第11話 えっ、この王様……誰……??

「で、フェルナンド様、魔王の子供を捕らえたと聞きましたが……えっと……どこに?」


 俺は無言で視線をマーズに移す。

 マーズは急に見られたためかきょとんした阿保面のまま首を傾げた。

 こいつは察しの悪いアホな子なのだ。

 だが、俺の視線で察したのだろう。大臣はうんうんと首を縦にふった。

 随分と仕事のできる大臣だ。国の官僚にしておくのはもったいない。

 直後、大臣はうーんと唸り出した。


「この娘が……?」


 大臣の言わんとしてる事はわかる。

 たしかにマーズはお子ちゃまだ。

 魔王の子供とか言われて直ぐに納得できる材料はあるまい。


「あぁ。」


 だが、あえて説明しない方で深みを持たせるため俺の短い返事を返す。

 これは、非常に効いたようだ。大臣は納得したようにうなづいた。


「それにしても、俺は危険分子を掴まえてきたのに、随分とたらい回しにしてくれたもんだ。」


「それはすみません。常に王城を開門している手前、謁見の手間を複雑にしないと、不審者に簡単に入られてしまいますから。これも警備の一環ですのでどうかご理解をいただきたい。」


 警備のためとそれなりの理由を出せれたら納得せざるを得ないわけだ。

 しかし、兵士の態度にはいささかの不満がある。

 それくらい指摘してもいいだろう。


「理解はするが――」


 俺が言いかけた時に割ってきたのはリリアンだ。


「フェル様~、理解しないで! ここは断固抗議の姿勢で行きましょう!!! 大臣は善良な市民を信じてないんですか!?」


「ぜ、善良……???????」


 そら、水龍の報酬をぼったくった奴が善良は市民な訳があるまい。

 大臣の反応は当然と言えよう。


「もう今日だけで一年分の運動はしましたよ!!! いえ……一生分かもしれません!!!? これで動けなくなったら、責任と賠償を要求しますからっ!!!」


 そのリリアンの言葉に大臣がびくりとおびえたのを俺は見逃さなかった。

 リリアンの奴、水龍の時はどんな事やったんだ???

 ギルドの事務をこいつに任せてて大丈夫か。そんな一抹の不安が俺の脳裏をかすめる。


「それはリリアンが運動不足なだけだと思うぞ……」


 横から魔族のマーズにすらマジレスされる始末だ。


 ほっぺたを膨らませて怒れるリリアンを置いておいて、大臣が咳払いから話を始めた。


「ごほんっ。まっ、まぁ。意見は受け止めておくとして……フェルナンド様、王様がお待ちですよ!」


「王ねぇ。」


 王とは、魔王討伐以降会っていない。

 俺が出向くわけでもなく王から俺の方に来るわけでもないから当然だ。


「とりあえず、会ってくれると言うなら、インフレを起こした事についてはぼろくそに言ってやるか。」


 大臣に案内されるまま、真っ赤なカーペットの上を進んでいく。


―――

――


 少し進むと、成金趣味全開の嫌らしい豪華な扉が俺たちの目に入る。ドラゴンを模した飾りは悪趣味と言わざるを得ない。


「あの扉の先に王がいますぞ! きっとフェルナンド様もびっくりされるでしょう。」


 俺が驚く事があるなら、まずはこのヘンテコな成金趣味のオブジェだ。良くもこんなのに税金使ったよ。ったく……

 俺のいらいらをかき消すように小太りの男が姿を見せた。

 俺より一回りは若い奴だ。


「おうおう。よくぞ参った。ハンターギルドの者どもの!」


 おう? 誰? 俺の知ってる王族の人じゃないんですが?


「私はドリアン・グラタンハム・マリトッツォ。第三十二代国王であーる!!!」


 ドリアン? グラタン? ハム? マリトッツォ?

 名前舐めてんのか?

 それに、三十二代国王って……

 魔王討伐の依頼をしてきた国王は三十代で息子に継いだから、今は三十一代じゃねーのか?


「あれ? 国王様ってもっとイケメンだった気がします〜」


 リリアンは失礼なことを呟いている。

 あっ、王様の顔面が赤くなってるよ!?


「ふぅ……私はまだ王様になりたてだからね。 知らないのも無理ないよ。」


 怒りを飲み込んだ王様が見せつけるように息を吐き出した。


「ガストロ……ゴホン。先代はどこ行ったんだよ?」


 ガストロリンド。コイツは、先代の王だった息子だった奴だ。

 順当にいけば息子のこいつが王になるはずである。

 先代王の時から王位を継承する予定があったのか、様々な革新的な政策を進めた元凶だ。

 今国で起きているインフレの原因を作ったり、ハンターを規制したりとやりたい放題した奴でもある。

 性格は合理主義で、理屈や正論の塊みたいな奴だった。奴の矮小な常識に当てはめられない俺はすこぶる嫌われていたな。


「ガストロリンド王は亡くなられました……」


「亡くなった!?」


「えぇ。魔族の仕業です。寝室で無惨に惨殺されておりました。水龍が出た晩の出来事です。このニュースは水龍の襲来というより大きく緊急性のある方に流れてしまったのです……」


 まぁ、水龍は災害レベルだからな。

 それにしても、ガストロリンドの奴……

 警備もつけてなかったのか?


「で、ハムが王様になったと?」


「ハム……!? ごほんっ…えぇ、ガストロリンド様の一人息子であるトムハート様はまだ三歳に満たない幼児。


 ハムって呼び方はに食わなかったらしい。

 って、ガリストの奴は、息子がいたのかよ!



「残念ながら王位継承権はありません。

 そのため、再従兄弟はとこである私が暫定的に王様をやっているといった感じです。」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る