第4.5話 ほら、俺が本気出すとバランス崩れるからって程の実力

「水龍討伐戦! 皆さん気合い入れて討ち取りましょう!!!」

「「「おぉーーー」」」


 おうおう元気なこって。

 久々の討伐か。

 懐かしいな。

 魔物が減ってからと言うもの、こういう祭りごとは本当になかった。

 ギルメン達の数は全盛期くらいはいるんじゃないか?

 転職した顔ぶれすら見かけるぜ。

 古い武器を持って現場に来てやがる。


 俺はギルドマスター室から、盛り上がる受付を眼下に見下ろしていた。


 コンコンッと部屋の扉が叩かれた。


「誰だ?」


「ギルマス!!! 紫刀のイッテツです! 久しぶりです! 宜しくお願いします!!!」


 そんな声が聞こえてくる。

 紫刀のイッテツ。古参のギルメンだった奴だ。

 しばらく前にケーキ屋になるってギルドを出て行った奴のはずだ。

 俺は記憶力が良い。基本的には一度見た奴は忘れないのだ。ちょい役すら覚えててやる俺。

 イケメンすぎるな。

 

 律儀に俺に挨拶をしに来た訳か。


「部屋に入れ。まぁ、久々だからって気負いすぎるなーー」


 扉がゆっくりと開いていく。


「ぶっ!?!?」


 俺は思わず吹き出した。

 イッテツがのほほんとした顔をして立っている。まるで牙をもがれた獣。いや、餌を貰ってばかりで狩猟を忘れたオーク顔。

 だが、そんなことはどうでも良い。

 俺が驚いたのはオークの隣。イッテツの横には美人な女性と幼少の娘がいるではないか!?


「へへっ、俺の嫁と娘です!」


「バッ……」


「ばっ?」


「バッカヤロー! ピクニックじゃねーだぞ!?」


 すっかり平和ボケしてやがる。

 一応、魔物討伐なんだからね!?

 オトモ感覚で家族を連れてくるもんじゃねーんだぞ!?


「へへっ、偶には父ちゃんもやるんだぞ!ってとこ見せないとですからね!」


 あー、ヤダヤダ。惚気ですか!?嫌味ですか!?って話だよ。


「そうか。まぁ……頑張るんだぞ……」


「へいっ!! あざっす!!! ギルマス!!!」


 妙に元気がいいところが逆にムカつくな。

 イッテツが元気に挨拶をすると、家族三人仲良く出ていった。


「全く、水龍以上の難敵と戦い終わった気分だぜ……」


 一服しようと椅子に腰を掛けた時、バタバタっと入り口が開く。


「フェル様!!!」


 扉を勢いよく開けてリリアンが入ってきた。

 全く元気な奴だ。さっきまで下の受付で多くのハンターの案内をしていたのに、疲れを微塵も感じさせないほどきびきびとしている。


「なんだ? リリアン? 疲れてないのか?」


「いやーお仕事沢山で寧ろ元気出ますよ!! いつもの閑古鳥が鳴いてる時の方が疲れちゃいます。」


 確かに何かをしている時間は何もしていない時間よりもあっという間に過ぎる。


「それはすまんね。いい仕事をやれなくて」


「いえいえ。仕方ないないですよ。魔物が減ってしまっているんですから――って、そんなことはどうでもいいんですよ!!」


「だから何だよ?」


「えへへ~ ギランド様がお見えです~ フェル様に挨拶するという事で部屋までお連れしに来たんですよ~ ギランド様~~入って大丈夫です!!」


 俺は何も言ってないが!?

 そんな俺を無視して、リリアンに呼ばれたギランドが部屋に入ってくる。


 おぉ、歩き方は様になってやがる。

 さては、こいつ彼女リリアンの前だから気合い入れてやがるな……


「フェルナンド、今日はよろしく頼むよ。」


 かっこつけて手を差し出してきたので、さっきのイッテツの分も含めてムカつくから強く握りしめた。


 痛いだろう?

 我慢しているのが伝わってくる。


 それでも、リリアンの前なのだ。必死に画面をしているのだろう。

 おうおう健気なこって。

 目を輝かせるリリアンには、情けないところは見せられないってか?

