第71話 対峙
「パパっ!? ママっ!!」
突如現れた二人のエルフに対して、エリスが声を上げた。
彼女のその叫びから、この状況がどういったものなのかはすぐに理解出来た。
――あれが、エリスの両親か……。
エルフらしい整った顔立ちの男女。
だが、その姿はこれまで見てきたゴブリンやオークのように黒く染まっていた。
「なんのつもりだ?」
俺が尋ねるとエダークスは口角を上げる。
「カイエンの記憶の中に彼らの存在があってね。面白そうだから、わざわざ食わずにとって置いたんだ」
「……」
いちいち、いけ好かない奴だ。
わざわざエリスは嫌がるようなものを出してくるなんてな。
「なんか言ってやったらどうだい? 久し振りの再会なんだろう?」
エダークスはエルフの夫婦に言葉を促す。
すると彼らは虚ろな目でエリスに向かってこう言った。
「お前のせいだ……お前のせいで酷い目にあった……」
「私達になんの恨みがあるの? 気持ち悪い……呪われた子……」
「……!」
彼らは壊れてしまった絡繰りのように同じ言葉を繰り返す。
それは彼らが死人であるからだ。
死する前の記憶をただ辿っているにすぎない。
しかし、それでも信じていた実の両親に、そんな事を言われて何も感じない訳がない。
「あ……あぁ……」
エリスは力無く地面にへたり込んでしまった。
「騙されるな。あれは奴が喋らせているだけだ。彼らはもう死んでいる」
「それはどうかな?」
エリスに投げかけた言葉をエダークスが奪った。
「彼らは死人であれど、自分の中の記憶を辿って喋っている。それはある意味真実だろう」
「……」
エリスは放心状態で座り込んだままだった。
エダークスはそんな彼女の表情を窺いながら舌舐めずりする。
「いいねえ、その絶望の表情。旨い肉を引き立てる最高のスパイスだよ」
こいつ……楽しんでいやがる……。
しかし、このままにしておいてなるものか。
奴を野放しにしておけば、被害が広がるばかりだからだ。
俺は奴の姿を分析する。
特徴的な黒い肌と銀髪、そして紅い目を持っている以外は普通のエルフと変わらない。
線も細いし、筋力がある体ではない。
しかし、これまでの
しかも彼は言葉を喋る。
明らかに他の魔物とは格が違う。
同じような段取りでは倒せないかもしれない。
それに彼がこれまでの黒い魔物を操っていた張本人なのか?
それとも彼以外にも同じような種族がニヴルゲイトの向こうには存在しているのか?
分からないことは多々ある。
ともかく、表面上からでは何も探ることが出来ない。
ならば少し、探りを入れてみるか。
俺は勘付かれないように
皮膚に触れれば、何らかの情報が得られるはずだ。
だが――。
「ん……」
糸が奴の体に取り付こうとしたその時、彼は察知して後方に飛び退いたのだ。
まさか……見えているのか!?
しかし、奴は辺りを訝しげに見回すだけで、俺の糸を正確には捉えているようには見えなかった。
それが証拠に、
「今、何かしようとしたね?」
エダークスは目を細めた。
「……」
気配には気付いているようだが、完全に見えているという訳ではなさそうだ。
ならば、こちらにも勝機はある。
気配を察知するだけでは俺の糸からは逃れられないからだ。
俺は一遍に多くの糸を放出し、それらをエダークスに向かって放った。
その中で一本でも触れればいい。
そうすれば構造解析が可能となるからだ。
ただ、以前のように呪詛防壁が張られている可能性もある。
そこは慎重にやらないといけない。
行け。
無数の糸がエダークスに伸びる。
今度は察知しきれなかったのか、奴の体を包み込むように全ての糸が彼の皮膚に突き刺さる。
よし……捉えた!
そう思った直後だった。
エダークスの顔がニヤリと歪む。
すると彼の皮膚に刺さった先から、まるで煙のように糸が崩壊し始めたのだ。
なっ……なんだと……!?
それは伝染するように瞬く間に広がり、全ての糸は一瞬にして霧散してしまっていた。
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