第20話 再会


「なんだお前、この町にいたのか」



 ラルクはうざったそうにしながら、こちらに近付いてきた。



 俺としては一番会いたくない奴に出会ってしまったという感じだ。

 もう二度と顔を合わせたくないが為にわざわざ辺境の地まで来たというのに、こうもあっさりと再会してしまうとはツイてない。



 彼は俺の身なりを一通り見回すと、不可解な面持ちになる。



「というか、ここは冒険者ギルドだぞ? なんでこんな所にいるんだ? まさか、お前まだ……」

「……」



 俺の無言を答えと悟ったのか、ラルクは呆れたような表情を見せた。



「おいおい、マジかよ。懲りずにまだ冒険者をやってるのか? 幼馴染みのよしみで忠告してやったっていうのに、呆れたもんだぜ。お前みたいな弱っちい人間がこの世界にいたら、すぐに死んじまうぜ?」

「やりたいから、やっている。それは俺の自由だろ」



 素っ気なく吐き捨てる。

 すると彼は「おやおや」という感じで肩を竦めた。



「そうだな、お前が何をしようと自由だ。俺達にはもう関係無い。だが、気になるな」

「何がだ?」

「この先一人で冒険者をやって行くつもりじゃあるまい? そいつは無謀すぎるもんな。だからといって、お前のような人間を雇ってくれるパーティが果たしてあるかな? くくく……」



 ラルクはニヤついた顔で嘲笑った。



 そんな彼に苛つく以前に、こんな奴と幼馴染みだったことに反吐が出る。

 これ以上、こいつと話していても俺にとっては何の利益も無いだろう。

 軽くあしらって、さっさと退散したいところ。



「さあ、どうだろうな?」



 俺がそんなふうに適当に答えて、その場をやり過ごそうとした時だ。

 側で何やら異様な空気を放っている者がいることに気が付く。



 それはアリシアだ。

 彼女はムッとした顔つきでラルクのことを睨み付けていた。



 その空気を感じ取ったのか、ラルクも彼女の存在に気付く。



「ん? なんだ、この薄汚れた小娘は……」



 彼がそう発した直後、アリシアが今までに見せたことのない剣幕で突っぱねた。



「ルーク様は弱くなんかありません! とてもお強いです!」

「え……」

「素晴らしい判断力と知性と勇気、そして優しさを持ち合わせていらっしゃる。冒険者としてだけでなく、人としても素晴らしい御方です! そんなルーク様とパーティを組みたいという人はたくさんいるはずです! あなたの言うことは全部、間違っています! というか、あなた凄く失礼です! 今すぐルーク様に謝って下さい!」

「え……ちょっ……なんなんだ、こいつは……」



 捲し立てる彼女に困惑したラルクは、俺に助けを求めるような視線を送ってくる。



 俺も俺で驚いた。アリシアがこんなふうに苛立ちを露わにすることがあるなんて思ってもみなかったからだ。



「おい、その辺にしとけ」

「ですが……!」



 まだ言い足りないようだった。

 だが俺の表情を見て我に返ったのか、彼女はそこで素直に「はい」と返事をした。



「おいおい、ルークって……どういうことだよ。……ん」



 彼女が口にした俺の呼び名に違和感を覚えたラルクは、すぐにピンと来たようだった。

 視線がアリシアの胸元に行くのが分かる。



 襟の合間に半分だけ覗く隷従刻印。

 その存在に気が付いたようだ。



 彼の顔に薄笑いが浮かぶのが見えた。



「奴隷を買ったのか! ははっ、こいつは傑作だ! お前もなかなか考えたじゃないか! パーティが組めない奴には丁度良いかもな」



 ラルクは腹を抱えて笑い出した。

 これに再びアリシアが反応するが、俺は彼女の肩を手で押さえて制止した。



 代わりに自分が前に出る。



「それはそうと……他の二人も来ているのか?」

「ああ、いるぜ」



「どうしてお前達がこんな辺境の地にいる? 上級パーティ様には用の無い土地だろ」

「お前も知ってるだろ、アレさ」



 ラルクは親指で背後の掲示板に群がる冒険者達を指し示した。



翼竜ワイバーンの討伐。上級パーティに昇進した俺達が名を揚げる最初の仕事としては持って来いの案件だろ?」



 なるほどな、と俺は思った。



 Aランク級の魔物である翼竜ワイバーンは、彼らにとって丁度良い獲物と言える。



 相手は大群という話だが、どれぐらいの規模かは不明だ。

 しかし、魔物としては大物の部類である翼竜ワイバーンを一体、二体と屠る姿は絵面としてかなり映える。



 それに加え、国王が絡む依頼となれば、案件を解決した暁には盛大な凱旋パーティが開かれるだろう。

 となれば、その場で活躍したパーティは表彰される可能性がある。

 一つのクエストで一躍有名パーティにのし上がれるチャンスを秘めているのだ。



 彼らがそれに目を付けるのも分かる。



 だが、あれはただの翼竜ワイバーンではないという事を彼らは知らないが……。



「つーわけだから、わざわざこのアーガイルくんだりまで来たってわけさ」

「ほう」



 俺が興味なさそうにしていると、ラルクが俺の肩を掴んでくる。



「そういえばお前、今、受付しようとしてただろ? まさかとは思うが、翼竜ワイバーン討伐に参加する気じゃないだろうな?」

「……」

「冗談でも止めとけよ? 笑いものになるだけじゃなく、本気で邪魔だからな」

「……」



 俺の反応が無いとみると彼は踵を返す。



「さて、俺達は出発の準備で忙しい。それじゃあな、もう会うこともないだろう」



 そう言い残し、彼は去って行った。


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