第14話 女子会って飲み会と違うの?

「うぅーん……」


 リリアンの呻めき声を上げながら体をモゾモゾと動かし始めた。

 倒れていた奴らがやっとお目覚めのようだな。

 上半身を起こして、寝ぼけた面で当たりを回し始める。


「あれ? えっ? ここどこ? 天国ですか?」


 ここは謁見の間、無数の黄金が散りばめられた部屋なのだ。

 起き上がり、改めて見ると、きらきらとしている様は先ほどまでとは違う景色に見えるのも仕方ない。

 それにしても、少なくてもリリアンが行くのは天国ではない気がするがな。


 リリアンが起きた事を皮切りに、兵士達も次第に目を覚ましていく。


「一体何が? 突然気を失って……」

「敵襲? またも魔物が…… まさか魔王の娘が!?」

「魔王の娘はどこだ!?」


 あいつら独り言多いな。

 起き上がる時くらいゆっくり立てよ。

 何、喋らないといけないルールでもあるのか。


「おい! 魔王の娘!!! はん…間抜けな奴だ。自分でやっておいて、自分も気絶してやがる。間抜けな奴だ。」


 兵士の中で、この集団気絶の原因はマーズという事になったらしい。

 武器を構えて今にも襲い掛かりそうだな。


 俺は、王の背中を軽く叩く。


「――! お前たち! 王殺しの罪、魔王の娘マーズと、国の財政をめちゃくちゃにした極悪人リリアン。その者らの処遇を改めて考え直す事にしました。当面はハンターギルドに一任してもらおうという事で話が付きました。」


「なっ、俺らの給料どうなるんです!!??」


 なんか兵士が怒ってるのは、王殺しの罪よりも給料なくなるからって方が大きいようだね。


「よりにもよって何故ハンターギルドなんかに!! 全部、こいつらが原因じゃないですか!」

 

 諸悪の根源は、王と大臣だ!

 俺は、大臣のケツを蹴る。


「――! 良いか。お前たちの給料をこれからも支払うことになった。財源は国庫から取り出すこととする。」


 大臣の突然の発表。

 勿論、その内容は直ぐに理解できるものではない。

 当然だ。金がないから給料がなくなったのに、金があるからくれるというのだ。

 まともな神経をしていたら理解できるはずもない。


 そもそも、俺が魔王から奪い取った国宝――この部屋を装飾する金を生み出す装置が、あるのだ。金がなくなるという事が起きるはずもない。


「えっ?」


 多くの兵士が困惑した顔でその場に立ち尽くしている。


「金が欲しい者は武器を捨てよ!!」


 大臣にそれを言われると金が欲しい兵士達は言う事を聞かざるを得ない。

 当然、全員が武器を放り投げた。

 王の仇を討とうとする真面目な兵士は一人もいやしない。

 こんな体たらくな兵士とはいえこの国を守るためには必要なのだ。


「しかし……この大悪党共は本当にハンターギルドに任せてよいのでしょうか?」


「良い……こちらハンターギルドのギルドマスターであるフェルナンド氏と話し合い魔王の娘マーズの管理・監視はハンターが行うのが適任であると助言をいただいた。」


 それだけじゃなく、兵士の給料も出すように言ってやったよ。

 この兵士共め、俺に感謝しろよ。

 王と大臣の後ろでニコニコと様子を伺っていた。


「フェル様……いつもの人を見下してる時の生き生きしたキモイ顔してる……」


 おい! リリアン。そういうことをぼそっと言うなって!

 俺には丸聞こえなんだよ!

 リリアンの近くにいる兵士がめっちゃ疑いの眼を向けてるじゃん。

 まぁいい。


「それじゃ、俺らは帰るな。リリアン行くぞ。」


 俺はマーズを担ぎあげて、リリアンを連れて謁見の間を後に……


 っと、その前に。

 ――俺は、入館証を大臣に叩き返した。


「それ片付けよろしく。適当に処理しといて。」


 大臣は何も言わずにこくんこくんと頷いているだけだ。 


―――

――


 俺たちは、帰路につく。

 俺がマーズを背負い、その後ろをリリアンがひょっこりとついてきている。


「はぁ~大変でした……結局、マーズちゃんはハンターギルドで引き取ることになりましたね。それに王国に魔族が出た形跡があるらしいですよ。ほら、私たちが通ってきた庭がまるまる燃やされてたじゃないですか! 俺も魔族の所為だそうですよ。」


 アレは俺がやったんだが……? まぁ、いいか。

 ただ突っ込まれて面倒だから、相槌をしながら、話題をそらす。


「あぁ。そうだな。兵士が襲ってきたときはどうなるかと思ったもんだ。」


 まぁ、どうにでもできるが、実際に驚いたのは事実だ。


「ですね。兵士さんたちにまさか監獄に連れていかれるとは思っていませんでしたよ……」


「流石に給料がゼロになったら切れるぜ。俺には気持ちは分かる。」


 そうガストロの所為で、俺が魔王討伐の報酬が一気に下がった事は本当につらかったからな。思い出してもムカムカしてくるぜ……

 内心怒りをためつつ歩いていると、リリアンが話しかけ来た。


「あっ、そういえば、マーズちゃんはどうするんですか? まさかハンターにするんですか?」


「いや、流石に魔王の娘なんだから、魔物退治はやりたがらないだろう。受付をさせるさ。リリアンも色々教えてやってくれよな。」


「お任せください! このリリアン、マーガレットさんから引き継いだ天才的な事務のお仕事をマーズちゃんに教えちゃいますから!」


 ふふんと、鼻息をリリアンは鼻息を荒くする。

 こいつがやる気だすと碌な事が起きない気がするな。


「ホドホドニナー」


 俺は全く感情のこもってない投げやりな言葉を返した。


「そういえばフェル様は溶けて消えていく夢を見たような気がします……」


 それは夢ではない。

 俺の分身が消えていくときの話か。


「俺が溶けるだと? 全くふざけた夢だな。もしかしたら、リリアンの願望が夢になんじゃないか?」


 ……


 え? 何この沈黙。

 リリアンは何を考え込んでるの?


「そうかもしれません。」


 そうなの?


「偶にフェル様に無性に腹が立った時に消えちゃえって思ってますから。」


 なにその事実、悲しいじゃん。


「ってやだな。ジョークですよ。ジョーク。」


 いや、マジのトーンのだったぞ?


「ちょっと女子会の時に愚痴っちゃうだけですってば。」


 女子会……

 なんとも素晴らしい響きだろう。


「ふーん。女子会ねぇ。何やるんだ?」


「おや? フェル様は女子会に興味がお在りですか?」


「……まぁな。女が集まると何をするのかは俺は知らないからな。」


「お友達と、コイバナとか、近況とか、懐かしい事とか、そりゃもう色んなことをおしゃべりしながら、お食事して、お酒を飲むんです。楽しいですよー。」


 ふーん。

 ……近況や懐かしい話しながらお酒を飲むねぇ……

 あっ! フルルード!


 俺は背負っていたマーズをリリアンに投げつける。

 マーズを受け取りながら、リリアンが驚きと怒りのこもった声を上げた。


「わわ! ちょっと危ないじゃないですか!? マーズちゃんが怪我しちゃいますよ!」


「悪いな。俺はこの後予定を入れていたんだ。すまんが、ギルドにマーズを連れて行ってやれ。」


 それだけ伝えて俺はフルルードと約束をした店にかけていく。


「ちょっとー!!! フェル様―!!!!!!!」


 後ろの方でリリアンの呼ぶ声がするが無視だ。無視。

 俺は本日の酒の席を楽しむために、頭は既に切り替え済みだ。

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