第40話 構造構築
俺は
そのスキルの使い道を探るのも重要だが、それよりも先に対応しなければならないことがあった。
スキル修得による影縫いのレベルダウンだ。
レベル3から2に落ちた時には何も変化は無かったが、それはレベル3で得た能力を俺が把握出来ていなかったからだ。
今回のレベル2から1へのダウンは恐らく影を縫う効果が無くなり、不可視効果だけになるはずだ。
そうなれば、辛うじて拘束していた
だから、まずはそちらを対応しなければならない。
俺は後退する姿勢を取りながら、
しかし、そこで異変に気付く。
「……?」
「影縫いの効果が持続してる!?」
どういう事だ?
前の時もそうだったが、レベルがダウンしても何も変わらないのか?
もしかして……ただポイントという名の経験値的数字を消費するだけだとか?
しかし、本当にそれだけだろうか?
その程度のリスクで魔導書が読めるのなら、数字が許す限りいくらでもスキル修得出来ることになってしまう。
そんなに都合の良い代物には思えないが……。
そこで喋っていた黒ウサギの姿を思い出す。
本人に聞ければそれが一番手っ取り早いのだが……呼んで出てくような奴でもないしな……。
では、他の要因があるのか?
俺は糸が張られている
すると、何かが頭に引っ掛かる。
「……!」
そういえば……影は無体物でもあるよな……。
ってことは……無体物縫製のスキルが影縫いの効果を補填してくれているのか?
真実は分からない。
だが、その可能性が高いことは言える。
ともかく、影縫いが維持出来ているならありがたい。
後は、新しく備わった構造構築糸でこの状況を打破出来るかどうかにかかっている。
俺は糸の先に意識を向けた。
そこには解析と改変、そして新たに加わった構築の感覚がある。
だからといって使い方は不明だ。
構築というからには何かを作り出す能力のようだが、さすがに無から有を生み出せるというわけでもなさそうだ。
改変も元の素材を改変して何かを作り出す。そういう意味では改変も構築の一部なのかもしれない。
だが、その場合は素材がなければ構築は出来ない。
例えば、その辺の木を素材として椅子を作った場合、それは素材の改変と言えなくもない。
それと何が違うのだろうか?
形が存在しているだけで構造の改変になってしまう。
では、素材に匹敵する無形のもの……?
「……」
もしかして……魔力か!
魔力を構築して何かを生み出す。
それは魔法か、或いは……。
しかし、魔法を生み出したところで、並の魔法ではあの魔力と呪詛防壁で守られた鱗は貫けない。
そもそも、俺自身の魔力はそれほど多くない。
魔法使いに劣る魔力で奴に打ち勝てるとは思えない。
もっとこう……少ない魔力でも充分な効果を発揮出来るような魔法……。
例えば、
「……!」
そうか、
俺は一度、
それを元に
やってみる価値はあるな。
俺は影を縫っている糸の内、一本を抜き取ると、その先に魔力を通し、構造構築のスキルを試してみる。
すると魔力が形になってゆく感覚を覚える。
む……これなら行けそうだ。
後はこの前得た呪詛防壁の記憶を元に
但し、この呪詛の解析には時間が掛かる。
影縫いとて、そんなに長くは持たない。
俺の解析完了が先か? 影縫いが崩壊するのが先か? そのどちらかになってくる。
そう考えていた時だった。
ニヴルゲイトの中から次々に
「増援ってわけか……」
相手は追い詰めて楽しむのが好きなようだ。
その状況に逆に心が奮い立った。
「まだ望みはあるかもしれない。それまで持ち堪えられるか?」
俺がそう叫ぶと、アリシアは僅かに笑みを見せた。
「はい! もちろんです!」
「任せておけ」
エーリックも心強い返事を返してくれた。
俺の糸は
彼女達に回せる糸は無い。
なんとか持ってくれよ……。
エーリックは地上に降り立った個体を相手にするが、剣は通らないので防戦一方だ。
アリシアは空を飛び回り、大量の
ただそっちも逃げ回るだけで、攻撃は出来ない。
彼女の俊敏さでなんとか避け切れているが、体力がいつまで持つかが気掛かりだ。
糸の先に
早く……もっと早く……。
俺は心の中で囁く。
「きゃっ!?」
アリシアの悲鳴が上がる。
それで少しバランスを崩したが、なんとか立て直し、再び上昇する。
肝が冷えた。
早くしろ……もっと早く動け!
再度、心で叫んだ直後だった。
糸の先にはっきりと魔法を感じた。
「出来た!」
すかさず
喉元に刺さったそいつは、表皮に吸収され瞬く間に全身に広がって行く。
そして、ガラスが割れたように呪詛防壁を破壊した。
よし、こうなればこっちのものだ。
呪詛防壁が無くなれば、奴の体の中に侵入出来る。
構造を解析改変し放題だ。
攻撃を通り易くするだけでなく、心臓そのものを止めたり、体をバラバラにだって出来る。
ただ、解析改変にはそれ相応の時間が掛かる。
今はそれをやっている暇は無い。
それを待っていたら、影縫いは解かれ、俺達はファイアブレスで消し炭になっていることだろう。
やれるのは弱点を炙り出す事くらい。
俺は
すると、奴の額の上に魔力の塊のようなものを発見した。
恐らくこれは……竜玉。
ドラゴンの魔力の源と言われているものだ。
こいつをやれば……もしかしたら、一撃で倒せるかもしれない。
すぐに俺は叫んだ。
「奴の額を狙え! そこが弱点だ」
しかし、アリシアは
なら――、
「エーリック! 行けるか!」
「おう、やってみる!」
彼は相手にしている
そのまま拘束されている
ザシュッ
剣が肉を切り裂く音が聞こえた。
「ぐはぁっ!?」
エーリックの脇腹から止め処なく血が流れ始める。
何者かが彼の体に斬り付けたのだ。
「き……貴様……何を!?」
エーリックは苦悶の表情を浮かべながら地面に倒れ込む。
「エーリック!?」
地面に倒れた彼の向こう側に男が立っていた。
無論、エーリックを刺した男だ。
その姿を目にした時、俺は驚きと共に怒りが込み上げてきた。
「……ラルク!!」
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