第15話 俺の強さの秘密??? 誰でもできることだよ。

「おう! フェルナンド殿、ご無事でしたか!!!」


 俺が待ち合わせの酒場にはいるやいなや、フルルードが立ち上がり挨拶をしてきた。


「よう! 待たせたなフルルード。無事もあるかよ。昼間会ったばっかりだろう。」


「あいや。先ほど王城にて庭を燃やさるという事象があり、魔物の襲来がされているとの速報がありまして、心配していたで候。」


 あっ、俺がやった事だ。


「まぁ、俺が心配されるかって話だよ。」


 俺は、フルルードの前の席に座り、酒を頼む。


「ギルマス業で腕が錆びたのとかそういうことはないようでござるな。うむ、それは安心しましたぞ。」


 全く、誰に言ってやがる。


「俺の心配よりもフルルード、お前の方が腕落ちてるんじゃないか? ハンターギルドにも全然顔ださないで、今は何をやってるんだよ?」


「今は東洋の国への旅費を稼ぐために色んな仕事をやっているでござる。」


 こいつの東洋の国への憧れは一体なんなんだか?


「そうなんだな。」


 と言いつつ、俺にはこいつが今何をしているとか興味がない。

 俺の興味はこいつが今、彼女がいるかどうかという事だけだ。


「そういやさ。フルルードは今独り身か?」


 質問の意味が分からんって顔してやがるな。


「実はなジェットもサバタも結婚しているし、ギランドも彼女もちだ。魔王討伐した時のメンバーは身持ちを固めてるからな。酒を誘うのも遠慮しちゃうんだよ。」


 まぁ、嘘だけどな。

 でも、納得してる感じか。


「ふむ。ならば拙者が御供しますぞ。」


 ふっ、こいつも独り身か。


「そうか。なら誰かと飲みたくなったら、誘わせてもらうよ。」


 酒が入ると口が軽くなるというものだ。

 俺もついつい口が軽くなってしまう。

 中々の時間を飲み続けてしまった。

 既に一時間は経過している。魔王の討伐の時や、ハンターで魔物狩りをしていた昔のことを思い出して花を咲かせるのも悪い事ではないな。俺も年を取ったものだ。


「そういえば、拙者もフェルナンド殿に一つ聞きたいことがあったのですぞ。」


 フルルードは急に改まった口調となった。

 

「ほう。俺に聞きたい事? なんだ? 今は気分が良いから何でも答えてやるぞ。」


「拙者が知っている漢の中で最も強いのがフェルナンド殿でしたので、その強さの秘訣聞きたいと考えているので候。」


 そこまで言われると悪い気はしない。


「ふむ。俺は誰にでもできる事をやってるだけだ。」


「ほうほう。そうなんでござるね。誰にでもできること。」


「じゃ質問だ。例えば、お前は100mを15秒で走ることはできるか?」


「ふむ。それは余裕でござるな。」


「なら、14秒ではどうだ?」


「それも余裕でござるな。」


「だろ?」


 ……


「どういうことでござる?」


 察しが悪い奴だ。

 まぁいい。説明してやるか。


「15秒で出来ることを14秒で出来るようになったように、14秒を13秒、13秒を12秒と縮めていけば、そのうち1秒、0.5秒、0秒でもできるようになるだろ?」


 おっ、目をパチパチさせてやがる。

 俺は当たり前の理屈を言ってるだけだが、凡人には新しい着眼点すぎたかな?


「……それじゃ魔法は?」


 剣士の癖に魔法について聞いてくるとはな。 

 不思議な奴だ。


「同じだよ。呪文を言うのに20秒かかるなら、それは19秒、18秒と少しづつ短くしていけばいい。そのうち無詠唱になるだろ?」


「魔法が使えない者は?」


「使えないなから、まずは魔法を使えるようになることからだな。何故魔法が使えないのかを分析する。吃り症でうまく詠唱できないならゆっくり言えばいい。上手くマナのコントロールが出来ないならマナのコントロールする感覚を掴む事からやるとかだな。そのうちできるよ。」


「ふむ……」


「一度魔法が使えたら、数を増やすなり、詠唱を短くするなりの練習すれば良い。初級のファイアボールだって1000個くらい同時に使えるようになれば、大魔法すら凌駕する威力になるぞ。」


 俺はドヤ顔でフルルードは教えてやった。

 くくっ、俺の指導は目頭が熱くなったか?


「んな……阿呆な……」


 はっはっは。阿呆とは失礼な奴だ。

 酒が入ってなかったらぶん殴っていたかもしれん。


「どうだ参考になっただろ? 俺はこの特訓をAKIRESアキレス式と呼んでいる。お前も多いに活用するべきだな。」


「それがフェルナンド殿の強さの秘密……参考になった……? でござる。」


 そうだろう。そうだろう。

 フルルードはペコリと頭を下げてきた。

 と同時に機械音が鳴りだした。


「おっと!? ソーリー! 電話でござる。」


「俺に気を使うことはない。良いぜ。出な。」


「では失敬して……」


 フルルードが電話口で顔を青くして何度も謝罪の言葉を口にする。


「なんだ? なんだ? 緊急事態か?」


「いえいえ。連れの者から、今日の買い物当番をせっつかれたでござる。」


「連れ……?」


「言ってなかったでござるか? 東洋の国に帰還を望む相神あいかみ咲夜さくやという者でござる。」


「それはどなたですか?」


 俺は嫌な予感がした。ついつい敬語になってしまったぜ。


「東洋の国の女性でござるよ。旅をしてこの国にたどり着いたとのことで候。ほら拙者、東洋の恰好をしているでござろう? そのため、咲夜が拙者を東洋人と勘違いして話かけてきたことから接点ができて仲良くなったのでござる。今は一緒に東洋の国へ行くことを夢見ているのでござるよ。」


 おい!!!

 この変な恰好してたから逆ナンされたって……コトォ???

 おかしいだろ! 絶対そんなことあっちゃいけないと思うぞ!!

 まぁ言い。気になるワードは他にもある。


「して、買い物当番ってのはなんですか?」


「あぁ、今は拙者、咲夜とは同居しているので、家事の担当を決めているのござる。今日は拙者が買い物当番だっただけの事。フェルナンド殿に会えたためすっかり忘れてしまっていたのでござる。」


 やっぱりお前もか、フルルードオオオオオオ!!!!!!!!!!!!

 裏切りやがって!!!!!!!!!!!!


「血の涙……? あいや、何かあられましたか!?」


「なんでもない。」


 そうだ。昔の俺ならむせび泣いて終わるところだが、今の俺にはこいつがある。

 大臣からかっぱらって――譲ってもらった女の子お店の名刺だ。

 しかもこれを見せればVIP待遇で入れるらしい。

 くくく。俺は今余裕があるのだ。

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