第31話 禁断の門
それも一先ず落ち着くと、当然手柄の話になる。
報酬の証拠となる
そいつは最後に首を落とした者が懐に入れるという決まりに落ち着いた。
裁縫スキルを使わなければ倒せなかった相手だが、さすがに全部を俺達が持って行くとなると揉める事になるだろうし、それが妥当な線だった。
ちなみアリシアが仕留めた数は十五体。
それだけでも充分な量だ。
それぞれが手早く牙の回収を行うと、エーリックの提言によって全員で廃墟と化してしまったカダスの町の調査を行うことになった。
町の殆どの建物は破壊され、人の姿も窺えない状態。
恐らく住民は、形さえ残らず、全てあの
現場の有様から生存者がいる可能性は低いが、もしかしたらということもある。
それを確認する為、手分けして町全体を探ることになったのだ。
誰がどの場所を担当するのか、皆で集まり、それを決めようとしていた時だ。
俺の中に流れる魔力に反応があった。
ステータス通知か。
最近、やけに多いな。
俺は早速、ウィンドウを開いて確認してみる。
〈ステータス〉
[名前]ルーク・ハインダー
[冒険者ランク]F
[アクティブスキル]
裁縫 Lv.10(強度+2 長さ+1)
構造解析糸 Lv.3
構造改変糸 Lv.3
[パッシブスキル]
影縫い Lv.3
「……!」
またレベルが上がっている……。
かなり早いペースだが、あれだけの数の
気になるのは裁縫スキルに〝長さ〟の項目が増えたことだ。
これは多分、そのままの意味だろう。
今よりも糸を長く伸ばせるようになったということは、俺が掌握出来る範囲が広がったということだ。
これは一見すると地味だが、実際ではかなり大きな利益を産むことになるだろう。
更に糸の強度がアップしている。
滅多なことでは切れない。それだけで安心感が増すというもの。
構造解析と改変もそれぞれレベルアップしているが……。
俺はそっと、近くに転がっている家の瓦礫に一本の糸を垂らしてみた。
「……」
うん、やはり想像通りだ。
この二つは単純に速度が上がっている。
単純な構造なら、ほぼ一瞬で解析出来るレベルになっている。
生物など、複雑な構造のものは、まだもう少し時間が掛かるが、然程ストレスにならないレベルだ。
そして最後に影縫いだが……これだけがレベルアップによる変化を認められなかった。
影を縫えることも偶然そうなるまで分からなかった訳だから、また同じように気づけていない部分があるのだと信じたい。
ともかく、糸が更に扱い易い状態になってくれたことは単純に有り難い。
これからもこの調子でパワーアップして行って欲しいところ。
ステータスの確認を終えた俺は、探索区域の割り振りの輪に交ざる。
丁度その時、ゲイツ達のパーティが俺達の方に近付いて来ているのが見えた。
その表情に良からぬものを感じる。
「よお、英雄さん。大活躍だったじゃないか」
そんなふうに嫌みを言ってきたのはラルクだ。
あまり関わりたくはないのだが……。
「何の用だ?」
「おい、つれないなあ。幼馴染みじゃないか」
今更、どの口がそれを言う?
「用件だけを言え」
「はぁー……」
ラルクは大袈裟に溜息を吐いた。
「俺はただ、そっちの翼人の娘に興味があってね」
「……」
思い掛けず自分に意識が向けられ、アリシアはビクッと体を震わせる。
「翼人といえば珍しい種族。その事について色々と話を聞いてみたいなあと思ってね……」
ラルクは卑しい目付きでアリシアに近付き、彼女の体に手を伸ばしてくる。
彼の指先が白い翼に触れようとした時だ。
「ぐあっ……!?」
ラルクの手が空中で捻られ、悲痛の声を上げる。
「いでででででっ!!」
傍目から見れば彼が自ら腕を捻り、藻掻いているようにしか見えない。
一人芝居もいい所。
だが実際は、俺が放った糸がラルクの腕を縛り上げていたのだ。
「おいっ! やめろぉっ! 何をしたっ!! 折れるっ! 折れるだろがっ!」
さすがにそこまで声を上げると、その場にいた冒険者達にも伝わる。
皆、何事かとラルクに注目を寄せた所で、俺は糸を解いた。
「い……つぅ……」
解放された彼は痛みの残る腕を頻りにさすっていた。
しかも、自分が注目されていると知ると、ばつが悪そうに押し黙ってしまった。
俺はそんなラルクに対して戒めのような視線を送る。
すると彼は小さく舌打ちをし、俺達から距離を取った。
ったく、何をしでかすか分からない。
俺だけじゃなく、アリシアにも気を配っておかないとな。
ラルク達には警戒が必要だと感じたその直後だった。
突如、ドスンという地響きが辺りを襲った。
「なんだ!?」
空気が震動して、体を揺さぶられているような感覚に陥る。
それは周囲の冒険者達も同じに感じているようで、皆ざわつき始める。
そんな時、冒険者の一人が何かを見つけて指差した。
「おい……なんだあれは!?」
その場にいた者達が一斉に、彼が指差した方向に目を向ける。
「な……宙が歪んでいる?」
誰かが口にした通り、
空に大きな泥の湖が出来たかのようだ。
あんな現象、見たことがないぞ……。
そう思っていると、その様子を呆然と見ていたエーリックが呟く。
「まさか……ニヴルゲイト……なのか!?」
ニヴルゲイト?
なんだそれは? 初めて聞く言葉だ。
ただ一つ言えることは、その歪みは空中に口を開けた門のように見えるということ。
その門の中から何かが出てくる。
まず最初に巨木のように太い腕が覗き、黒い皮膚が露わになる。
体皮は岩石のようにゴツゴツとした皮膚の合間で溶岩の如き紅い筋が光を放っていた。
次いで、鉤爪を持った手が歪みをこじ開け、鋭い牙が並ぶ大口が顔を出す。
そして爬虫類のような金眼がギョロリと俺達を見下ろした。
文献で見ただけなので断言は出来ないが、あの特徴ある黒皮と赤く光る筋。
それに加え、この威圧感と畏怖の感情。
もしかして……あれは……。
俺が答えに辿り着いたと同時だった。
エーリックが恐怖に滲んだ顔で声に出す。
「……
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