第6話 なんだってこんな事が!!

「このまま、ロビーで泣かれていても邪魔なので……ギルマス、この子の面倒をお願いします!」っと、娘をギルメン達に押し付けられてしまう。

 仕方ないので娘はギルマス室に連れていき、話を聞く事にした。


 リリアンも居るし、まぁ、なんとかなるかな。


 部屋に戻ると、部屋に残っていたリリアンは少女を見て、めんどくさいことが起きると察知したのか、「それじゃー、私はお仕事に戻りますー」っと言い残して、俺らと入れ替わるように出て行ってしまう。


「あっ、おい!……って早いな。あいつ!」


 全く……自由人か!


 そんな俺の心のツッコミが届くことはない。


 気を取り直して、まじまじと少女を見る。

 年齢は10代前半くらいだろうか?

 身につけている物は、ボロボロで若干、鼻につく異臭を放っている。


 手入れがあまりされていないゴワゴワの髪と相まって、まるで乞食のような格好だ。

 今時、こんなあからさまな浮浪者は珍しい。

 普段どんな生活を送っているのか、心配になってしまう。


 そして、なんと言っても、目に飛び込むのは頭の左右に生えてた立派な二本の角。

 作り物じゃないそれは、少女が人でないことを示していた。


「ふぅー。」


 椅子に腰掛けて、息をつく。


「で、君はマジで魔王の子供なの?」


 なんか問い詰めてるみたいで嫌だが、流石に魔王の娘ってのが、悪戯なら毅然と叱らないといくまい。

 少しきつめな口調で問いかける。


「ヒッグ…ぐすっ……ひっく……」


 ダメだ。

 これ、ガチ泣きしてて言葉が出ないやつだ。


 俺はどうしていいかわからない。

 この少女を放置して、ギルマス室を離れるわけにもいかない。


 まぁ、泣き疲れたら止むだろ。


 そんな浅い考えで、暇を弄ぶように、回転する椅子に深く座り直して、くるくると回りながら時間を潰し始める。

 すると、急に泣き声がおさまった。


 そのタイミングを見計らって、俺は元気よく話しかける。


「ちょっと話を聞きたいだけなんだよ。」

「……」

「言いたくない事は言わなくていいから。まずは自己紹介からしようぜ。なっ。俺はフェルナンドっていうんだ。」

「……」

「好きなものでも話すか?俺はプリンが好きだぜ!」

「……」


 ダメだ反応なし……ため息が出てしまう。

 泣き止んでくれたが、ずっと下を向いたまま、何も話そうとしない。


 こうなってしまうとお手上げだ。

 年頃の娘への接し方なんて、俺にはわからない。

 魔物みたいに剣を振れば良い相手と違って、話さなきゃいけないってのは厄介な事だ。


 空気の重い部屋の中、時が流れが遅く感じる。

 しかし、息が詰まりそうでも時間は刻々と過ぎていく。

 窓から差し込む太陽の日差しも強くなり、時間を見ると、もう正午を迎えようとしていた。


 そろそろ昼飯だなぁ。


「おーい。俺はカツ丼頼むけど、君も食うかい?」

「たべる……」


 初めて反応してくれた。

 食堂に電話をして出前を取る。

 料理はすぐにやってきた。

 流石、速さだけには自信のある食堂。


「ほら。食べていいよ。」


 飯を前にすると目を輝かせて、かっこみ始めた。


「美味しい!」


 これが、美味い?

 普段、何食ってんだ。

 心配になりながら、見ていると、本当に美味しそうに、小さく口を動かし続ける。

 そんな機嫌良く食事をする少女を見ていて思った。

 今ならなんでも話してくれるんじゃねーかな?


