第21話 黄昏の武器屋
思い掛けず嫌な奴に出会ってしまったが、気を取り直して緊急クエストの参加受付を済ませる。
ギルドの受付嬢の説明によると、今晩には町の広場で説明会が開かれ、明日朝には参加者全員で出発とのこと。
かなりタイトなスケジュールだ。
それだけ事態が緊急を要しているということだろう。
俺達が倒した
だが、カダスといえば、あの街道方面だ。行き掛けに回収出来るはず。
となれば、時間もあまり無い。
急いで装備を整えなければ。
まずは武器屋だな。
そう思ってギルドを出た。
道すがらアリシアは何も聞いてこなかった。
前のパーティの事、ラルクの事、そして彼が俺に対して辛辣な態度を取る理由。
側で聞いていてある程度は分かっているはずなのに、何も尋ねてこないのは彼女なりの気遣いなのだろう。
そんな状態のまま彼女と歩き、町で一番品揃えが良いという武器屋の前にやってくる。
そこまでは良かったのだが……。
店頭の様子を見て驚いた。
かなりの人集り出来ていたのだ。
百人以上はいるだろう。
当然、全て冒険者だ。
「どうしてこんなに人が……?」
アリシアもその光景を不思議そうに見ている。
だが俺には人集りの理由が分かっていた。
それは人気店だからとか、セールをしているから、とかではない。
店頭でひしめいている彼らは皆、
今回の緊急クエストの目的地であるカダス。
そのカダスに、このアーガイルが一番近い町とあって参加者達の拠点になっている。
ギルドからも討伐参加者はアーガイルに集まるようにとの通達が出ているようで、多方面からこの町に冒険者が集まって来ているのだ。
となると、この町で最終的な準備を行うパーティも自ずと多くなる。
武器屋がそう沢山あるわけでもないので、人で溢れかえるのも当然の流れだった。
それにしても予想以上にこのクエストに注目している冒険者は多いようだ。
報酬に関してもそれだけ競争率が高くなってくる。
気を引き締めて挑まなくては……。
ともかく、こんなにごった返していては、まともに品を選べないな……。
それに外から見た感じ、かなり値の張るものばかり並んでいるようだ。
懐具合が寂しい俺達には、ちょっと厳しいかもしれない。
初心者向けで、もっと手頃な値段設定の店はないだろうか?
その店を諦めて、当てもなく裏路地へと入ってみる。
奴隷商の店があった場所と同じような雰囲気が漂う通りだ。
そこへ足を踏み入れてすぐの事だった。
運良く(?)武器屋らしき小さな店を発見した。
いつ崩れてもおかしくはない掘っ立て小屋のような家屋の中に、所狭しと武器や防具が置かれているのが外からも見える。
だがどれもこれも埃を被っていたり、錆び付いていたりで、本当に武器屋なのか疑わしくもある。
ガラクタ置き場と言えばそれまでだ。
とりあえず見るだけでもと思い、店の中へと入ってみる。
大きな壺の中に乱雑に突っ込まれた複数の剣。
まるで野菜のような扱いで台の上に転がっている鎧。
何の法則性も無く、無造作に山積みにされている無数の籠手。
そんな商品が目に入ってくる。
そもそも本当にそれが商品なのかも怪しいところ。
値札すら付いてないのだから。
「ここは武器屋でいいのか?」
俺は店の最奥のカウンターで暇そうにしている壮年の男に声を掛けた。
恐らくこの店の店主だろう。
彼は俺達の姿を認めると、ゆっくりと口を開く。
「いかにも。だが、全て中古だがな」
「中古……」
そうか、古びた感じがするのはそのせいか。
久しく武器など購入する機会が無かったから、中古という存在が頭から抜けていた。
しかし中古なら、アリシアにそれなりのものを一式揃えてやることが出来るかもしれない。
問題はその中古の品質だが……。
「ここにある品は実際に使えるものなのか?」
すると店主は心外そうな顔をする。
「失礼な。どれもこれもちゃんとした品物だ。まあ、手を入れなければならないものも一部あるがな」
「そうか、なら上から下まで一通り揃えたい。こいつに合いそうなサイズで見繕ってくれないか?」
そう言って店主の前にアリシアを押し出す。
「えっ……私にですか?」
「そのままの格好で
「そ、そうですね……」
彼女は自分の腕にあるサイズの合っていない
そんなやり取りをしていると、店主の様子がおかしい事に気が付く。
俺達のことを呆然と見つめているのだ。
「お前ら……カダスの町に出たという例の
「ああ、そうだ」
「……」
店主は二度、目を丸くした。
どうやら町の人間にも例の緊急クエストの話は広まっているらしい。
彼は俺達の姿を何度も見回す。
その反応は恐らく、俺達の見た目があまりにも貧弱すぎて、とても
「……本気か? 俺も色んな冒険者を見てきたから分かる……。お前達、死にに行くようなもんだぞ?」
「まあ、それは完全には否定出来ない。けれど、俺達が何も考えていないって訳じゃない」
「……」
店主は黙って俺の瞳を見据えてくる。
「どうやら本気のようだな」
「だから、さっきからそう言ってるじゃないか」
「……」
一瞬、考えるような間が空く。
「分かった……その娘に合うものを探そう」
「ああ、ちなみに予算はそんなに無いから、その辺も考慮してくれ」
「無茶を言う……」
彼は溜息を吐きながら店の奥でごそごそと棚を物色し始めた。
しばらくすると、店主が長い木箱を持って現れる。
だいぶ煤けた感じの見た目だが、箱自体はしっかりとしている。
「これなんか、どうだ?」
彼はそれをカウンターの上に置くと、蓋をそっと開ける。
中には一振りの長剣が収まっていた。
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