第18話 世界中の宝をそこに置いてきた……

「フェルナンドさん、お早いですね。お待たせしてしまいましたか?」


 待ち合わせ場所に定刻通りにやってきた大臣は、俺の姿をみたのか小走りと共に息を切らせながらやってきた。

 頭を下げながら謝ってきたので寛大な心で許してやろう。


「そんなに待ってないよ。」


 嘘である。

 本当は45分前に待ち合わせ場所についていたのだ。

 だがこれは俺の勝手な行動の所為だ。大臣を責めるのは筋違いだろう。


 しかし、定刻にくるってどういう事だ。

 待ち合わせは5分前行動は基本だろ。

 だが、今はそんな小言を言っても無意味だ。

 大人ってのは些細な事で波風を立てないように生き方いく。そういうものなのだ。


「それでは案内しますね。」


 大臣に案内される道を進む。


「で、目的地ってのはどこになるんだ?」


「お店はノースエリアの方にあるんですよ。フェルナンドさんはノースエリアには行った事がありますか?」


 北側か……俺は、行ったことはない。

 この国は東西南北の四つの領域で分割されている。

 ハンターギルドがあるのはサウスエリアだ。つまり、南側だ。

 北側は真逆の方向にある。遠い。

 しかし、行かない理由は位置だけの問題ではない。

 

「行ったことはないな。」


 俺は大臣に淡白な返事を返した。


「左様ですか。まぁ、ノースエリアはセレブな町ですからね。」


 そう、行かない理由は明確だ。

 生活だけならエリア移動をする必要はない事に加えて、北側は物価が異常に高いのだ。

 今でこそ、リリアンがぶんどった金……いや、水龍を討伐した報酬があるから遊びに行けなくもないが、昔のハンターギルドは極貧の極貧。そんな金はない。それに、今でもギルマスである俺がノースエリアに遊びに行ったと言ったら、ギルメンらから大量のクレームが上がってくるだろう。

 それくらいノースエリアは庶民にとってあこがれの場所なのだ。

 だが、今日は違う。大臣の接待という大義名分を手に入れているからだ。

 ふふっ、これも大人の特権って奴だ。


「しかし、噂くらいは聴いているぞ。とてもゴージャスな場所だとな。」


「そうですね。今は国家予算よりも稼いでいるセレブなお方も遊びに来たりしますからね。」


 まじか……すげぇな……

 最強の俺も金策についてはめっぽう弱いからな。そういうのが得意な奴は素直に褒めてやってもいい。


「で、今日はどんな店に連れてってくれるんだ?」


 今日は大臣のよく行く女の子の店に行くのだ。

 俺は調べてすらいない。すべてお任せだ。


「フェルナンドさんもきっと満足するお店ですよ。」


 くくくっ、貴様も悪よのう……

 勝手ににやける表情筋に力を込めて、必死に普通の顔を作りながら大臣に応じる。


「そうか。まぁ貴族様のいきつけの店だ。期待させてもらおうか。」


―――

――


 俺と大臣はノースエリアの入り口。門の前にやってきた。

 既に辺りは暗くなってしまったな。

 時刻は19時30分。エリアの移動は時間がかかるものとは言え、流石に1時間以上も歩く羽目になるとは考えていなかった。


「中々、遠いな。」


 ノースエリアの門に背中を傾けながら、大臣がやってくるのを待っている。

 流石セレブエリア。警備が非常にしっかりしてやがる。

 決められた者しかエリアに入ることすらできないらしい。

 その手続きをしに大臣が受付の方へ行ったため、俺はここで待ちぼうけというわけ。

 事前に段取りくらいしっかりして欲しい物だ。

 まさか待ち合わせで待つだけじゃなく、こんなところでさらに待つ羽目にはるとは。

 待つってのは本当に暇だ。

 だが、これからを考えると……ぐふふふふ。


「あ、あの……フェルナンドさん?」


 おずおずとした態度で、俺に大臣が俺に声をかけてきた。


「お、おう。終わったのか?」


「はい。すみません。お待たせしてしまいまして……ノースエリアは非常に警備が厳しいのです。王族の関係者ですら、中々入ることすら困難なレベルでして。こちら入園証です。」


 そう言って、やけに豪勢なバッチを俺に手渡してきた。


「サンキュー。」


 こんなバッチごときにもいい素材使ってやがるな。流石ノースエリアだ。格差社会って奴をまじまじと感じさせてくれよ。全く。


「ほうほう。そのバッチが気に入りましたか! 目の付け所が流石ですね。ダイアモンド素材を加工して作られているんですよ。

 一応、それは返却する必要がありますので、帰る際に私にお返しくださいね。」


「ふむ。わかった。」


 ここって王城に入るときより守りが強いのでは?

 

「それではこちらです。」


 そう言って大臣はすたすたと歩き始めた。

 俺は大臣に案内される後ろをついていく。


 人の後ろをついて歩くなんて久しぶりな気がする。

 思い返せば俺はいつも最前線を歩いていたな。ハンターになったのも、魔王討伐すらも。

 ギルドマスターになってからは誰かに前を譲る事が増えたと思う。

 行くも戻るも、相手次第って。


 って、ちょっと待て……

 流石に感傷に浸りすぎでは?


 ヤベェ……俺もおっさんになってしまってるな。


―――

――


「ここですよ。フェルナンドさん。――クラブ『ラブリィ♡キャッスル』。選ばれた富裕層のみが入れる女の園。さぁ、行きましょう天女が我々を迎えてくれるのです。」


 ん? 何クラブって言った?

 ラブリーの言い方と手で♡を作るポーズに気を取られて聞き取れなかった。

 ……だが、聞き返すのも野暮だよな……

 俺はウッキウキの大臣を見ながらそんな事を思う。

 興奮醒めやらぬ様子といったところか。

 ふむ。行かぬも地獄。行くも地獄なら前に進んだ方が良い。


「そうだな。行くか。」


 俺と大臣は夢の城の中へと入っていく。

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