第5話 水龍討伐? そんなの楽勝だったよ。
「やっぱり、ギランド様は凄いですよね!」
ギルドマスター室にお茶をしにきていたリリアンが俺に話かけてくる。
「ああ……」
「まさか、水龍を一撃で葬る黒騎士ブエルグンを召喚できるなんて!! やっぱりギランド様は最高です〜!」
「ははは。」
ブエルグン……ださっ!!
まぁ、その黒騎士は俺だけどな。
はぁ……ギランドに頼まれたから仕方なく水龍討伐の様子を見てたら、ピンチもピンチ。
戦闘が始まってから、威勢よく出て行ったギルメン達も手も足も出ずに逃げ惑うだけ。
流石に全滅もあり得たからヤバイと思って出てしまったよ。
「そして、報奨金の全部をハンターギルドに寄付って。
もう、優しすぎですってば。もうっ」
「ポコポコ叩くなって。」
リリアン、テンションたかいな。
ギランドの奴が国から恩賞もらったのがそんなに嬉しかったのか?
俺とギランドの間で交わした約束は二つ。
俺は基本的に様子を見るだけ、勝てそうなら俺は手を貸さないし、ピンチなら手を出す事。俺が手を出したら報奨金は、ハンターギルドに寄付する事。
その代わり俺は正体を隠して、ギランドが召喚した黒騎士として戦う事。
結局、その約束が果たされた結果、ハンターギルドには大量のミスリル金が入ってきたわけだ。
名誉はギランドに、実利はハンターギルドに、全く都合の良い取引だったぜ。
……って俺は何一つ得してなくね?
いや、考えたら負けだ。
頭を振ってリリアンに話かける。
「ギランドの奴は元気にしてるのか? 大分ダメージ負ってただろう?」
「ギランド様は今、休息も取らずに修行してますよー。あんな、黒騎士が召喚できるなら必要ないでしょー。って言っても聞かないんです。」
まぁ、リリアンの信頼が欲しいなら、強くなっとけと、アドバイスしてやったのが効いてるのか。
魔王討伐メンバーって言うからには魔法の一つや二つくらい使ってもらわんとな。
「だから、私は暇になっちゃってるので、こうやってハンターギルドに来てあげてるんです。」
「お茶をしに来てるの間違いじゃないかな? 」
「でも、いいでしょー? フェル様も満更じゃないですよね?」
「まぁな。でも、ちょっとくらい仕事もしてくれてば……」
リリアンに苦言を呈しつつ、入れてくれた茶をすすり、ほっと一息つく。
「だって……」
だって?
リリアンはプルプルと震える。
「水龍討伐で、ハンターギルドが凄い盛り上がってるんですよ! 見てください! この大量の志願書の数々。物凄い数の入団希望者がいるんですからね!!」
リリアンは数千枚はある積み上がった紙の束を指差しながら俺に告げる。
「こんなのフェル様がギルマスになって以来の大仕事ですよ! こんな量の仕事なんてやりたくないです!!! 今まで暇なのが取り柄だったのに!」
「おい! ギルマスの俺に面と向かってそんな事言うなよ。」
「ギルマスのフェル様だから良いんです!」
「俺なら良いって。おい!」
「もう志願書の仕分けは嫌です! もっと派手な仕事したいです!!」
まぁ、確かにこの量は異常だな……
前は月二件くらいあれば多い方だったのに。それが数千って……
しかも……
俺を一枚取って内容をみる。
履歴者は俺にも読めない象形文字で書かれていて、どう考えても落書きにしか見えない。
「まぁ、悪戯も多いよなぁ……」
リリアンを宥めるように俺は告げる。
「ゆっくりで良いからさ。少しづつ頼むよ。」
ほっぺを膨らませながら、「はーい。」っと小さく答える。
「あっ、受付といえば、昨日、変な子がきたんですよね。」
「変な子?」
「はい。なんか水龍討伐に不満がある様子でした。
ただ、小汚い子供だったので、ギルメンの方に摘み出されてましたけど……
今日も来るとか言ってましたよ。」
また、トラブルか?
