第7話 外堀から埋めるってそれはバレちゃ意味ないですよ

 これは、魔王の娘マーズが仲良しだった水龍の仇を討つべく、謎の黒騎士を探しにフェルナンドがギルドマスターをやっているギルドに来訪していた時の事。


 フェルナンドが住む王都から少し離れた都市がある。ここはかつて恐怖の象徴だった魔王城の跡地に建国された魔族と人族が共存する唯一の国。

 そこにある小さな借家の一室の中で起きていた話である。

 四畳半の狭い空間に置かれた大きな丸テーブルを囲んで、四人の魔族が侃々諤々の面持ちで話をしていた。


 議論は当然、水龍を一撃で葬った謎の黒騎士についてである。


「くそっ!!! なんだ、あの黒騎士! 突然現れたと思ったら一撃で水龍を消し飛ばしやがったぞ! あんな奴がいるなんて聞いてない! あの強さ……魔王様を討った忌々しい勇者に近かったぞ! どうなっているんだ!!」


「そうよ! あいつは、あの勇者ピエンランドは死んだんじゃないの!? もう王国に戸籍も無いんでしょ! ねぇビクビクロン?」


「ああ! 俺様の調査に間違いはない!」


「それじゃ、水龍を殺ったあの黒騎士は一体何なんだよ!」


「そんなの俺様が知るかよ……」


「お前の調査が間違っていたんじゃないか!?」


「いやいや、ジーニー君さぁ。俺様の所為にするのやめてくんないかな?」


「そうだって。ジーニーの悪いところよ。直ぐ人の所為にするの。」


「サンリーンもビクビクロンも俺が悪いってのかよ!!!」


「まぁ、落ち着けよ。一番雑魚のジーニー君。悪いのはお前だから。」


「ぷぷぷ。」


「ムキー!!!!!」


 三人の魔族の会話は話題を発散させて互いを責め始める様になってしまった。

 既にヒートアップしており、席を立って顔を見合わせながらぶつかっている。


「皆、落ち着けぃ!!!!!」


 大男の一言で皆が息を吐いて席に座る。


「で、大明道君よぅ。なんだよ。」


「私は見ていた…… 奴だ。奴の仕業だ。魔道士ギランド…… 当時は勇者ピエンランドに突っついているだけの金魚の糞だった奴が、魔術により召喚したのだ。あの黒騎士を……」


「何っ!? あの雑魚が?」


「ジーニーに雑魚って言われるって相当よね。」


「あん? 喧嘩売ってんの?」


「あら? 買うの?」


「まぁ、今日は見逃してやるけど。」


「ださっ」


「あんっ!?」


「またか。止めんか!! お前達! マーズ様が起きてきたらどうする! 仲良くせんか!!」


 三人は顔を見合わせてから小さく「はい……」と返事をした。


「なぁ、場所を変えようぜ。」


「そうね。賛成。」


「良いね! あそこ行って、飯食いながら話そう。」


「話も聞きたいからな。よし行こう。食事処『フェルナンド』に。」


 ジーニーの提案に皆が同調して、外に出て行く。

 食事処『フェルナンド』は最近できたレストランだ。

 安価で大盛。味も旨い。

 そして、店長兼料理人が元勇者の鉄壁の守護者サバタという事もあり、店の中の治安は良い。

 夫婦で切り盛りをしており、そういった部分もアットホームな雰囲気が漂っている。

 色んな要因が重なり、出来たばかりに関わらず、多くの人や魔族が行きかっていた。


 しかし、今は朝や昼からは少しずれた時間。

 いつもは人で溢れかえる店も今ばかりは人もまばらである。

 四人は店につくと、若い女性、ホールの仕事をしているサバタの妻、マーガレットが礼儀良く挨拶をして席に案内をしてくれる。


「いつもご来店ありがとうございます。ジーニーさん、サンリーンさん、大名道さん、ビクビクロンさん。」


「ああ、女将さん、いつもよくしてくれてありがとうございますですな。」


 マーガレットはその記憶力の高さから一度覚えた常連の名前や顔を忘れない。

 そして、常連にあったサービスを提供してくれる。

 だから味や治安の良さの他のもこういったサービスの質の高さからも、『フェルナンド』はリピーターをどんどん増え続けているのだ。

 いや、もっと言えば、サバタが飲食店を始めたことも、マーガレットと結婚したことも、この魔王四天王の策略によるところが大きいだろう。

 そんな事情は全く知らない、サバタは四人を厨房から見たのか「あー。皆さん、いつも来てくれてありがとうだよ~。」といいながら、恰幅の良い体を揺らしながら近寄り挨拶をしてくる。

