あの、あなたは?」

「私ですか。山です。山と書いて、山」

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