「トラブル大好きなリリアンは突っ込んでいかないんだな。」
「ちょっとー。フェル様、私はなんだと思ってるんですか?」
「トラブルメイカー。あっ、無言でポコポコ叩くなって。」
「そこはハンターギルドの名物受付嬢って言ってくださいよー!」
「すまん。すまん。」
リリアンとちちくり合っていると、コンコンっとドアが叩かれる。
「ギルマス、失礼します!」
「おう、どうした?」
「いえ、水龍討伐の時の話を聞かせろと煩い子供が来ていまして……」
「多分、さっき話てた昨日も来てた子ですよ!」
「摘み出せば良いだろう。」
「それが……責任者を出さないなら、この建物を燃やすって聞かなくて……ちょっと来てください!!」
「おっ、おう……」
ギルメンに案内されて受付まで降りていく。
「責任者を出せ!!!!」
怪しいローブを被った子供が、そこでは大声を上げていた。
その周りには人だかりが出来てガヤガヤしている。
ロビーの奴らの注目を集めていた。
「あれか?」
「はい。ギルマスお願いします!」
はぁ……
見せ付けるように大きくため息吐いて、子供に近づく。
「オマエが水龍討伐の責任者か?」
言葉遣いがなっていないようだ。
でも、俺は大人だ。
こんな餓鬼相手に本気になるのはバカげてるよな。
ふぅーと大きく息を吐き出して、
「どうも。俺が責任者だよ。用件を手短にね。悪いけど、俺らも結構忙しいんだよ。」
「誰が水龍を倒したのかちゃんと説明しろって聞いてんの!」
命令口調……しつけのなって無い餓鬼だな……
ふつふつと苛立ちが高まってくる。
見せるように大きく息を吐き出す。
「俺はハンターギルドのマスターだ。水龍討伐は大魔導師ギランドから依頼を受けてハンターたちを依頼書を作っただけだよ。全部ギランド氏がやってくれたことだ。」
すると、子供が懐に手を入れながら一歩前に足を進めてきた。
「ギランドってのはコイツでしょ?」
そう言ってギランドが写っている写真が見せられる。
「そうだね。って、その写真どこで撮ったんだい?」
明らかに横を向いて盗撮されたように見える。
そして、写っているギランドも明らかに若い。
魔王討伐の時くらいか?
「こいつは雑魚だから水龍を倒せる訳ないでしょ! 無い頭使って考えなよ!!!」
「あん?」
「ひっ……!」
いきなりの喧嘩腰の言葉に俺もついつい睨みつけてしまう。
「ギルマス、子供が相手ですよ。」
「いや、ついイラッと来て……」
「子供相手にキレるとか情けないですって。」
ギルメンに諭されて、胸に手を当てて、落ち着きを取り戻す。
「今回の水龍討伐はギランド氏の功績による物って報告を受けてるよ。」
「あんた責任者の癖に詳細も知らないの? バカじゃ無いの? 水龍の首を斬り落とした黒騎士がいたでしょ! あいつは誰なの?」
プルプルと震える俺の体をギルメンが止める。
「もう良い!! 本当に無能の集団ね! ワタシが燃やしてやる!!!」
魔法陣!
教科書通りとは言え、この精度の魔法陣はなかなか見ないレベルだ。
生意気なクソ餓鬼には生意気になる理由があるってわけか。
「ちょっと待て。君はなんで黒騎士を探してるんだ?」
「ワタシの可愛い水龍を殺したからだよ!」
「ワタシの水龍?」
そう言うと子供はローブを脱ぎ去る。
白い肌に乗った赤い目が目立つ美少女の顔がそこにあった。
そして、癖っ毛がある長い金髪の間から見せる大きな角が魔族であることを示していた。
その姿はかつて戦った魔王の姿を思わせるものだった。
「ワタシは魔王カーズの跡を継いで、新しく魔王になったマーズよ! ワタシの可愛い水龍を倒した黒騎士はこの手で殺す! だからさっさと出しなさい! 匿っても無駄よ!!」
「「「えええええええええええ!!!!!!!!」」」
こちらを見ていた周りがその紹介を聞いて大きな声を上げた。
少女の出した魔法陣が光る。
「全部、燃えちゃえ!!!!! お前らみたいな無能な雑魚は大っ嫌い!!!!!」
しかし、何も起こらない。
「見ろ! 魔法陣が消えていくぞ! こけ脅しだったのか?」
「えっ? なっ? 何? 何? なんで?」
魔王と名乗った少女マーズはへたり込んで、状況が理解できずに辺りをキョロキョロと見回している。
俺の手にかかれば、教科書通りの魔法陣なんて直ぐに解除できる。
指をパキパキ鳴らしながら、俺は少女を上から見下ろす。
「さて、ハンターギルドで魔王を名乗るたぁは度胸があるな。」
「ひっ……!!」
「さて、魔王の血族なら、相当の処罰が必要なようだ。」
「待って! 待って!! 違うの!! これは何かの間違いだよ!!!!」
「……」
「うっうわああああんんんん!!!!!」
突然、大声で泣き始めてしまう。
俺がどうして良いか分からずに、オロオロとしていると、
「おい、ギルマスがコスプレ少女を泣かせたぞ……」
「子供相手に大人気ねーな……」
そんな声が聞こえてきた。
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