スキルとモンスターの説明は大変だった。

「不思議に思ったんだけどお兄ちゃん。異世界のスキル? とこっちの世界のスキルってどう違うのかなぁ?」


「こっちの……能力者の能力スキルかー」


 俺の世界にも能力者の他にモンスターも存在する。一般人の妹も知っている世間の常識の1つだが、戻って来てから3ヶ月程、改めてそれらのことも調べていた。


 能力者とは、『生まれた時から持つタイプ』や『突然覚醒したタイプ』の者を指す。大昔から能力者と呼べる人達は居たそうだが、最近になってその存在が公になっていた。


「センパイ、実際魔法とどっちが上なんですかねぇ? 魔法を極めた立場としては気になる疑問なんですが」


「んーなんとも言い難い。強力なのだと詠唱が必要になる魔法の方が時間が必要だが、能力の方はしっかり集中さえすれば問題がなさそうだ。けど能力者の能力は1つしか持たないから系統によって使える手段に見当が付いてしまうのが……欠点か?」


 改めて考えると両方共に欠点がはあると言える。魔法が詠唱エンチャントなら能力者は1種類シングル。ただ俺達の場合は能力者とは少し条件が異なる。


「うーん? 実戦ならそうかも知れませんが、モンスター相手ならそこまで……でも使えるスキルが絞られてるのは厳しいのかな? 相手がモンスターで済まない場合だと、能力の詳細情報が知られた時点でアウトですし。私達の方は魔法以外にもスキルも使えるから対策も取り易いけど……」


 嫌な思い出だが向こうじゃ対人戦もやっていた。魔法対策を取って来る奴もいたからスキルの手札が多い方が有利だった。


 それ以外の要素も当然必要だけど、色んなジョブを取っていた俺だけは、スキルの多さならダントツで勝っていたから予想外の不意打ちが得意だった。


「まぁ異世界あっちのスキルを持ち出した時点で、麻衣が言った比較は意味をなさなくなった。能力の幅はこっちの世界よりもずっと狭いが、数だけなら異世界の方が圧倒的に多い。向こうが数ならこっちは質ってところかな?」


「能力者の能力は2つ以上は無理なの? 出来たらその幅? が広い能力者のスキルの方が上になるよねぇ?」


「情報だと遺伝子にまで刻まれたモノと言うのが関係しているらしい。だとすると上書きが出来るんじゃないかと思うが、汎用性の高さが出来ない理由の1つかも知れないな」


 能力者の能力はスキルとも呼ばれて種類だけでも様々あるが、大体が下の感じで分けられているらしい。


 自然界に類する力を扱う『自然系エレメント』。火や水などを出したり操れるそうだ。


 物質や精神などに干渉が出来る『操作系コントローラー』。物を操ったり人を惑わす幻覚を見せることが出来るらしい。


 能力が備わった武器の召喚か付与させる『武器系ウェポン』。自分専用の武器を召喚させるか、特定の武器を扱うことで能力が使用出来る。


 あと肉体の強化や変化を与える『超人系ヒーロー』などもあるが。


 1番興味が引かれたのは不可思議な現象を起こすと言う『特異系イレギュラー』。


 系統が定まっていない為に参考資料も殆どなかったが、具体的な基準がの一択のみ。起こす現象には、武器や肉体変化以外にも色々とあり、ランダム的なこの系統能力が1番興味をそそられた。


「まぁ考えても意味はないか」


「? 何がですか?」


「……いいや、なんでもない」


 何より汎用性が非常に高いのが大きい点だと思う。異世界のスキルは職業ごとに色々とあったが単発の技か効果系だった。調べれた限りの情報をまとめると、こちらの世界の能力の方が上だと考えた。


「まとめるとこんな感じか? まぁ実際に会った訳じゃないから、これらの情報も何処まで当てになるか不明だけどな」


「なるほどねぇ」


 うむうむ頷く我が妹。納得してくれたところでそろそろ正座から解放して欲しいな。

 最初の異世界話から説明が続いているのだけど気付いているかな? かれこれ20分は正座でご説明してるんだよ? あなたのお兄ちゃんは。


「で、結局魔法とどっちが上ですかねぇ? センパイ」


 しかし、ささやかな解放を願う俺の気持ちを他所に、空気を読まない可愛くない後輩がそんなことを言い出す。


 まだ続けるのかその話を……少しは正座している先輩の気持ちを考えてよ。


「はぁ……なんなら試しに戦ってみたら? 街中よりも『特定区域』に乗り込めば出会える確率は高いし、模擬戦しても被害は大して……」


「遠距離から火力攻めか、至近距離からの火力攻めですかぁ。ふむ、迷いますねぇ?」


「ああ、そうだな。前言撤回するから今すぐその思考を止めなさい」


「えぇー? しないの? どうなるかちょっと興味あるのに」


 不用意な発言は厳禁だった。空は面白そうな顔を残念そうにしているが、『魔導王』の麻衣が本気で能力者と戦ったりしたら…………よく考えた結果、崩壊する街が目に浮かんだので速攻で止めた。


 異世界じゃないんだから破壊工作は認めませんよ?