「そうか。よかった。今度はもっと美味しい店に連れてってあげるよ。」


 少女の手が止まりそわそわしたかと思うと目を晒して、何やら考え込み始める。

 そして、おずおずと「仕方ないなぁ。ちょっとだけ付き合ってあげる。」と返してきた。


 思いがけない「付き合ってあげる」の言葉にドキマギする……


 なんてことはない。

 相手は人として成立するか怪しい奴だ。

 それにしても、こいつ、チョロいな。

 とは言え本題の話だ。


「なぁ、君さ。マジで魔王の子供なのか?」

「さっき言ったよ。一度で理解できないなんて、本当に人間って馬鹿なんだね。」


 煽らんと話せんのか?

 少し、躾をつけてやらんといかんな。


 パチパチッ。

 少女の背中に一雫の電流が迸る。


「ひゃん!!何?何!?」


 椅子から跳ね上がり、後ろをキョロキョロと見回して始める。


 そりゃ、まさか予備動作、魔法陣、詠唱もなく電撃魔法を出す奴なんて考慮外だろう。

 特に教科書レベルのやつには理解なんてできまい。


 悪戯も済んだところで、俺は、わざとらしく立ちがって「どうかしたか?」と聞いた。

「なんか今、背中にピリっとした!また、変なやつに狙われてるのかも?」

「俺の場所からは何にも見えなかったよ。忙しそうな所悪いが、こっちの用事が先だ。

 説明してくれ。

 さっきのが、子供の悪戯なのか、テロ行為なのか。見逃していいのか、衛兵に連絡して捕まえて貰う必要はあるか?

 色々と決めなきゃいけないからな。」

「通報すれば良いでしょ!別に衛兵なんて怖くないもん!」

「いいのか?

 もしも、魔王が再び現れたとなれば、一大事だ。

 しかも水龍の出現も君が関与してるという。

 悪戯ではすまないほどの大罪だ。

 良くて奴隷。

 もしかしたら死んだほうがマシだとという拷問を君が死ぬまで受け続ける事になるかもな。

 見たことはあるか?


 削ぎ切りの刑。


 街の中央には貼り付けにされた罪人を住民がナイフで身体を刻んでいく刑罰。

 あれは……」


 あっ、涙目になってる。

 びびらせすぎたか。


「ごほん。ちゃんと水龍を呼び出した目的と魔王と娘って所を説明してくれれば、見逃してやらんこともない。」


 でしゃばりたい魔族か?

 魔王みたいに世界征服でもやりたいのか?


 俺が黙って見つめていると少女はぽつりぽつりと話し出した。


「水龍は私の大事な友達だったの……

 お父様が死んでから私の側にずっといてくれた。

 あの日も、私が人の街に行きたいって我儘を聞いてくれただけなのよ。

 水龍は悪いことなんて何もしてないのに!」


 たしかに水龍は何もしてないな……

 出たから退治してくれって依頼されただけだ。


「どうせ!怖がりな人にはわからないよ!水龍はいい子なんだったってさ!」

「そうか。いや……それは悪いことをしたな。黒騎士には俺が強く言っておくよ。」


 少し難しい顔をした後、


「貴方、案外話ができるのね。でもあんなに強くて無愛想で強い奴にそんな事言うことができるの?」

「一応、俺はこのハンターギルドのトップだからな。黒騎士も俺の言いつけなら守るよ。それで勘弁してくれ。」


 まぁ、その黒騎士が俺だからな。

 少女は疑り深い目をしながらも、こくんと小さく首を縦に振った


「水龍の件はわかった。

 それで君が魔王の娘って、まじなのか?」


 ……あっ、何度も聞きやがってって顔してやがる。


「魔王が討伐されたのは10年前だろ。

 今まで何してたんだよ。」

「あの馬鹿勇者がいきなりお父様に挑むもんだから、見逃された四天王達が私を面倒観ててくれたの……」


 あー。いたなぁ。

 なんか変な四人組。

 魔王を倒した後、興味ないから放置したけど、まさか子守をやっていたなんて。

 元気にやってたようで何より。


「ちょっとあんた!なんで、遠い場所を見てるの!」

「あっ、机に乗るな!行儀悪いぞ。」


「四天王って聞いて驚いたか!?ふぅーはっはっは!誰もが聞いたことある名前だ!恐れ跪け!我がしもべ達に!

