第30話 嫉妬〈ラルク視点〉


 ラルクは腸が煮えくり返る思いだった。



 ――くそっ……なんでアイツばかりが称賛されるんだ?



 冒険者達に囲まれ、ちやほやされているルークを遠くに見ながら歯噛みする。



 ――そもそも、アイツにあんな能力があるなんて聞いてないぞ……。



 数十体もの翼竜ワイバーンを一度に制止させるほどの魔力だ。

 昨日や今日で身につくようなものではない。



 ということは、やはり力を隠していたのだ。



 ――わざと出来の悪いふりをして、俺達を嘲笑っていたってわけか……。



 ラルクはルークがパーティにいた頃の事を思い出す。

 それは全て、クエストでピンチに陥った時の事ばかりだ。



 ――あの時も、あの時も、あの時も……本当は簡単に切り抜けられていたはずなのに、アイツはそれを遠目で窺いながら、俺達が慌てふためいている姿を見て笑ってやがったんだ……!



 それが分かると更なる怒りが込み上げてくる。



 ――畜生……! 馬鹿にしやがって!

 上級パーティに昇格して浮き足立っている時もそうだ。

 俺達を冷ややかな目で見ていたに違いない。



 ラルクは拳を握り締めると、近くにあった木の幹にそいつを捻じ込む。



 ――くそ……ぜってー許せねえ!



 そんなふうに苛立ちを露わにしていると、側にいたゲイツが遠慮がちに言ってくる。



「おい、ラルク」

「あん? なんだよ?」



「思ったんだけどさ……今からでもルークを俺達のパーティに呼び戻せないかな?」



 その言葉を聞いた途端、ラルクは強い憤りを感じた。



「は? 何言ってんだ? 頭湧いてんのか?」

「だが……あの力があれば、俺達はもっと上に行ける可能性があるだろ? それにアイツは一応、元パーティメンバーだったわけだし……」



「冗談じゃ無い! 今更そんな事できっかよ!」



 ――こいつにはプライドってもんがねえのかよ。今更、どの面下げてそんな事が言える? 俺はアイツに頭を下げるなんて真っ平御免だ。



「それに俺達の武器はさっきの戦闘で壊れちまった。ルークに直してもらわないと、お前だってこの後、困るだろ?」

「それなら予備の武器があるはずだ」

「ああ、あるにはあるが、あれはあくまで予備じゃないか。身を守るには心許ない」

「心許ない? もう翼竜ワイバーンは倒したんだ、それで充分だろ。金はあるんだ、町に戻れば新しいのが買える」

「そうは言っても、帰りの道中に何かあったらどうする?」

「……」



 ――ったく、リーダーの癖に腰抜けめ。苛々させやがる。



「ティアナはどう思う?」



 そんな時、ゲイツは彼女に話を振った。

 聞かれたティアナは顎に指を当て考える素振りを見せる。



「うーん……あんまり気は乗らないけど、私はゲイツがそうしたいっていうのならいいわ」



 彼女は、少しはにかみながらゲイツに答える。



 ――ちっ……色目を使いやがって。ティアナの奴……最近はゲイツ、ゲイツ、ゲイツばかりだ。アイツのどこがそんなにいいっていうんだ? 俺の方が能力も頭も運も上だぜ? 気に入らねえ、気にいらえねえなあ!



「ティアナはああ言ってるが、ラルクはどうする?」

「ああん?」



 ゲイツがふざけた質問をしてくる。

 そして、こう続けた。



「俺もお前と同じで今更ルークに頼ろうなんて思っちゃいないさ。これはあくまで俺達が成り上がるまで、アイツを利用するっていうだけのこと」

「……」



 下卑た笑みを浮かべながら同意を迫ってくる。



 ――たとえ利用するだけだと言っても、それまでは肩身を狭くしなくちゃいけなくなる。そんなのは、とてもじゃないが我慢がならない。せめて、アイツに一泡吹かせてやらないと気が済まねえ。



「……! そうか……」



 不意にラルクは思い付いた。



 ルークの隣にいた、あの翼人の少女の事を思い出す。



 所詮、ルークは対象の動きを止めるだけのことしか出来ない能無しであることは変わらない。

 全てはあの翼人がいるからこそ、翼竜ワイバーンを倒すことが出来たに過ぎない。



 翼人が仕留めた以外の翼竜ワイバーンも、冒険者達が倒したのだ。彼は何一つ手を出していない。



 ――ということは……奴はあの翼人さえいなければ、やはり何も出来ないゴミ屑なのだ。



「はははっ」

「どうした? ラルク……」



 急に笑い出したラルクにゲイルは怪訝な表情を向けてくる。

 しかし彼は、そんなことは気にせず、とある提案を持ち掛ける。



「いいぜ、お前の話、受け入れてやっても。でも、その前に一つ、やっておきたい事があるんだ」

「やっておきたいこと?」

「ああ」



 ――アイツを元に戻すなら、その牙を完全にへし折って大人しくさせてからじゃないと気分が悪いからな。



 ラルクは、ほくそ笑みながら告げる。



「アイツを支えているものを奪ってやろうぜ」


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