問題児のEクラスと思えば異常者が混じっていた。
偉そうな学園長が話している中、真面目に聞いている学生と会話をする学生がいる。
前者は真面目で後者は不真面目に見えるが、後者の方はただ聞く気がない奴だけでなく、しっかり情報交換を目的とした賢い奴も混じっていた。
教師達が誰も注意しないのも、そういった生徒達の意思を尊重している証拠とも言えた。
そして、同じく聞くのが面倒になってきた俺もまた会話こそしないが、バレないようにクラスメイト達を観察していた。ついでに魔力も探って見ると色々と分かってきた。
結論だけ言うなら『なんかヤバそうだ』と言うことが分かった。
正直勘でしかなく軽く目を通しただけ、魔力自体が膨大とかそういう奴もいなかった。
しかし、ただの一般人とも思えない気配を纏ったり、隠したりしている者が少数であるが混じっていた。
まず1匹狼っぽい不良男子。見た目は不良にしか見えない金髪男子であるが、制服越しでも分かる戦い慣れた体格をしている。ただの喧嘩ではまず身に付かない。
次にアイドルのような笑顔を振り撒いている女子生徒。サイドテールの赤っぽい茶髪の彼女は、迷惑にならない程度に笑顔で男女問わず話しかけている。
雰囲気はお淑やかな感じがあり誰でも気を許してしまいそうで、とくにこの場で緊張している者達なら安心感を得ようと自分から接していくに違いないが……。
アレの雰囲気は
しかも、ハニートラップなどの色仕掛けを得意として、コミュニケーション能力を持って相手の性格や心理状態を掌握する厄介なタイプ。
関わったらロクな目に合わない。関わりたくないレベルならハーレム願望の時一と良い勝負な気がした。
他にも色々といるが、とくに目に止まったのは2人を含めて5人。
女子達に囲まれているけど血の気配がプンプンするイケメン男子。時一は恨めそうに他の男子達と睨んでいるが、後で関わらないように忠告しておくか? ちょっかい出して血の池にでも変えられたら目覚めが悪いし。
学園長の話に興味なしか全く聞かない小柄な女子。麻衣と同じくらいの背丈で薄水色のショートの女子はずっと手元の本を読んでいる。無表情で側から見ると読書好き少女であるが、アレは間違いなく…………危険そうだからあっちも注意しておこう。
そして5人目は偶然にも隣に立つ黒髪ロングの女子生徒。正直クラスの中でも1番の美人に見えた。
いや、明らかに存在の格的にも上な気がする。少量の魔力から未覚醒なのは間違いないが、雰囲気と言うべきか大和撫子風だが同時に剣士のイメージもあった。
凛を超えて刃が宿っている黒き瞳。それを含めて麻衣と正反対の印象が彼女にはあるからか、隣というのも理由だが5人の中でも1番興味が湧いた。
真面目に黙って話を聞いているのを見ると声を掛けにくいが、やはり最初の交流は大事だと自分に言い聞かせて、迷惑にならない感じで声を掛けた。何気ない話題で……。
「学園長の話って長くないか? もし良かったら少し話さない?」
「私は興味ないわ」
「……」
取り付く暇すらないとこのことか。思ったよりも冷めた感じで断れた。ていうか目すら合わせて貰えなかった。
いや、ナンパ風に声を掛けた時点でダメだろう。やはり緊張か、自分から女性に声を掛けるなんて滅多にないから変な感じで声を掛けてしまった。
もし麻衣がいたら『プフフフ! ヘタなナンパ野郎にみたいですよセンパーイ』とかオモシロおかしそうな顔が目に浮かぶ。
まぁよく考えたら学園長の話中に声を掛けるんてマナーが悪いよな。
美人からの巨舌に若干ショックを受けたが、こちらの落ち度だとと相手にその気がなかったのだと理解する。
少し残念だけど隣の女子のことは忘れて切り替えることにした。
――嘘だろう? これも偶然なんだよな?
