第22話 掘り出し物?
武器屋の店主が勧めてきたのは一振りの剣だった。
箱の中に収まっているその剣は妙にピカピカしていた。
やたらと金色の装飾が多く、大袈裟という言葉が似合う。
「こいつは、かつてAランクの冒険者が実際に使っていたものだ。まあ、多少の使用感があるのは否めないが」
確かにグリップ周りに握りの跡が残っていたりと、装飾が一部欠けていたりと、年季が入っている感がある。
「しかし、物はいいものだぞ」
店主は鞘を抜いてみせた。
すると、顔が映り込むくらい目映い剣身が露わになる。
「ほら、素晴らしいだろ? 長剣の割には細身だから、小柄な嬢ちゃんでも扱い易い。それに
ゴテゴテした派手な見た目を除けば、悪くはない気がする。
あまり趣味ではないが……。
一応調べてみるか……。
俺は魔法の糸をそっと伸ばし、カウンターの上に置かれた剣に触れる。
瞬時にそいつの構造が頭の中に入ってきた。
鋳造の鋼か……。
これといって特徴の無い極普通の剣だが、金属の密度が一定で質も悪くない。
強度もそれなりにありそうだ。
あとは値段次第だが……。
「悪くは無さそうだが、値が張るんじゃないか?」
「金貨五枚だ」
「五枚……」
はっきり言ってそれは破格の値段だ。
このクラスの剣は中古でも金貨百枚はくだらない。
それがたった金貨五枚で買えるというのだからお得でしかない。
「かなり古いものだからな。結構、お買い得だと思うぜ?」
確かにお買い得ではあるが、今の俺達にとって金貨五枚は痛い。
ほぼ、それが全財産だからだ。
彼が先に剣から持ってきたのでこうなってしまったが……そもそも、その金で簡素なタイプの防具を一式揃えようと思っていただけで、剣までは予定には入れてなかった。
安いのがあれば考えるつもりでいたが、武器は基本今使っている予備の剣で行こうと思っていたのだ。
いくら安いと言っても予定が狂ってしまう。
折角だが、これは諦めよう。
それにド派手なこいつをアリシアがぶら下げている姿を想像出来ない。
店主に剣はいらないことを告げようとした時だ。
ふと、店の入口の辺りに積まれたガラクタに目が行った。
店に入ってきた時には然程気にならなかったが、壺に適当に差してある埃を被った剣が妙に気になった。
細身のロングソードで、デザインは至ってシンプル。
何の装飾も無い青い鞘と、真鍮色のガード。
一つだけ特徴があるとすれば、柄頭の部分に何かを嵌め込むような窪みがあることだ。
そこに魔法の糸を伸ばすことに迷いは無かった。
何か惹かれるものを感じたのだ。
糸が構造を読み取る。
何重にも折り重なり鍛えられた鋼。
その鋼の内部にまるで毛細血管のように微細な管が走っている。
これは何の為の管だ?
管を辿ると先ほどの柄頭の窪みに集約されているのが分かる。
まるでその窪みから何かを刀身に流し込む溝のようにも見える。
もしかして……この管は魔力が通る為のもの?
ということは、その窪みに魔法石か何かが嵌まっていたのか?
それにしても、なんて繊細な造りの剣だ。
こんな凄い剣が無造作に放置されていていいものじゃない。
恐らく、店主はこの剣の価値を理解していないのだろう。
試してみるか……。
「あの剣は?」
俺は青い鞘の剣を指差した。
すると店主は急に別の品に振られたので戸惑った様子を見せたが、すぐに答えてくれる。
「ああ、あれはジャンク品だ。色々壊れてる部分があるから、そのままじゃ使用に耐えられないぜ」
「ほう、ちなみ買うとしたらいくらだ?」
「ん……」
そんな質問が返ってくるとは思っていなかったのか、返答にまごつく。
「っと……銀貨一枚だ」
「……」
なんてことだ……破格も破格、大破格じゃないか。
多少、細部にガタつきがあるが、問題になる程度じゃない。
こいつは間違い無く掘り出し物だ。
「買った」
「えっ……」
店主は唖然としていた。
それもそうだろう。目の前で勧めていた剣をそっちのけで、ジャンク品に飛びついた訳だから。
しかもそれで
「いや……それは別に構わないが……本当にそれでいいのか?」
「ああ、構わない」
「嬢ちゃんも……それで?」
「私はルーク様が選んで下さったものであれば喜んで」
「……」
二人で口を揃えてそう言うので彼は閉口してしまった。
「ただ……そいつを使えるようにするには修理が必要だ。別途、修理代が銀貨六枚ほど掛かるがいいか?」
「ああ、それなら自分でやるからそのまま貰えるか?」
「じ、自分で!? 兄ちゃん鍛冶士か何かか……??」
「いや、そういう訳ではないが、直せる当てがあるのでね」
「ほ、ほう……」
俺はこれまで裁縫スキルで幾度となく装備品を修理してきた。
これくらいの修理は朝飯前だ。
店主は合点が行かない様子だったが、俺のスキルを説明をする訳にもいかない。
それで納得してもらうより他は無かった。
「ということは、ここに積んであるアーマーとか、
俺は店頭に山積みになっているそれらに視線を送る。
「ああ、そうだ。皆、金具が取れたり、欠けがある。修理する時の部品取りに使うくらいだな」
彼はそういうが、どれもこれも俺が少し直せば使えそうなものばかりだ。
中には結構、質の良いアーマーもある。
「これも銀貨一枚?」
「う……売るとしたら……そうなるな」
「なるほど」
それを聞いた俺は、積まれているジャンク品の中から状態が良くてアリシアに合いそうなものを選ぶことにした。
そこで簡易的な
締めて銀貨四枚。
かなり費用を抑えることが出来た。
「ああ、そうだ。後ここにあるマントはいくらだ?」
店の片隅に折り畳んで積んである布を指差す。
「ん……そいつは穴があいちまってボロ布にしか使えない奴だ。それならタダでいくらでもくれてやるよ」
「本当か?」
「ああ……」
「ありがたい」
「……」
店主は半ば投げやりのような状態でそう言った。
俺は布の束を紐で括ると背中に担ぐ。
それを見ていたアリシアは不思議そうに尋ねてくる。
「ルーク様、そんなにたくさんのマント……どうするのですか?」
そんな彼女に、少しばかり得意気に言う。
「そもそも俺の専門はコレなんでね」
「?」
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