第10話 この国の王様って奴は……全く……やれやれだ。

 フルルードと別れた俺達は、王へ謁見するために、手続きをしていた訳だ。


――が。


 全くもってお役所仕事と言わざるを得ない。

 広い城の中をあっちにこっちに行ったり来たり。

 リリアンなんて、久しぶりの重労働だと言わんばかりにヘロヘロになってやがる。


「リリアン、大丈夫か?」


 マーズにすら心配そうな顔を向けられている。


「はふぅ……大丈夫……大丈夫ですよぉ。はぁ、はぁ〜…マーズちゃん……お姉ちゃんはこんな事じゃへこたれません……」


 その声は空元気というのが正しいだろう。

 ギルドの事務員なのに情けないったらないな。


「全くこの程度で息が切れるとは、歳と言え流石に鍛えが足りんぞ。」


 俺もついつい口を出してしまう。


「誰が歳ですか!! まだ私、ピチピチの二十代です!!!」


 まぁ、元気が出たようでなにより。

 このくらい騒ぐ元気があるなら、大丈夫だな。


「おい、フェルナンド、女の歳を突っ込むなんて失礼だぞ。相当モテないだろう。」


 マーズがそうぼそりと呟いた。

 モテない奴……だとっ!? クソッ……事実なのが余計に返しにくい。


「別に……少しくらいモテるよ。」


 精一杯の強がりをマーズに返した。


―――

――


 そんなこんなで五個目の受付に到着した。

 ただっぴろい庭園の中の中にある小さな小屋だ。マーズはその庭を輝かしい目でじっと見ている。

 どのくらいの工事費がかかったのかだろう?

 この世のものとは思えぬほど綺麗な庭園だ。

 天使の庭。

 

 そんな名前が付けらるほど多くの緑の中と青い空、天使をモチーフにした石柱のコンストラクトが美しい。

 見とれていると、後ろから兵士の気だるげな声が聞こえてきた。


「はい。書類確認しました。こちらが謁見の間への入室証です。どうぞ。」


 差し出されたのは王国の紋章が書かれた紙に自分の名前が書いてあるだけのチープな作りの入管証。

 これを作る為だけに、どんだけたらい回しにするんだよ。


「そして、あの扉の先が謁見の間です。」


 甲冑を身につけた兵士の指差す先には遠く離れた場所からでもわかるくらい立派な門が立て付けられている。


「え〝っ〝! まだ歩くんですかぁー。やだー!」


 半分くらい涙目になりながら、リリアンが叫んだ。

 リリアンほどではないが、これだけ、動かされたにも関わらず、謝罪や労いの言葉がなく、それどころか、めんどくさそうな声色で案内する受付の兵士に若干の怒りが込み上げてくるってもんだ。

 しかし、殴り飛ばしても一切の得はない。まともに相手にせずさっさと進むが吉ってもんだ。


「あぁ、わかった。リリアン、マーズ行こうぜ。」


「ああ!」


「はぁーい……」


 リリアンとマーズが返事を聞き、先に進もうと一歩踏み出したとき、兵士がフェルナンドを呼び止める。


「あー。謁見が済んだらまたこっちに戻ってきて退館の手続きしてくださいね。」


 プチィッ!!

 兵士の言葉にイラッとしてしまった。


「君らさ。もうちょい真面目に仕事しろよな。なんで入館の手続きをやってきた方が色々やらなきゃいけないんだよ。」


 いうつもりはなかった苦言が出てしまう。


「決まりですんで。」


 これが客商売なら間違いなく二度と使われることはないだろう。

 つまらなそうな顔をする兵士に見せつける様におおきなため息を吐いて、踵を返す。

 相手はするのも馬鹿馬鹿しい。


「あぁ、わかった。」


 パチンッ

 俺は振り向きざま、指をはじいた。

 それを合図に数本の火炎柱が大地より這い出てくる。


 大魔法「フレイムピラー・マキシマムス」


 地面にそり立つ無限の炎の柱が辺り一帯を燃やし尽くす魔法だ。

 俺くらいの猛者になると、大魔法すら、指パッチン一つでできるのだ。


 俺は美しい天使の庭にこの魔法をぶっ放す。

 当然だ。仕方ないよな?


「あ゛あ゛あ゛!!!!!Aうtyrじょいういkh!!!!」


 窓が赤くなった時、兵士が謎の悲鳴を上げて飛び出していった。

 慌てふためいた兵士を見て溜飲を下げてから、リリアンとマーズに話しかける。


「なんか大変な事が起きてるが俺たちはさっさと行こうぜ。俺らには関係ないしな。」


「大魔法なのだ……誰が……」


 マーズはそう呟きながら呆然としていた。


―――

――


 疲労困憊となったリリアンのペースに合わせながら、暫く歩くと、指を差された場所にある扉の前にやってきた。

 やはりその大きさは異常だ。

 見上げても先が見えない。こんな身長の人間なんておらんだろうに。

 門の前にある古屋の中で欠伸をしていた兵士に入室証を見せつけると、ダルそうにしながら、何やら手元をいじりはじめる。

 すると、大きな音を立てながら、扉が開き始めた。

 なんか魔王の城で見たギミックだな。

 なんとも無駄に豪快なこって。

 というかこんな無駄な機能つけるくらいなら兵士のやる気でも上げたらどうなんだ?

 俺はそう呆れてしまう。

 すると、横からマーズが大きな声をあげる。


「おぉ! 凄いな! 扉が勝手に開いていくぞ! ここに先に国王がいるのか! なんかワクワクしてきたぞ!」


 本当に純粋だなぁ。君は仮にも魔王の子供だろうに。


「ほら、そんなにはしゃぐなよ。」


 すぐに飛び出しそうなマーズに注意を促しつつ、床に敷かれた真っ直ぐ続く端に緑線が入った赤いカーペットを歩いていく。

 少し進むと、緑の枠線に沿って兵士たちが整列している。どうやら横道に逸れる事は出来ないようにしているのだろう。


「ふんふん。こうやって権威をかざす訳だな。私の城を作る時の参考にしよう。」


 何やら不穏な言葉を呟くマーズを無視していると、一人の男が目の前に現れる。


「やぁ、フェルナンドさん、お久しぶりですな。」


 誰だっけ?


「フェル様、大臣ですよ。水龍退治をギルドに多額の報奨金で依頼してきた。」


 ひそひそとリリアンが耳打ちをしてきた。

 水龍の友達と言っていたマーズに聞かれない様にする配慮なのだろう。


「あぁ。」

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