 それにビクビクロンが応じて丁寧に頭を下げた。


「店主よ。いい感じで繁盛して良いですなぁ。」


「ですね~。皆さんがお店に始めたらいいんじゃないか? ってアドバイスしてくれたから、僕もやる気になれたんですよ。」


 四人はこの店、食事処『フェルナンド』の常連であったのだ。

 

「今日もサービスしますよ~。マーちゃーん、あのケーキを出してあげてー。ごゆっくりしてください~」


「わかりました。」


 そういってのんびりした様子でサバタは厨房に消えていった。


 サバタとの雑談を終えてマーガレットが、「四名様をいつものお部屋にご案内しますね。」と言って案内をしてくれた。

 個室へ案内した後にメニューとともに、四切れの綺麗な色どりのケーキを持ってきた。

 美味しそうなケーキを見て「おおぉ!」っと思わず感嘆の声で聞こえてくる。


 四人は特別に提供されたケーキの口に運びながら、先ほどの議題に戻るのだった。


「で! 大明道よ。あの黒騎士については本当なのか? あのへっぽこギランドが召喚したってのはよ!」


「ああ。間違いない……ギランドが出した魔法陣の中から、奴が飛び出るところを私は見たのだ……」


「くそっ! まさかギランドの奴が勇者になるとはな。 この展開は俺様、ビクビクロンの目をもってしても見抜けなかった。」


「それよりも対策だ! そんな黒騎士が居るとマーズ様を中心とした魔王軍復活計画も台無しじゃねーかよ! 折角、あの勇者パーティの鉄壁サバタの野郎はこうして戦いから下ろしたってのによぅ。」


「ジーニー! 声が大きいぞ! 店主に聞かれたどうする!」


「あいつは頭パーだから大丈夫だよ。未だに俺達を親切な魔族だと思ってやがる。本当は魔王復活を企てるのによう。」


「大明道は心配症なのよ。ここばかりはジーニーに賛成だわ。お店やればって言ったのはケーキが美味しいからってのは本当だけど。」


 満足気な顔をしながらサンリーンは口にケーキを運んでそんな事をつぶやく。


「まぁ、確かにサバタが作る飯は旨いな。アイツを張り付けるためにも店に通っている訳だが、サービスもどんどん良くなるから一石二鳥だな。」


「これから、ギランド抹殺計画を始動するぞ……」


「誰がやる?」


「ジーニーから様子見で。」


「あん? さっきからサンリーン、俺に喧嘩売ってる?」


「買うの?」


「いや、買わないけど。」


「ジーニー、だっさ。売ってるんだからそろそろ買えよ。」


「そうだな。分かったよ。」


「おっ、サンリーンと戦う気になったか?」


「違う。そっちじゃなくてギランドの方だよ。俺が、あの金魚の糞を潰してやるよ!」


「なーんだ。わたしも折角やる気になってたのにな。」


「なんだとはなんだよ。」


 三人が言い争いをしていた時に、マーガレットが様子を伺い声をかけてきたのだ。


「あのー……」


「女将、どうしましたか?」


「いえ、注文どうしますか?」


「あぁ、ミートソーススパゲッティーを4つで頼む。」


「かしこまりました。」


 料理は直ぐに提供された。

 大きなミートボールがたっぷり乗せらせたオリジナルトマトソースに絡む大ボリュームのスパゲッティ。

 この店の名物でもあり、濃厚なミートソースがまた食を進ませる。

 ジーニーはミートソーススパゲッティを頬張りながら、「マーズ様に食わせてやりたいよな。サンリーンの糞マズ飯だけじゃなくよ。」と言葉をつぶやく。


「はぁ? 喧嘩売ってる?」


「売ってませーん。だから買う事もできませーん。」


 あきれた顔を浮かべながら、サンリーンもつぶやく。


「そういえば、マーズ様と言えば…… マーズ様は水龍と仲良かったから心配ね。」


「そうだな。俺様も水龍が殺られたという事は伏せていた方が良いと思うぜ。」


「私もそう思うな。」


 三人の意見がマーズへの対応を述べた後に「あー……」と小さく零すものがいた。

 ジーニーだ。何かしまったという顔を浮かべいた。

 それに目ざとく気が付いた大明道がジーニーに聞く。


「どうした? ジーニー?」


「昨日、言っちゃったZE。」


「言っちゃった? 何を?」


「マーズ様に、水龍が王都のギルドにいる黒騎士って奴にやられたって。」


「あんたって馬鹿だと思ってたけど……」


「おいおい。それで、マーズ様はどうだったんだ?」


「えっ、あー……凄く怒ってたな。」


 そうして、場面は遠く離れたギルドマスター室の中に移る。

 彼らはしらない。

 謎の黒騎士フェルナンドの目の前で少女マーズがイキりながら、魔王四天王の名前や今後の計画を晒している事を……

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