第65話 エダークス〈エーリック視点〉
「我が名はエダークス・レクス・ド・ニヴル。お前達がニヴルヘイムと称する世界の住人だ」
カイエン
「ニヴルだと……!?」
エーリックは驚愕しながらも体の震えが止まらなかった。
奴の肉体から溢れ出す圧倒的な魔力。
そして強烈な威圧感。
それにより、まるで蛇に睨まれた蛙のように微塵も動けなくなっていた。
それは国王ガゼフも同様で、彫像のように固まっていた。
この世のものとは思えないプレッシャー。
そして、これまでニヴルゲイトの近くで見てきた暗黒の魔物達と同様の見た目。
確かにニヴルゲイトの向こう側の住人と言われれば、そう捉えるのが妥当だ。
それにしても、ニヴルゲイトの向こう側に人語を解す者が存在していたとは……。
彼以外にも彼のような仲間が存在するのだろうか?
――そういえば……カイエンという男はなんだったのか?
エルフの族長の息子という事実は変わらずに残っている。
「カイエンは……どうしたんだ?」
エーリックは絞り出すような声で問うた。
すると彼は、さも楽しそうに笑う。
「カイエン? ああ、この体のことか。こいつはもう死んでいる。私は肉体を借りているだけだ」
「なっ……!?」
――死んでいるだと……!?
それはいつの事だ? エルフの里を黒いオークが襲った時か?
それとも……。
カイエンの顔をした黒いエルフ、エダークスは、エーリックが何を考えているのかを悟ったのか自ら喋り出す。
「くくく……私がいつからカイエンの体を乗っ取っていたのか、それが気になるのだろう?」
「……」
エダークスは見透かしたように笑う。
「あの男、ルークが里に来るより前のことだ」
「……! という事は……エルフの里は……」
「私がオーク共に襲わせた」
「!」
――こいつがエルフの里を壊滅させた張本人……!
そんな奴が何故、わざわざエルフのフリをする必要がある?
呪われし者などと吹聴してルーク達を追い詰める意味は?
だが、これでルーク達の嫌疑は晴れる。
この者こそが本当の災いなのだから。
すると、さすがにガゼフ王も目の前にいる者のヤバさが理解出来たのか、後退りながら叫んだ。
「エーリック! 奴を! ルーク達を連れ戻せ! 今すぐにだ!」
――今更、なんと虫のいい……。
エーリックはそう思った。
しかし、今は文句を言っている場合ではない。
この場をなんとかしなければ、それすら叶わないのだから。
「いいねえ、その恐怖に引き攣る顔」
エダークスは戦くガゼフを見つめながら舌舐めずりした。
その姿を見ながらエーリックは思う。
彼は何故、エルフの里を襲ったのか?
ニヴルヘイム……奴らの目的は?
エーリックは構えていた剣をエダークスに向ける。
「お前達の目的はなんだ!」
「目的? 今更、そんな事を聞くのか?」
すると彼は思い出すように笑み、再び舌舐めずりする。
「人間ほどではないが、エルフもなかなか旨かったぞ?」
「……!?」
エーリックの中で血の気が退いた。
――そういえば、カダスの町でも
ニヴルゲイトの住人は皆、人を食うのか……!
「人間同士のいがみ合いや怨念がスパイスとなって、より肉の旨味が増す。だから待っていたのだが……ルークを取り逃がしたことで、それももう期待出来なくなった。なので、そろそろ頂くとするよ」
エダークスはそう言うと指を鳴らした。
途端、窓の外に異変が起こる。
「おい、あれを見ろ!」
「な、なんだあれは!?」
城外にいた兵士達の騒ぐ声が聞こえてくる。
エーリックとガゼフ王も窓の外に目を凝らした。
すると、王都の上空で空間が歪み始めている光景が目に入ってきた。
「あれは、まさか……」
もう、何度も見ているから分かる。
あれは紛うこと無き――、
「ニヴルゲイト……!」
程なくしてゲイトが口を開けると、中から大量の
あの時、対峙したのと同じ、黒鱗の
すぐに王都に人々の怒号と悲鳴が響き渡り始める。
数体が城内にも降り立ち、兵士がこれに立ち向かうが、抗うことすら出来ず悉く食われてゆく。
エーリックは奥歯を噛み締めた。
――くそ……このままでは……。
為す術が無い中、目の前のエダークスが口角を上げて笑う。
「さあ、遅めのランチタイムといこうか」
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