 その速さは神風の如く。敵を切り裂く。『神風ジーニー』

 熱きハートを巨大に宿す『地砕きの大明王』

 海の如く広い愛を奏でる歌姫『魁皇妃サンリーン』

『ビクビクロン』

 」


 ちょっと待て!うん?最後の何だ?


「もう一回頼む。」

「全く、あんたは本当に馬鹿ね。

仕方ない。もう一度言ってやる!

 神風ジーニー、地砕きの大明王、魁皇妃サンリーン、ビクビクロンで魔王四天王!恐れなさい!」


「ちょちょい、なんで最後のやつだけ、○○のみたいなやつがついてないの?」


「ビクビクロンはビクビクロンだからに決まってるでしょ。

 全くこれだから人は……」


 くっそ……


 それにしても魔王の四天王が生きていて、その娘が現れたって割と凄い大事件なんじゃ……


 ん?


「そういや、それって、人の俺に話してよかったのか?

 魔王四天王が生きてるなんて大ニュースだと思うんだけど?」


 はっと気づいたように顔を赤らめて口の抑えて、激しい瞬きをしながら俺を見る。


「これ、言っちゃダメだって言われてたーー!! 記憶消して!!!」


 無茶言うなよ…


「で、その四天王様たちは……?ってなんだよその顔」

「えっ! 人は四天王の名前出せば怯えて土下座するってサンリーンに教えてもらってたのに、あんたは怯えないのね。」


 あー。


「いや、いや、怖がってる。怖がってる。」

「そう? 見えないけど…」


 細かい所に、気がつく奴だ。


「もう、あの鬼畜勇者ぴえんらんどはもう居ないのに、あんたはよゆーがあるのね。」


「ぴえんらんど?」

「お父様を殺した憎っき勇者よ!」


 魔王を倒した?

 つまり、俺らのチームか?

 誰だよ!

 ぴえんらんどなんて奴、俺の仲間にいなかったぞ!


「いや、知らん…」


 はぁ。と大きくため息をつくと、

「説明してあげる。深淵の探索家『ジェット』、鉄壁の守護者『サバタ』、虚言の魔術師『ギランド』、伝説の剣術家『フルルード』、そして、『ぴえんらんど』。こいつらがお父様を討伐した奴らなのよ。そしてこいつらはぴえんらんどのワンマンチームだって分析済みよ!」


 おいぃ?ぴえんらんどって俺か!?

 なんで他の奴らは知られてて、フェルナンドが知られてないんだよ!

 というかビクビクロンの位置に俺を置くのやめてくれ。


 チラッと見ると、ドヤ顔をこちらに向けている。

 反応に困る……


「へ、へー。」

「そしてぴえんらんどはすでに死んでるわ!」

「な、何ぃ?どういう事だ!!」


 勢い余って机を叩いてしまう。

 ビクッとして少女がすこし飛び上がる。

「急にドンってやるのやめてよ……」


「あっ、すまん。」

「言葉通りよ。すでに、ぴえんらんどは居ない!戸籍もしらべたんだから!」


 そりゃ、お前。

 ぴえんらんどなんて奴はそもそもいない訳だしな。

 てか戸籍調べられるって王国さん、管理雑すぎない?


「あなた勘違いしてるわ!王国がダメなんじゃなくて、ビクビクロンの手腕が完璧なのよ!誰にもバレずに戸籍を探すくらい造作もないことだわ!」


 やるな。ビクビクロンってやつ。

 出落ちキャラかと思ったら、優秀じゃないか。

 まぁ、そんな功績も今、ぶっちゃけられてバレてしまったんですけどね。

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