第9話 城にやってきたら、旧友と再会したでござる。

 国家反逆罪の容疑者、魔王の娘マーズを連れて、リリアンと共に、俺達は王城にやってきたわけだ。


「ここがお城かぁー。ピカピカで、でかいのだ……なぁ、リリアン! 凄いと思わないか!?」


 マーズは空を見上げるように顔を上に向けてつぶやいた。

 こいつはなんでここに案内されてるのかわかっていないようだ。


「凄いよねぇ。いつ見ても金で出来た城は圧巻ですぅ。」


 マーズとリリアン二人の意見は最もだ。

 金の城。どうやら魔王を討伐した時に得た黄金の卵を産む鶏を使って作ったらしい。

 つまり俺のお陰なのだ。

 ただ、俺はこういう金ピカはあんまり好みじゃない。

 見てるだけで辟易しっちまうぜ……


「おーい。リリアン。マーズ。ここは眩しいから、俺は先に中に入って待ってるぜ。」


 入口で立ち止まっているリリアンとマーズに声をかけて、城の中に入った。

 ちなみに、この王城は見学ができるように一般公開されている。

 成金趣味のところは嫌いだが、そういうサービス精神は割と嫌いじゃない。

 しっかし、中もピカピカなのな。

 俺がリリアンとマーズを待ち、休憩室のテーブルに座ってると、不意に声を掛けられた。


「あっ! フェルナンド殿ではないだろうか!?」


 聞き覚えのある男の声。


「誰だ?」


 呼ばれた方を振り向くとそこには懐かしい男の姿があった。


「お前は、フルルード!」


 立っていたのはフルルード。

 東の国の武士とやらが来ている伝統的な着物を着たガタイの良いつるっぱげ。

 いや、頭頂部にほんの少しだけ髪がある。

 ちょんまげ? とか言ったか?

 これは東の国の伝統的な髪型らしい。

 変な髪型のこいつは魔王討伐の時のメンバーの剣士一人であるフルルード。

 東の国に強い憧れを持っているらしく、いつもこんな格好をしている。


 ……因みに、フルルードはこの国の出身だ。

 俺が知る限り東の国には行った事すらないはずだ。

 何がそこまで惹きつけるのか?

