第24話 ブリーフィング
夕刻前、町の中心に位置する広場には、多くの冒険者達が集まっていた。
皆、カダス方面へ
各地から集まってきた冒険者達は優に五百人を超える。
大体、パーティの平均人数は三人から五人。
だとすると、百組以上のパーティがこの辺境の地に集まっていることになる。
報奨金の高さもあってか、かなりの参加者数だ。
俺とアリシアもその中に混じって、時が来るのを待っていた。
これからこの場で
通常のクエストでこのような場を設けることは珍しい。
冒険者は皆、事案を解決する為のエキスパートであり、それぞれが自分に合った作戦を立て、クエストをクリアして行くのが常だからだ。
それだけ今回のクエストは重要度が高いのだろう。
何しろ依頼主が国王だからな……。
実際、群衆の前にはギルドの人間だけでなく、王国の兵士達の姿も窺える。
それが、ただのクエストではないことを物語っていた。
「すごい人ですね……。これが皆、クエストに参加する人達なんですよね……」
側でアリシアが不安そうに言う。
「どうした? 圧倒されちまったのか?」
「いえ……ただ、みんな強そうな人達ばかりで……この中で私、やって行けるのかなって……」
「それを圧倒されてるって言うんだぞ」
「あ……」
指摘されて自分を客観的に見ることが出来たようだ。
「大丈夫だ。俺達は一度、奴を倒しているんだからな」
「はい」
アリシアは自分を奮い立たせるかのように唇を引き結んだ。
この前のことが少しでも自信に繋がっていればいいのだが……。
そんな事を考えていると、前の方で何か動きがあったようで周囲がザワつき始めた。
そろそろ始まるようだ。
その最中、何気なく群衆を見渡した時だった。
「ん……」
少し離れた場所にラルクを見つけたのだ。
彼の側にはゲイツとティアナの姿もある。
彼らも俺達の存在に気が付いたようで目線が合う。
ラルクはニヤついた顔を見せ、ゲイツは冷めた視線を送ってきていた。
ティアナはアリシアのことを一瞥すると、軽蔑するような目を向けてくる。
ただ距離が離れていることもあって、近付いたり、互いに言葉を発することも無かった。
それに説明会が始まったことで意識はすぐに前方に向けられていた。
仮設で作られた壇上に一人の男が登る。
白銀の鎧をまとった、鋭い眼光を持つ青年だ。
まだ二十代のように見えるが、年齢以上の威厳と貫禄が表に滲み出ている。
それは多くの苦難や危険を乗り越えて来た者だけが身に付けることの出来るオーラだ。
「おい、あれって王国軍の聖騎士長……エーリック・グライナーじゃないか?」
「あ、本当だ。マジかよ……聖騎士長自らアーガイルくんだりまで出張ってくるなんて……」
「ってことは、このクエストってギルドじゃなくて王国軍が陣頭指揮を取るのか?」
そんな会話が近くにいた冒険者の間から聞こえてくる。
今、俺達がいるラベリア王国には大きく分けて五つの騎士団が存在している。
その内の一つをまとめているのが聖騎士長だ。
騎士団の内部は更に細分化されており、一つの騎士団でも多くの兵士を抱えている。
そのトップである聖騎士長が動くのは国同士の大きな戦がある時ぐらいだ。
その彼がわざわざ辺境の地まで出向いてくるということは、それだけで事の重大さが伝わってくる。
中隊規模の兵士も連れてきている。
あの
聖騎士長エーリックは壇上に立つなり、こう訴えた。
「まず最初に言っておこう。これは国家存亡の危機である」
その発言に冒険者達はザワつく。
「既に承知していると思うが、我が国の領地であるカダスの北西に位置するシチル村が、正体不明の
エーリックがそこまで言った所で、最前列にいた冒険者の一人が質問を飛ばした。
「
それは誰もが気になる所だろう。
本来、
エーリックは躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「奴らは……人を喰らう」
「……!?」
冒険者達は揃って息を呑んだ。
普通の
そうでないということは、あの黒鱗の
「このまま対処しなければ被害が拡大することが目に見えている。そこで魔物との戦闘経験が豊富な冒険者の力をお借りしたいと思い、ギルドを通じて人材を募ったというわけだ。有り難いことにこれだけ多くの方々に集まって頂くことが出来た。国を代表して感謝する」
エーリックは聖騎士長という名に驕らず、頭を下げた。
「しかも、この度は五つもの上級パーティに名乗りを上げて頂いた。Aランク冒険者である彼らならば
エーリックが目配せすると、五つの上級パーティと呼ばれた面々が群衆の合間を縫って冒険者達の前に並ぶ。
勿論、その中にゲイツ達のパーティ、蒼の幻狼も入っていた。
「まずは遙か東方の地から、この為にやって来てくれた臥竜の団」
紹介されたパーティは一歩前に出て、挨拶する。
他にも閃光のギュスターヴ、赤竜同盟、砂鼠の旅団などのパーティが紹介される。
「そして最後に上級パーティに昇格したばかりで今回の作戦に志願してくれた――蒼の幻狼」
馴染みのある顔が前に並ぶ。
遠く過ぎてよく分からないが、ラルクが一瞬、誇らしげな視線を俺に送ってきたように見えた。
「今回の掃討作戦は、彼ら五つの上級パーティと王国騎士団が中心となり進めたいと考えている。その他の冒険者は彼らのサポートに回って欲しい。特にランクの低い者はあまり無理をせず後方での補助に専念してもらいたい」
エーリックがそう説明すると、俺の前にいた二人が小声で愚痴を言い合う。
「ちっ、結局、Aランク様が全ての報酬を持って行くのかよ……。王国と上で繋がってんじゃねえのか?」
「まあ、いいじゃねえか。危険なことは上級パーティ様に任せて、俺達はお零れを預かることに専念すればいいことだし」
金のことばかりで危機感はあまり無いようだ。
当然、そんな会話は遙か前方にいるエーリックには届いていない。
「それでは、これから確認されてる
彼はそのまま冒険者達に現地での立ち回り方と詳細な作戦内容を述べ始めた。
真剣に聞く者、メモを取る者、話半分に聞く者、居眠りする者。
冒険者によって反応は様々だ。
そしてそれは、日が落ちる頃に全てを終えていた。
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