「じゃあ先生! 次はモンスターついて教えてください!」


 とうとう妹から先生扱いされた。というか正座も続行ですか? なんてアイコンタクトしたら頷かれた。まだ疑惑は晴れてなかったんだねぇ。元だけど勇者なのに。


「それではセンパーイ、解説どうぞぉー」

 

 すっかり調子に乗っているこの後輩はどうしてくれようか? こっそり隠しているトップシークレットの1つをカミングアウトしてやろうか? 


 異世界で数年旅して見た目は大人っぽくなり背丈も伸びた麻衣であるが、実はその全く成長しなかった。

 

 最初は「せ、成長が遅れてるだけですっ! 本当ですよ? 嘘じゃないですからね!?」と勝手に言い訳していたが、3年経っても胸だけは一切成長はなかった。


 で、胸元がだと見えが悪いからって理由か? 或いはプライドからか気付いたらランクSの最上級の幻惑魔法でを巨乳に変えていた。

 

 スキルなら最上級職の『奥義スキル』に匹敵する最上級の魔法で・だ。

 手にしている人も少ないレベルの魔法を何に使ってるのかなぁ、この後輩は。


 民の人達や貴族や王族もアイツの膨らみに魅了されていたが、残酷な真実を知ったらみんなどう思うだろうか。


 ……いや、既に知られているかもなぁ、口の軽い王女さんによって。


 『偽乳の魔導王』とか変な二つ名でも付いてたら、もう間違っても麻衣を異世界には連れて行けないぞ。なんとも言えない後輩の絶望と怒りで新たな魔王が誕生するだけだから。


 まぁ8割以上は本人の自業自得で残りのは2割は俺だけど。


「ん? なんですかぁセンパイ? その残念な娘を見るような眼差しは……?」


「さぁ? なんでだろうな?」


 この後輩は誰にもバレてないと思っているが、実は王女さんも知っていた。疑って訊いて来たので丁寧に俺がバラしたのが原因だが、内心ニヤニヤしていたから別に問題はないだろう。


 ちなみに見破ったのは『勇者ジョブ』の影響であるが、この時だけは『超・心眼スキル』が残念スキルに思えて仕方なかった。


「はぁ……モンスターかぁ。向こうじゃ魔物扱いだったけど。こっちのモンスターの情報も殆ど無いからなぁ」


 モンスターもまた昔から存在しているそうだが、具体的な話は殆ど知らされていない。


 各国の政府機関が能力者と共に誤魔化して来たらしいが、時が経つにつれてモンスターも強くなってとうとう隠し切れなくなったみたいだ。

 どれだけ隠蔽工作して来たのか知らないが、何年も積み重ねてきたことが露見したことで大層パニックになったそうだ。


「向こうとの違いは特定の区域のみにしか現れないことか? あちらは魔力の影響が大きいから街以外なら何処でも出て来やすいが」


 ――『存在の原点』と呼ばれている特定の区域のみに集まる力がモンスターが召喚させているそうだ。


 詳しいことはやはり政府が隠しているので不明点が多いが、異世界に行って来た俺や麻衣は薄々だが予想は出来た。


「原点に集まるのは魔力ですかね? 区域に漂っているのも極小粒子『マナ』でしょうか?」


「直接見に行った訳じゃないから多分としか言えないが……向こうの魔物の誕生理論と同じなら十分ありる」


 ま、政府にバレたらマークされて面倒だから原点には近寄ろうとは考えないが、戻って来た時点で街に漂っているマナを感じたから、誕生理論の話が限りなく高いと思った。


 『マナ』とは、大気中に流れている魔力の素。空気と共に吸うことで体内の器に溜まり魔力となる。


 蓄められる魔力量は人によって異なるが、ジョブのランクが高ければ高いほど魔力保有量も上がるのが基本だ。


 ちなみに今の俺の保有量は勇者ジョブが損傷したことで、上級職の平均くらいだ。魔法職なら特に保有量は跳ね上がり、魔法使いの頂点である『魔導王』のジョブを持つ麻衣なんかは、測り切れないというレベルである。


 体内の保有量も尋常ではないが、回復速度や放出量もチートクラスと言ってもよかったが、魔王戦で麻衣の魔力が空になったので『チート魔力馬鹿』の称号は魔王へと返上されてしまった。改めて考えると別にどうでもいい話だけど。


 あれは本当に予想外で俺も内心焦ってしまうほどの出来事だった。

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