やっと学園生活が始まったが、変人もやって来た。

 色々とあったが、引っ越して『管理街』に住み始めて1週間が経った。

 どれだけ金が掛かるのかと正直ヒヤヒヤしていたが、意外なことに安くても住み易いマンションは沢山あった。

 あと学生という立場だったのも割引き対象になって助かった。親から多めに貰ってはいたが、お金に困らず居心地は結構良かった。


 一応学園島にも寮はあったのだが、後輩と空から要望でマンションを選んだ。寮生活の場合だと規則とか結構煩そうだから、俺もマンションの方が助かる。

 仮に来年が入って来た際、寮で住んでいたら揉めるネタになるのは明らか、それを含めて回避した方が断然いいのだ。


「まぁ寮関係なく煩くはなりそうだけどな」


 指定の青ブレザーの学生服に着替えるとマンションを出る。他にも住んでいる学生は居るのか、エレベーターで1階に降りると何人か見かけた。


 同じ1年の素質持ちと言うべきか、何人か魔力らしきものが微量だから感じられる。面接時にしっかりパラメータとやらを調べられているそうだが、微量でもしっかり合格判定を貰えると考えるなら意外と合格基準は緩いのかもしれない。


 逆に魔力がハッキリと感じて、ネクタイやリボンの色が違うのは2年と3年だろう。寮生活の方は断然安い筈だが、こっちから通学する人も思ったより多かった。


 ちなみに前者と後者の違いは魔力だけではない。

 黒色のネクタイやリボンの1年は明らかに緊張した感じの者が多く、水色と赤色のネクタイやリボンの先輩達は、慣れた感じでモノレールの駅がある方へ向かっていた。


「しばらくしたら、俺もあんな感じに慣れるってことか」


「自信がないのか?」


「……?」


 ただの独り言であったが、まさか背後から返されるとは思わなかった。

 思わず立ち止まると後ろへ振り返る。殺気もなく気付かなかったが、真後ろで1人の男子生徒が立っていた。


「あ、悪い。つい声をかけちゃった」


「いや、別にいいけど……」


 黒のネクタイからして俺と同じ1年生のようだ。黒髪の男子はしまったような顔で苦笑いしながら片手でごめんと謝っていた。……何でか髪がボサボサの寝癖状態だった。


「アハハハ、実は入学初日で寝坊しかけてさ。慌ててエレベーターから降りたんだけど、どっちから行けばいいか迷っちゃって……」


 言いながらボサボサになっている髪を手で整えてる。言われてよく見ると制服も慌てて着たのか、襟とか中のシャツとかが出てる。ネクタイなんて緩々な感じではたから見ると不良だった。


「そしたらちょうど君が同じマンションから出るのを見かけて。ネクタイが見えて同じ1年と思ったから声をかけようとしたんだけど…………タイミングが悪かった。ごめん」


「同じマンションの人かぁー。いや、こっちこそ気付かなくて申し訳ない」


 見た目はアレだけど悪そうな男子にも見えない。迷っているなら一緒に行くものいいか。


「モノレールから行くけど構わないか?」


「あ、あぁ! 全然オーケーだ! いやぁーホント助かったぁー」


 以前も説明したが、学園島にはいくつかルートがある。

 俺達が利用するモノレールや電車などが一般的なルートであるが、海から入る船ルートもある。海水や揺れなどで人気は全くないが。


 大型バスも通れる車用の正門の橋もあるが、そちらは社会人の利用が多く時間も掛かる為に学生の利用者はほぼ皆無だそうだ。


「――っと、オレの自己紹介もまだだったな! 高等部から『天輪』に入る時一ときいちひさしって言うんだ」


「同じく高等部からこっちに来た幸村大地だ。知り合いが居なくてまだ慣れてないから、学園でも仲良くしてくれると助かる」


「ああ、オレもだ。友人達にここを勧められたが、結局入れたのはオレ1人でさぁー。寝坊癖もあるし大変なんだよ」


「大変そうだな。なんならモーニングコールか呼び鈴でも鳴らしに行こうか?」


「有り難いが慣れるようにするさ。どうせモーニングコールされるなら初めては美少女の方がいいから!」


 否定はしないが、大声で宣言するような内容では絶対ない。偶々近場で歩いていた女子生徒達なんてドン引きした様子で離れてるけど大丈夫か?


