第4話 アイツも成長したんだなって思っていた時期が俺にもありました。


「ふふっーん。大臣さん。運が良いね! 今なら大魔道士ギランド様がフリーなのだよ!」

「えぇ……」


 俺の口から出てきたのは、色んな感情が複雑に絡み合った驚きの声。


 大臣は顔を上げるといち早く反応する。


「おぉ! 魔王討伐でその名を挙げた有名な大魔導師ギランド様が!? それは心強い! しかし、頼めるのですか……? 難しい方だと聞いていますが……」

「そこで私の出番ですよ! ギランド様は私の言う事はなんでも聞いてくれるんだから!」


 おいおい。

 ギランドに水竜は無理だぞ!

 目を輝かせるリリアンと大臣の前でそんなことも言えずに、成り行きをただ見守っていることしかできない。

 すまん。ギランド。


「で、ですよ! 大事な報酬は……?」

「ミスリル金10枚を用意してします……」


 ミスリル金10枚だとっ!?

 現在の貨幣価値にして、1000万金貨相当だぞ!?

 一族郎党が1世代は余裕で暮らせる額だ!


「……足りないなぁ。」


 !?

 リリアンの返答に俺は固唾飲みこむ。


「世紀の大魔道士を動かすんだよ? ミスリル金百……いや、73枚。それくらいが妥当だと思うけど?」


 こいつ……無害な顔してかなりがめつい……


 おいおい、やっぱり大臣が人間がしちゃいけない、あり得ないくらい面白い顔してるじゃねーか!?

 それにしも、73枚ってどっから出たんだ?


「それは……」

「だから、私は有り金全部ギランド様に投資しろって言ってんの!」


下唇から血を流しながら、悔しそうに大臣は答えた。


「わ……わかりました。大魔道士ギランド様に頼めるならば、ミスリル金貨73枚をご用意いたします。」


 折れた大臣に、よっしゃとリリアンはガッツポーズをして見せる。


 こわっ! どっちが悪党だ? これ?

 そして重い期待と信頼がここにいないギランドの肩に勝手に降り注ぐ。


「申し訳ありませんが、これ以上の報酬は増やせません。ミスリル金73枚で手を打ってください。国からご用意できる最大額です。そのため、勝手ながらパーティを組む場合は、ギランド様の報酬で賄っていただきたい。」

「はいはーい! あっ、前払いでミスリル1枚ちょーだい!」


 リリアン、抜け抜けと……

 こいつぁ、大物になるぜ……


「こうまで言ってて、ギランド様の説得に失敗時には、貴女にはそれ相当の罰を与えますので、御覚悟をして下さいね。」

「はーい!」


 大臣、ちょっと苛立ってるじゃねーか!

 で、リリアンさんよ。軽く返事してるが大丈夫か?

 そもそもギランドじゃ水竜には勝てないんだ……いや、あいつも7年で成長したのか?

 そう思うと、久々に会ってみたいな。


「さぁ、フェル様、行きましょう!」

「えっ!?何処に?」

「そりゃ、ギランド様の元にですよ!」

「ギランド様は優しいので、きっとハンターギルドも助けてくれますよ!! ほらっ!」


 おいおいおい!!

 いきなり、手を握るなよ!

 めっちゃ、ドキッてするじゃん!!!

 全く!! けしからん!!


 それにしても、リリアンの手柔らかいな……


「おぉ、これが魔術師ギルドの工房か……初めてきたな。」

「凄いでしょー!」


 得意げな所も可愛い奴だな。


「あっ!ギランド様ー!」


 そんなぴょんぴょん跳ねたらパンツ見えちゃうだろ!

 そんなリリアンに気がついて、のそのそと黒ローブをきた男が近づいてくる。


「おっはよーございます! ギランド様!」

「おぉ、これは我が愛しの恋人マイハニー、いや、マイエンジェル、リリアンよ。我が眷属達が安寧を過ごす時刻にどうした?」


 うわ。出た。

 やっぱり、何言ってるのか全くわからん。


「えっとですね。 ……水溢れし大地に、暴虐の竜が現れて、国を混乱に導こうとしている。 のです!」


 !?

 リリアンがギランド語を話しているだと……!?


「話はわかった。それは、国の一大事。われが顕現しようぞ。」


 !!!????


「やったー! やっぱり、ギランド様、話がわかる!!」

「ほら、フェル様もお願いして。」


 えっ?


「何を?」

「ハンターをギランド様のパーティに入れてくださいって! だって報酬をハンターギルドにも入れないとでしょ!」


 俺はギランドを見る。

 あっ、目を逸らした。

 俺はリリアンに言われるがままに手を差し出してギランドに言う。


「ハンターギルドのマスターをやっているフェルナンドだ。うちの看板娘がお世話になっているようで。今回の水竜討伐の件、ハンターギルドも力を貸そう。」

「すい!!!」


 ギランドから息を飲む声が出そうになってる。


「フェル様! 失礼です! 物言いが上から目線すぎます!」


 そんな中割り込んで、リリアンがプリプリ怒りだした。

 怒ってる所も可愛いな……


「オホン。 すみません。ハンターギルドもお力添えできれば幸いです。」

「我の手を助けてくれるならそれは願ったりだ。我こそよろしく頼もう。」


 俺とギランドは手を握り握手を交わす。


「ふん。そこそこ強い奴のようだな。」

「てめぇ……」


 強く手を握しめる。

 あっ、まじで痛そう……


「ギランド様が褒めてるよ! フェル様、よかったですね!」


 リリアンさん、釈然としないんだが?


「頑張ったんだな。ギランド。」


 リリアンに見えないように肩を叩き、ギランドをねぎらった。

 すると、ギランドの目が少しだけ潤んだようにみえる。


 ギランドとの交渉は驚くほどスムーズに進んだ。

 問題もなくハンターギルドに戻り、ハンター募集を募る依頼書を作成する仕事をし始める。

 水竜なんて久々の大物だ。

 これは、ギルメン達もテンション大上がりだろう。

 うきうきしながら、手を動かす。

 

 集中して依頼書を作っていると、一本の電話が鳴った。


「こんな時間、誰だ?」


 電話を取り受話器に耳を当てる。

 かすれた男の声だ。


「今日の23時、時計台の下に来てくれ。」


 それだけの用件を告げると音声は切れてしまう。

 不審に思いながら、俺は電話を戻した。

 無視をしてもいいのだが、一人家にいるよりも、何かで時間を潰していた方が気が楽だ。

 俺は、時計台に行ってみることにした。


 そこには昼間会った黒ロープの男が……

 俺に気が付くと足を持たれつつ俺に駆け寄ってくる。


「うぇぇぇん!! フ゛ェ゛ル゛く゛ん゛。た゛す゛け゛て゛ぇ゛ー゛ー゛ー゛!!!」


 ローブの下から、ギランドが顔を見せる。

 いや、泣きすぎだろ。

 顔、ぐっちゃぐちゃやん……


「いやでも、お前、あんだけの啖呵切っておいてそれはねぇよ。」

「り゛り゛あ゛ん゛に゛き゛ら゛わ゛れ゛た゛く゛な゛い゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」


 俺は事情を聴くために、ギランドの肩を叩いて宥め続てけていた。

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