 ふんっ。


 とは言え俺も若者を虐める趣味はない。

 ぱっと手を放して、


「まぁ、何はともあれ。よろしくな。ギランドさん。」


 ぽんっと肩に手をやった。


―――

――


 まるで軍隊だな。

 集まったハンターは千を優に超えるだろう。

 やってきたのはドロド湖畔。

 水龍が出没し場所だ。

 ハンターたちは開けた場所に拠点を作り始めた。

 和気あいあいとした様はまるでキャンプ場だ。


「あいつらざぁ……」


 流石にキャンプファイアーの準備をしだした時は誰に聞かれるわけでもなく小さく呆れかえってしまった。

 そう、何を隠そう俺は討伐には参加していない。

 既に転職した後の奴らも多いし、ギランドの奴にも頼まれたからしぶしぶ木陰から、隠れて様子を伺っているのだ。

 もしも、俺があの場に居たら叱りつけていたよ。


「イッテツさんも一杯どうっすか?」

「戦い前の酒は最高だな。ガハハ」


 そんな声が聞こえてきた。


「あぁ? さけ?」

 

 鮭? さけ?

 俺がちらりと様子を伺うと、イッテツの奴がしゅわしゅわなビールを口に運んでいやがるじゃねーか!

 俺は木陰で虫刺されされてんのに!?


「酒!!! 飲んでる??? こいつらマジでキャンプしに来てるんじゃないだろうか? 魔物討伐って事を忘れてるんじゃ?」


 最強の俺ですら戦い前に酒を飲むことないぞ!?

 マジでか?

 戦いってのは想定外の事が起きるのが常だぞ!


 例えば、水龍が既にベースに攻めてくるとかな!


『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 猛獣の雄たけび。怒れる咆哮。

 久しぶりに聞くと体の芯から寒くなってくる。


「って、マジできやがった!!!!」


 そうベースに集まった人々を水龍の大ききな瞳がこちらを見つめていた。

 口を開けている。

 そこから吐き出されるのは、圧縮し抗高密度となった水ビーム。

 災害と恐れらるだけのことはある。


 ベース場が真っ二つに分断されるほどの威力だ。


「ギャー!!!!!」

「お前ら武器を構えろ!!!」


 討伐っぽくなってきたな。

 そうだよ。このピリピリ感。

 鈍ってるとは言え歴戦のハンターたちだ。

 戦いになれば……


 暴風を体で受ける。

 水龍が身をひるがえしたのだ。

 そう、水龍は水をまとったその巨体故、動くだけで天変地異すら引き起こす。 


 ――って、もう、半壊してる~!!!!


 あっ、イッテツがぶっ倒れてやがる。

 その目の前にはぶるぶる震えてるギランド。

 ほんと、アイツは運だけは良いな。

 

「ぎ、ギラン……ドさ……後は頼みま……」 バタっ……


 あっ、イッテツ乙った。

 水龍は相変わらず空を飛んでやがるな。

 本当に嵐と変わらん。


『汝ら、我が居住に何用ぞ?』

 

 流石はドラゴンの王。人の言語すら話せるのね。

 遠くの俺にもばっちり聞こえてきやがる。

 他の奴に押されてギランドの奴前線に立ってるじゃん。

 

『魔王を滅っした。愚かな人族よ。混沌とした世界に新たな光が育った――汝らの罰を下そうぞ。散れぃ!!!!』


 水龍は身をよじり、ギランドを目掛けて突撃をしてきた。

 同時に俺も動き出す。


「ふ゛ぇ゛、ふ゛ぇ゛、ふ゛ぇ゛、ふ゛ぇ゛る゛く゛ん゛!!!!! た゛す゛け゛て゛ー゛ー゛ー゛ー゛!!!!!!!!!!」


 情けない叫びをあげるギランドと突撃しくる水龍の間に黒いマントを着た奴が間に入る。

 そう、俺だ! 水龍の突撃だろうが関係ない。

 柄だけの剣からおびただしい光量を放つ刀身を出現される。

 光は辺り全体を包み込む。


『お、お前は!!!???』


 俺が誰か分かったのか?

 しかし、気が付いた時には遅い、俺のたったの一振りによって水龍の体は既に真っ二つに裂けているのだから!


 何が起きたか直ぐに身を隠すとギランドをたたえる歓声が静かな湖畔に響き渡った。

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