「よし、じゃ同士よ! 新たな学び舎に向かおうではないか! 共にハーレムを作ってラブコメな青春を謳歌しようぞ!」


「ノリノリなところ悪いが、そういうのは昔から苦手なんだ。……あと後半のセリフについては今すぐ訂正してくれ。具体的には俺までハーレムラブコメな青春を謳歌する部分」


 まさか入学前に学園生活が危うい展開になるとは思わなかった。

 全学年問わず女子の視線がさっきから痛い。お願いですから変態を見るような目で見ないでください。


 女性達の蔑む視線から逃れるように、早々とモノレールの駅まで急いだ。




「いやぁー間に合ってよかったなぁ」


「最初から全然余裕だったけど」


 想定外な事態に巻き込まれて、結果予想よりも早く学園の正門前に着いてしまった。

 原因の男はちっとも気にしておらず、周囲の学生を見ながら楽しそうにしていた。

 

 高等部の校舎は面接時に来ていたが、今回は人が多い。大きな正門から入ると部活勧誘の2年と3年の学生が待っていた。


 能力者の学校であるが、意外と部活の方はまともそうであった。

 見た限り定番のサッカー部や野球部、バスケにテニスなどスポーツ系の幅が広そうで、文化部も色々とあるのが見えて左右から声を上げて勧誘していた。

 とくに興味はないが、能力者にも色々な人達がいるようだ。


「『サポート部』興味ありませんか?」


「サポート部?」


 勧誘の声の中に気になる単語が聞こえた。よく見ると運動部や文化部とも違う別口の部活グループがある。他より少ないが、『サポート部』以外にも『モンスター研究会』『戦闘部』『スキル研究会』などと聞いたことない部活名や研究会が並んでいた。


 真っ先に興味を抱いたのはモンスターに関係がありそうな『モンスター研究会』。入ればモンスター関係について調べれるのならと思うが、こういう研究会は濃いメンバーが多いのがお約束だ。……普通に学園を送ればモンスターについても個人的に調べれるからいいか。うん、無しで行こう。


 『戦闘部』ですかぁ。――無いな。

 ……次に行こう。


 『スキル研究会』。……研究会な時点で論外。偏見かもしれないが、なるかもしれない濃い人との接触は避けたい。


「水泳部! 水泳部とかは男女一緒なのか!? だったら是非とも入りたいんだが!?」


「入るのは結構だが、絶対に俺は誘うなよ?」


 短い付き合いになりそうな男だった。煩悩に正直な男とも言えるが、この学園でそれは自殺行為にしか見えなかった。


 一応『サポート部』の紹介パンフは貰っておいた。





 だだっ広い体育館に集められた1年生――約120名。

 クラス5つに分けられてA〜Eまであるが、恐らくランクなのだろう。Aクラスの面々からは結構ハッキリと魔力を感じられるところからして、Aクラスの大半は天然の能力者という奴らなのだろう。

 

 BクラスもAクラス程でないがそれなりに出来る感じで、CクラスやDクラスまで下がると魔力も小さくなっている。ここまで行くと未覚醒な学生しか残っていない。


 これがエリート枠と凡人枠の自然な差別分けか。AとBクラスは中等部の者もいるだろうしほぼ気付いていると思われるが、魔力の少なさからしてCとDクラスはまず気付いていない。浮かれてる面もいるので……なんか泣けてくるなぁ。


 変な絡みや争いがないことを祈りたいが、クラス問わず血の気が多そうな面もいるので多分難しいだろう。CクラスとDクラスには同情の視線を送ってしまう。


 まぁ問題児行きのEクラスに送られた俺に比べたら優しい待遇だろうな。


 何気に時一の奴もEクラスで楽しげクラスメイトと会話している。並び順は適当で本人からも誘われたが、また面倒に巻き込まれるのは嫌だったので静かに離れていた。


 Eクラスの大半はCやDクラス共とそれほど差があるように見えない。未覚醒で魔力も少量しか宿っていないが、それだけならCクラスDクラスにもいた。


 壇上に上がる学園長の話をぼんやりと聞きながら、俺は周囲のクラスメイトの動向を観察した。

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