面接もヤバかったが、妹はもっとヤバかったらしい。
「……(ジィ……)」
「……」
『やってしまったフラグ』とやらの所為で、自分の面接前に注目されてしまった。
今のところ視線を向けているのは1人であるが、女性面接官の凝視を他の面接官や受験生が気付いたら自然に視線が集まってしまうのも時間の問題だった。
さて、どうしたものか。探られている魔力も感じないから気が付かなかった。
…………なんて考えてみたが、対抗処置は目を逸らす一択しかなかった。
眼力で外させる方法もあったが、それは受験生の立場的に失礼過ぎる。あとは早いうちに凝視が収まるのを祈るしか出来なかった。
すると中央に座る男性教員が女性教員の視線に気が付いた。
ここで幸運だったのは、その視線を追う前に教員の方へ視線を向けたことだった。
「どうかしましたか? 柳先生?」
「…………いえ、なんでもありません」
僅かな沈黙の後、女性教員の柳先生はなんでもないと誤魔化してくれた。
やはり鑑定関係の能力持ちか? 凝視はやめてくれたが、チラチラとこっちを見ている。幸い誰も気が付いている感じはないが、少々迂闊だったか。
以前説明会で『管理街』に来ていた際は、とくに視線も感じなかったから問題ないと思っていたが、これは受かっても落ちても面倒になるかもしれん。
「では、次の方。どうぞ」
「はい」
で、とうとう俺の番が来てしまった。
自然と教員3名の視線が集まる。鋭い視線の女性からは圧迫するような感覚、中央の男性からは鋭さや圧はないが、見定めるような視線は感じ色々と質問が飛んできた。
「随分遠くから来ましたね? 入学理由を訊いても?」
「興味は以前からあったんですが、何度か説明会に参加する機会がありまして、その参加が切っ掛けでした」
質問はどれも基本的なもので困る感じの質問はない。受験者に能力者がいないところを見ると、恐らく能力者じゃない人と元々能力者の人とは質問内容が違うのだろう。
このままスムーズに終われば安心だったが、残念ながらそう簡単にはいかなかった。
「私からも質問いいですか?」
こちらを探るような金髪女性の柳先生とやらだ。どうやって見透かしているか、瞳も頭からも魔力の動きが見えないから判断が付かない。これが能力者の特徴ということか?
さり気なく質問して来て窺うような視線を向けてくる。質問してくるのは別にいいが、危うい系の内容は勘弁してほしい。
若干躊躇った感じで質問を投げかけてきた。
「単刀直入に訊くけど、もしかして君は天然の能力者でありませんか?」
「なに?」
「え? 柳先生?」
予感はあったが、やはり爆弾系だった。爆発したら厄介になるタイプの。
しかも女性が口にした途端、他の教員からの雰囲気も変わった。他の受験者達からも小さな騒めきが起こるが、そんなところまで気にしている暇はない。
「元々能力者なのか?」
一段と増した鋭い視線の女性教員が訊いてきた。最初は柳先生を一瞥していたが、その視線がゆっくりとこちらへ移してる。殺気はないけど身近な女性にはないヤバイ感じの目付きだ。
Mな男子なら大喜びしそうだけど、俺にそんな性癖ないから辛いだけだ。
「そうなんですか? 願書の方には何も記載されてませんが?」
1番驚きが少ない男性教員がこちらに訊き返す。視線の方は鋭さがなくて質問も普通。1番偉い立場の人ぽいけど、左右の女性よりは全然マシであった。
「いえ? 違いますけど」
とりあえず素直に答える選択肢はなかった。
女性から見透かされてる感とイエスと答えた方が即合格な気もしたが、イエスと答えたら間違いなく面倒になる予感しかしないので、この場は断固否定しておいた。
しかし、躊躇いなく答えた俺の言葉に対して、切っ掛けの柳先生が意外そうな顔で余計なことらしきセリフを口にした。
「そうなんですか? 失礼、見た限り随分と能力値が高かったもので」
「能力値?」
それが能力なのか? ステータスの数字的なものが見えるということか? この女性からは俺の数値的なものが見えているのか?
