第19話 緊急要請
翌日、俺達はアーガイルの町へと戻り、冒険者ギルドへ報酬を受け取りに向かった。
今回のクエストで駆除した
その報酬として金貨五枚を手に入れることが出来た。
ちなみに駆除の証拠品として、
俺は報酬の入った革袋を懐に入れるとホクホクとした気分になる。
何しろ新しいパーティで初めて稼いだ報酬だ。
俺達だけでも冒険者としてやって行けるという自信にも繋がった。
この金でアリシアの装備を買ってやらないとな。
あまり質の良いものは与えてやれないが、それでも冒険者らしくはなるだろう。
早速、武器屋に行こうじゃないか。
そう思い立って、ギルドを後にしようとした時だった。
何やら掲示板の辺りが騒がしい。
クエスト情報に群がる冒険者の光景はいつもの事だし、騒がしいのも毎度の事だが、今回は少しばかり様子が違うように思えた。
やけに一つの掲示物が注目を浴びていたのだ。
そこに集まる冒険者達の口から、こんな声が漏れ聞こえてくる。
「うおー、すげー報酬たけぇーじゃん」
「しかもランク制限無しだってよ」
「参加人数も無制限らしいぜ」
「これは受けるしかないな」
どうやら、そこに貼ってあるものの内容について話しているらしいが……。
割の良いクエストでも入ったのか?
ある意味、駆け出しの冒険者である俺達にとっては、稼ぎ話となればどうしても気になってしまう。
「ちょっと覗いてみるか……」
俺達は群衆の合間を縫い、なんとか掲示板が見える位置まで進もうとする。
アリシアの小さい体は、体格の良い連中の間に埋もれそうになっていたが、俺はなんとか前に並ぶ頭の隙間を狙って掲示物を覗き見ることが出来た。
そこに掲げられていた内容はこうだ。
[緊急クエスト]
推奨冒険者ランク:不問 依頼パーティ数:無制限
概要:近頃、ラベリア王国領地内に於いて、黒鱗を有する
現在も被害は拡大しており、カダスの町に迫る勢いである。
これは我が国の安寧を揺るがす緊急事態と捉え、冒険者各位に黒鱗の
達成条件:黒鱗の
報酬:討伐一体につき金貨百枚
依頼主:ラベリア王国 国王ガゼフ三世
「……!」
俺は息を呑んだ。
それって……俺達が倒した奴じゃないか?
黒鱗の
しかも、それが大群で発生してるって話を聞くと、あれはその一部がはぐれたものだったのかと推測出来る。
それにこれ……クエストの依頼主が国王になっている。
早急に解決しなければならない案件は緊急クエストとして掲示されるが、それに国が関わってくるのは余程の事でなければ余り無いことだ。
それだけ今回のこの件は事態が逼迫しているということだろう。
報酬だって破格だ。
普通の
それをその倍、払うって言うんだから羽振りがいい。
ランクを問わず参加を募ることにも必死さが現れている。
まずは人命が第一だが、自分の所の領地が被害を受ければ、それだけ金も出て行くし、税収も減るわけだから、なんとかして食い止めたいと思うのが国というものだろう。
「おい、でも相手は
側でそんな事を口にしている冒険者がいる。
「確かにそうだが、人数に制限が無いってんなら、お零れを預かれる可能性だってあるんじゃないか?」
「なるほど、そりゃ一理あるな」
「高ランクの後ろでちまちまやってれば、金貨百枚とは行かないまでも三十枚くらいは稼げるんじゃないか?」
「そうだな、やってみっか」
周囲を伺うと、彼らのように参加の意志がある冒険者は結構多いようだ。
報酬が報酬だから取り敢えずはやってみようという事だろう。
無論、最初から討伐にやる気を見せている高ランク冒険者の姿もある。
そういった輩は装備内容を見れば一目瞭然だ。
いかにも高そうな鎧や剣を身に付けているからだ。
目的地はカダスか……。
俺は
カダスは俺達が
距離的にもそう遠くは無い。
それに俺達は一度、あの
さすがに複数は相手に出来ないが、一体くらいなら仕留められるかもしれない。
それだけでも金貨百枚だ。
今の俺達には充分過ぎるほどの金だろう。
やれるだけやってみるか……?
そう思いながら人混みに揉まれているアリシアに目を向ける。
彼女の体も翼も整い、俺も裁縫スキルがレベルアップしている。
条件は前よりは良くなっているはずだ。
これで挑戦しない手は無いだろう。
「よし」
「えっ?」
俺はアリシアの手を引っ張ると群衆を抜ける。
「わわっ……ありがとうございます。それにしても凄い人込みでしたね」
彼女は他人事にように、ホッと一息という感じだった。
「その様子だと掲示内容は見られなかったようだな」
「何が書いてあったんです?」
そこですかさずクエストの内容を話した。
すると彼女は目を丸くする。
「ええっ!? それって、私達が倒した……?」
「恐らくそうだろうな。一応……実績はある。そこで俺達もそのクエストに挑戦してみたいと思うのだが……」
「ルーク様がそう決めたのなら、私はそれに従うのみです」
アリシアは迷い無くそう言った。
そんな彼女の存在が不思議と心強く思える。
それにしても既に一体、倒しているわけだから、それの分も報酬が貰えないだろうか?
金貨百枚はデカいからな。
まだ死体はフォルスト平原に残っているだろうし、後で証拠品を回収してこよう。
「分かった。じゃあ手続きをしてくる」
「はいっ」
彼女にそう告げて、ギルドのカウンターへと足を向けたその時だった。
「おや? そこにいるのはルークじゃないか?」
聞き慣れた声が背後から投げかけられた。
この声を忘れるはずがない。
俺が振り向くと、目の前に蔑むような視線を送ってくる赤銅髪の青年が立っていた。
それは今や上級パーティである蒼の幻狼のメンバーで、幼馴染みでもある――、
ラルクだった。
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