 まぁ、何はともあれ変なやつには違いない。


「元気してたでござるか?」


 ござる……

 この独特の話し方もなんだが懐かしい。


「まぁ、ぼちぼちだよ。で、フルルードはこんな場所で何をしてるんだ?」


「拙者は、国の一大事にはせ参じた次第で候。」


「国の一大事?」


「ふむぅ。なんでも、水の竜が現れたとかなんとか。それで今日は王城に伺ったのでござるが。」


「あぁ……」


「しかし、拙者が戻ってきた時には、水の竜は既にギランドとハンター達が討伐してしまったと聞いたでござる。全く肩透かしを喰らってしまったのでござったのよ。」


 肩を落としてフルルードは項垂れた。

 最近、魔王討伐した時のメンバーと会うことが多いな。

 ジェット、サバタ、ギランド、フルルード。

 何やかんやで一番、傭兵業を楽しんでいた時の面子だ。

 変な奴らだが気負いしなくて良いのは楽だな。


「フェル様~! 先に行くなら行くって言ってくださいよ! って、その方はどなたですか~?」


 リリアンが休憩室に入ってくると、俺を見つけて手を振りながら近寄ってきた。


「いやいや、俺は先に中で待ってるって言ったぞ? それで、こいつは――。」


「貴様はフルルードだな!!!」


 リリアンの後ろから付いてきたマーズが声を上げた。


「あいや! 拙者をご存知とな!?」


「我が父、魔王様を討伐した伝説の剣術家『フルルード』なのだ!」


 マーズはフルルードを指を指しながら、叫んだ。


「えー!? そうなんですか?」


「あっはっは。その通りでござる。拙者も魔王討伐をしたパーティの一員。まぁ、魔王討伐パーティは、そこのフェルナ――モゴッ!?」


 当然、この二人には俺が魔王討伐パーティのリーダーであることを伝えていない。

 面倒になるからな。

 フルルードを口を塞いで、俺の事を話そうとしたことを止めてから、こっそりと耳打ちをする。


「フルルード。こいつらには俺が魔王討伐パーティのリーダーであることは内緒にしててくれ。」


「?」


 当たり前だが、何、言ってんだって顔してやがる。


「まぁ、そっちの方が面白いからな。」


 フルルードが首を縦に振ったので、俺は手を放してやる。


「ぷはぁ。全くフェルナンド殿もいきなり酷いでござる。」


「フルルードさんも魔王討伐パーティの一員なんですね?」


「拙者『も』? 他に誰がいるのでござる?」


 フルルードは俺を視る。

 俺は首を横に振り、俺じゃないという事をジェスチャーで伝える。


「あっ! 私の彼氏のギランド様です! ご存知ですよね! ギランド様は魔王討伐パーティの大魔道士だったんですよ!」


 フルルードの奴、この世の終わり見たいな顔してやがる。


「あのギランドに彼女が……!?」


 驚くところはやっぱりそっちだよな!


「えへへ。そうなんですよ。」


 ほのぼのとリリアンは返答しているが、フルルードの言う『あの』には、色んな意味が込められているぞ。

 ツッコミたいが、流石に幸せな娘を不幸にすることもあるまい。

 

「へ、へぇ、それは吉報でござるな……」


 フルルードは露骨にドン引きしてる。


「リリアンは男の趣味が悪いのだ。」


「マーズちゃん。趣味が悪いって酷いじゃない。ギランド様はとっても素敵なのよ。昨日もね。うふふ♡」


 リリアンがマーズの頬っぺたを引っ張ってじゃれ合い始めたので、二人を見ていると、フルルードが話かけてきた。


「して、フェルナンド殿はどうしてここに?」


「あぁ。まずはリリアン―—あの頬を引っ張ってる奴が、大臣を怒らせたらしいから、その謝罪。あと、マーズ――あの頬を引っ張られている奴の社会見学のために城に来たんだよ。」


「ほほぅ。」


「それに、実はマーズの奴は魔王の娘でさ。ついでに報告にきたんだよ。」


「あいや!! なんと!? あの魔王の? 冗談ではござらんかったのか!?」


「らしいぜ。」


「言われると確かに面影があるような……幸いなことに魔王のような魔力は持っていないようでござるが。」


「それは、俺が|魔法阻害領域<アンチマジックフィールド>を貼ってるからだな。」


 フルルードには申し訳ないが、マーズの魔力がそこそこあることは内緒にしておこう。

 魔力のない無害な奴なんだと説明ができなくなるかもしれないしな。


「し|魔法阻害領域<アンチマジックフィールド>でござるか。上位魔法を簡単に使うのでござるな。

 しかし、フェルナンド殿は隠居生活をしていると聞いていたでござるが、相変わらず無茶苦茶な力でござるな。」


「まぁな。そうだ。今日この後は暇か?」


「そうでござるな。暇と言えば暇でござる。」


「なら今日は酒でも飲み行こうぜ。いい店知ってるんだよ。」


「おっ、それは良いでござるな! 久々に飲み明かそうぞ。」


「ちょっと! フェル様! お酒飲むって何ですかー! 今日の目的忘れてませんか?」


「いや、忘れてないよ。大丈夫。」


 リリアンの注意を軽くあしらい、フルルードに告げる。


「それじゃ、フルルード、ハンターギルドで待ち合わせって事で。」


「了解でござる。それでは御免! 久々に戻ってきたこの街を観光してから、ハンターギルドの方にお邪魔するでござる。」


 フルルードは手を上げながら、去っていく。

 久しぶりって事は今はこの街に住んでないのか?

 まっ、つもる話も飲みの席での楽しみって事で。


「終わってからの楽しみも増えたところで、さっさと大臣のところに行こうぜ。リリアンの件の謝罪と、マーズの報告もちゃっちゃっとしますかね。」


「私らの事よりもお酒を優先するとかフェルナンドは凄いのんべぇなのだな。」


「そうですよ! 女の子よりお酒ってすっごくサイテーですね!」


 おぁ、何故か二人に攻められている……


「まぁまぁ、久々の旧友に出会ったんだ。許してくれ。」


「そういえば、フェル様って、ギランド様含めて、魔王討伐パーティの英雄たちと、どういう関係なんですか?」


「えーっとだな。」


 なんていうかなぁ。


「言いにくいのか? なら私が当ててやろう! 勇者一行の近くに居て名前も残らない存在…… そうか! 分かったぞ! 専属の召使いだったわけだな!」


 召使い!?


「そうなんですねー! もう。フェル様ってプライド高いですもんね。そりゃ言えないわけですよね。」


「誰が召使いじゃー!!!」

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