……どんな風に見えているか凄く気になる。
「なるほど、柳先生の【パラメータスキャン】に反応がありましたか」
「はい、最初はエラーかと思いましたが、この距離ではまずあり得ません。彼の数値はどれも一般の人にしては軒並み高いです。能力者の数値とも装飾ありません」
向こうの世界にある魔眼の鑑定バージョンみたいなものか? 系統的にはこれが『
よく分からないが、ジョブや魔法やスキル関係はバレている感じはなさそうだ。
「柳先生がそれほど言うとは……」
しかし、この場で言われたのは厄介だ。結果、男性教員が考えるように呟いている。
最初は理解が追い付いていなかった他の教員や受験生達であったが、能力値が高いという言葉を聞いてから全ての視線が探る感じに変わってしまった。
「そんなに凄いのか?」
「戦闘系の貴女と良い勝負ですよ佐倉先生。いえ、ヘタしたらそれ以上かもです。数値はメンタル面や状況に応じて変化して上昇しますが、平常時でこの数値は十分凄いです」
「ほう? それは興味深い」
俺は全然興味深くないからその会話もやめてほしいです。基準ぽいのが戦闘系の人だから実戦向きとか思われたら余計に注目されるんだけど。
あと佐倉先生とやら、あなた戦闘系と言われてますが、間違いなく戦闘狂とかバトルジャンキー系ですよね? お願いですからそんな試すような目付きを向けないでください。
明らかに強まっている視線にいよいよマズいと感じ始めた。誤魔化すどころか悪目立ちし掛けていると焦りを覚える中、唯一反応が変わっていなかった教員の考えがまとまったか。
「素質は充分にある。というわけですね」
落ち着いた様子で中央の男性教員が呟いた。
他の人達のような雰囲気はないが、自然と女性教員や受験者達の視線が集まり沈黙が生まれる。そして一度、資料……俺の願書らしき物に目を通すと。
「幸村君だったね? 1つお訊きしますが、貴方は学園で何を目指しますか? 何を目標に送ろうと思いますか?」
最後にこんな質問をされて、面接は終わりを迎えた。
休憩の昼食後、筆記試験が行われたが、内容はそこまで難しくなくそちらはほぼ問題なしだった。
筆記試験も終わると後は帰るのみだった。
とくに監視も絡まれることもなく、行きと同じモノレールを利用して島から出て行った。
こうして俺の受験は一旦幕を下ろした。
翌日、休みだった俺は自分の部屋で麻衣と話をしていた。
ちなみに妹の空は部活があるので不在であるが、最初から空は誘わないで、と麻衣に強く言われていた。
やはり理由は聞かせてくれなかったが、2人っきりで部屋に集まっていた。
「という感じで受験日を乗り越えた。……いや、不意に注目される事態は起きたが、素質があると思われただけで良かったかもな。これで受かる確率がさらに上がったと思う」
「……センパイ、気を付けた方がいいですよ」
「ああ、受かる率は上がったが、リスクも増えた。受かっても教員に目を付けられる可能性が高いし、今後はさらに気を付けないとな」
言われなくても分かっている。喜ばしい結果以上に面倒な可能性が増えているのが現実だ。
厄介な能力だった為に誤魔化し切れなかったが、その所為で余計な情報が漏れてしまい今後も数値を見られる可能性が高い。
通うことになっても気を付けないといけない。麻衣の言いたいのは、きっとこういうことなのだろう。
「いえ、そうではなくて」
「え、違うの?」
ボケのつもりはなかったが、バッサリ否定されるとは思わなかった。
何が違うと言うのかと視線を向けるが、何かどんよりとした雰囲気を出した麻衣。何度か見たことある突然の
「…………ソラちゃんのことです」
そう、決まって空が関係しているのが共通点であったが、ここで何故空か?
さっきまでの話にアイツの名前が出てくる要素なんてあったか? いや、今までもないような気がしたが。
「さっきの話を聞く限り、受かる可能性はかなり高そうですね」
「そうなるな。結果が出るのはもう少し先になるけど」
「ソラちゃんにはギリギリまで内緒にしましょう。結果が出てから2人っきりで話してください」
「まだ隠すのか? 受かるかどうかまだ分からないが、そろそろ話した方が」
「ははは……そうですかねぇー」
なんだか一気に疲れた顔になって溜息を吐かれた。何がそんなに疲労を感じるんだ?
――あ、もしかして……。
「嫉妬するとかか? 確かにお年頃の割りに好かれているが、そこまで気にするほどか?」
重度のブラコンとか思われているのなら、兄としてしっかり訂正してやらないと。そう感じて呆れた顔で後輩の頭を撫でてしたが。
「……」
何処か白けた顔になる麻衣。ジトとした目でこちらを見つけると。
「……ちなみにセンパイ。例えばセンパイが風呂に入る時とか、ソラちゃんならどうしますか?」
「? 勝手に入って来るが? それがどうした?」
いつものことだから気にするもやめた。
まぁ、脱いだらすっごい空だから一時期は大変だったが、向こうの世界に行った経験から耐性が結構付いた。
全裸だったり引っ付かれたりされると困るのは変わらないが、顔には殆ど出なくなかったから、兄としての威厳は守られていたが。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
何故か今度はより深〜い溜息を吐かれた。本当になんで?
その2週間後に無事に合格通知が届いた。色々と想定外なことはあったが、これで一安心だ。
しばらくして引っ越しの話を空にするのだが、何故か大騒ぎになってしまった。言われた通りに2人っきりで話していたのだが。
「マイちゃぁぁぁぁん!! 黙ってたなぁぁぁぁぁ!!」
本当に何でか麻衣に対して恨みの丈をぶつけていた。
その後2人で何か話し合うと何でか俺に対してとある条件を出してきた。全然予想していなかった展開に戸惑いながらも一応了承する。
結局理由は分からなかったが、条件を突き付けられた時に初めて麻衣が危惧していた気持ちが少しだけ分かった気がした。
中学2年の幸村空。
年頃の思春期だと思っていたが、挑戦的な義母の血はしっかり引き継いでいたらしい。
そして、俺は中学を卒業すると住み慣れた街から『管理街』に引っ越しをする。
春を迎えると俺は『天輪学園』の1年生として、学園島に足を踏み入れた。
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