「どうしたの? 早く取りなさいよ」
今度は向こうから声を掛けられた。後ろの席に座る彼女――
というか急かされている。原因は俺の手元にある箱だ。くじ引きなどに使用する穴が開いた箱だった。
学園長の話が終わり生徒会や風紀委員会などからの説明や注意事項が終わると、俺達はそれぞれの教室に移動した。
能力者の素質的に最下位なEクラスのムードはそこまで悪くなかった。そもそも告げらておらず自覚者も少なかったこともあり、教室に着いても険悪な感じはなく教師が来るまで会話を楽しんでいた。
ちなみに俺が警戒する5人もまたそれぞれ好きなように待っていた。
見るからに不良な男子の
逆に話し易そうなサイドテールのアイドル女子の
メンバーでも選定してチーム作りでもするつもりか?
ついそう考えてしまうが、Eクラスの生徒では戦力面に不安が否めない以上、それはないかと改める。 あの2人が俺の想像通りのヤバい連中なら、隠されたクラス分けの基準だって気付いていてもおかしくなかった。
「……」
問題は後ろの席に座っている大和撫子な彼女だ。席順は男女混合で前も後ろも女子という少し慣れない環境であるが、それよりも背後の鷹宮さんが正直怖い。
ナンパ紛いな誘い方をした負い目もあるが、それ以前にあの冷め切った目だ。アレをまた向けられたらと思うと、振り向くのに抵抗感があり、席に座ってから一度も振り返っていなかった。
別にコミュ障というわけではないが、背後を取られている影響か微妙に危機感を抱いていた。
そうこうしていると教室の引き戸が開けられる。
やっと教師が来たかと安堵し掛けた俺だったが、登場した女性教師を見て絶句した。
「よし、全員いるな? 私がこのクラスの担任を務めることになった
俺の知る限りヤバい人筆頭と言っていい佐倉先生のご登場だ。
いよいよ真っ黒な暗雲の学園生活が見えてくる中、問題のくじ引きの箱が担任によって持ち込まれた。
それが未覚醒の能力者を覚醒させる物だと、流石の元勇者の俺でも気付けなかった。
「各自1人1つ持っていけ。中には小さなカプセルが入ってるからそれを壊せ。眠っている能力が覚醒するが、間違ってもこの場で使おうとするなよ? 後日、訓練場で試すまで使用は禁ずるからな」
あんなくじ引きの箱らしき物がその役割を担っているなど、一体誰が予想を出来ると言うのか。
配られる箱と取り出される手のひらよりも小さな色が付いたカプセル。 いろんな色のカプセルがあるようだが、同じ色も普通にあるみたいだ。一体どれが当たりなのかと真剣な表情で箱の中を探る生徒達…………には悪いが、箱と中身の魔力が見える俺には、それが何の意味もないことを知り居た堪れなくなった。
ハッキリ言うと重要なのは取り出したカプセルの方だ。箱はただの箱でしかない。
向こうとはやはり質は違うが、同一の魔力みたいなのが宿っている。魔力の量も質にも変化がないところ見ると、塗られている色の方も関係ないと考えられた。
しかし、それを自分も取ることになると思うと、途端に不安になるのは何故だろうか。
実験台とは流石に思わないが何だろう。今になって新たな力を手にすることに対する不安が出てきた。
「ほら、さっさと取りなさいよ。後がつかえてるのよ?」
――以上が急かされた理由である。
俺の席まで形だけの箱が配れてから2分以上が経った。いや、まだ1分だけと思われるかもしれないが、この場の1分も結構長い。
俺に興味のない鷹宮さんも流石の焦ったくなったか、声質はそのままであるが、背後から鋭い眼光を浴びせてくる。この時ばかりは振り向かなくても分かってしまう自分が憎かった。
「はぁ……」
しかし、これ以上待ってば更に強烈な眼光と罵声も飛んで来かねない。
というかここで怖気付いて万が一も取らなかったら、間違いなく後日生意気な後輩から『からかいのネタ』にされて弄られる未来が想像しなくても分かってしまった。
「どうかしたの?」
「……いや、悪い。すぐ取るから」
はい、もう諦めました。そもそも取らない選択肢は取ったら、退学の一択に直結するので普通にあり得ないや。
あと鷹宮さんどころか佐倉先生にも不審がられ始めているので、いい加減取り出すことにした。
…………頼むからマシな能力というか、目立たず安全な感じのが手に入りますように。
心の中でそう願いながら俺は箱に手を入れた。
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