第12話 クエスト


 簡易テントで一晩を過ごした俺達は、早朝から冒険者ギルドへと向かった。

 早々にクエストを受けなければ、今日の飯代すら無いのだ。



 それに朝一番で向かうのにはもう一つ理由がある。

 クエストは毎日新しいものが入ってきていて、その情報公開と更新が朝一なのだ。



 条件の良いクエストは早い内から無くなってしまう。

 それにSランク冒険者が受けるような勇者級クエストと違って、日雇いのようにすぐに現金化出来る小さなクエストは、その手軽さからライバルも結構多いのだ。



 実際、ギルドの前には開門を待つ冒険者達で一杯だった。

 派手な鎧を身に付けた者、ローブを着た魔法使い、盗賊のような格好の者までいる。



 日の出と共に門が開けられると、皆一斉に走り出し、建物の中に張り出してある掲示板に群がる。



 俺達も負けじと人の合間を縫い、掲示板を眺めた。

 近くにあった低ランク向けのクエストを確認する。



 ええーと……ゴブリンの巣の駆除か……。



 これは俺達には無理そうだな。

 奴らは最低でも四、五十匹で巣を作る。

 数的に二人ではとても太刀打ち出来ないし、一見弱そうなゴブリンも集団となると油断出来ない。



 その隣に貼ってあるのは――。




人食い花マンイーターの駆除]



 推奨冒険者ランク:Fランク  依頼パーティ数:1パーティ



 概要:アーガイル郊外のフォルスト平原で人食い花マンイーターが大量に発生し、近くの街道を通る旅人が襲われるという事案が発生。通行の安全確保の為、これの駆除を依頼したい。(数日で増殖するので早めの対応が必要)



 達成条件:フォルスト平原一帯の人食い花マンイーターの駆除

 報酬:駆除十体につき金貨一枚




「お、これは良さそうだ」



 張り紙の内容を見た瞬間、ピンと来た。



 人食い花マンイーターと言うと、聞こえは恐ろしそうに感じるが、気をつけていれば然程、強いモンスターではない。

 植物なので根を下ろした場所から動けないというのが最大の弱点だ。



 たまに不用意に草むらに足を踏み入れて食われてしまう旅人がいたりするが、落ち着いて狩れば容易に対処出来る。



 ちょっと暴れる草を刈るようなもんだから俺一人でもこなせるクエストだが、病み上がりの彼女を連れて行くなら丁度良い案件かもしれない。



 それにアリシアが冒険者としてどれくらい適性があるのか能力も確かめたいし、肩慣らしには持って来いだろう。



 何より、これなら今日中に報酬が得られそうだ。



 そう思った俺は早速、受付カウンターに赴いた。



 報酬額や獲物の取り合いなどのトラブルを避ける為に依頼人数に指定のあるクエストがあるからな。

 要は早い者勝ちってことだ。



 実際、受付してみると幸いにも競合パーティは無く、無事に手続きを済ませることが出来た。



          ◇



 アーガイルから北西に伸びる街道。

 その途中にフォルスト平原はあった。



 徒歩でも半日とかからない場所だ。



 ギルドで人食い花マンイーター駆除のクエストを受けた俺達は、現場であるこのフォルスト平原までやってきていた。



 辺りに遮蔽物らしいものは無く、腰の高さまでの草原が広がっている。

 その中を街道が突っ切っているわけだから、場合によっては人食い花マンイーターの餌食になる者も少なくないだろう。



「夕暮れまでには終わらせたい。だがその前に色々確認しておかなければならないことがある」

「はい」



 アリシアの返事は昨日までと違って、やや覇気が窺えた。

 体の状態が良くなったからだろうか?



「まずは、お前の能力を把握しておきたい。魔法は使えるか?」

「はい、風系の初級魔法が少しと、あまり上手くありませんが回復魔法も多少扱えます」



 翼人は高い魔力を持っていると聞くが、彼女はそこまでではないようだ。



「魔力があるなら自分のステータスを見ることが出来るだろ。冒険者ランクはなんだ?」

「Eランクです」

「……」



 俺の中で一瞬、時が止まった。



「奴隷の方が俺よりも上とはな……」

「え……」



 アリシアも唖然とした顔をしていた。



 そもそも俺は戦闘が主体のスキルを持っていない。どうしてもパーティではサポートが中心になってくるので、ランクが低くなってしまうのもそのせいだ。



 ランクから判断するに、基本的な戦闘ステータスは彼女の方が上だろう。



「ということはアリシアが前衛に立ち、俺が後方からサポートする配置がいいだろうな」

「分かりました」



「剣は使ったことがあるか?」

「いいえ……ですが、やってみます」



「じゃあ俺の持っている予備を貸そう」

「ありがとうございます」



「あとはそうだな……俺が今使ってる籠手ガントレット脛当グリーブも貸そう」

「えっ……それでは、ルーク様のお体が……」



「後方にいる俺がそれを付けていても仕方が無いだろ。それにそんな身なりじゃ人食い花マンイーターに食い付かれたらひとたまりも無いぞ?」



 彼女の服装は、なんの防御力もない薄汚れた奴隷服一枚。

 それは、とてもこれからモンスターと戦う者の格好ではない。



「でも……」

「いいから付けとけ」

「……はい」



 心配そうな目を向ける彼女。

 だが、主の命令は絶対だ。



 俺は自分の装備を外し、彼女に渡した。

 多少大きめだが、何も付けていないよりはマシだろう。



 本来なら、もっとまともな装備を揃えたやりたいところ。

 だが、今の俺にはそれを買ってやれるだけの金が無いのだ。



 もう少し余裕が出来たら、ちゃんとした装備を買ってやることにしよう。

 それまでは、俺のお下がりで我慢してもらうしかない。



「装備はそれでよしとして……あとは対象を前にしての実際の立ち回り方だが……」



 人食い花マンイーターは、体長三メフラン(約三メートル)ほどにも及ぶ植物型モンスターだ。



 茎の先に付いている巨大な花には牙のようなものがあり、植物とは思えない素早い噛み付きによって人や動物を捕食する。

 花の内部では溶解液が分泌されており、捕食したものは骨も残らず溶かされ養分として吸収されるという。



 但し、根を下ろしている範囲からは動くことは出来ないので、こちらからの攻撃の仕方はおおよそ定まってくる。



 前衛であるアリシアは人食い花マンイーターの攻撃範囲外からの魔法攻撃が主体となる。

 それで仕留められるなら問題無いが、彼女の能力がどこまでのものなのかは実際に見てみないと分からない。



 よって魔法だけでは対処仕切れなかった場合も考えておかなければならない。



 その際は俺が魔法の糸で人食い花マンイーターの体を捕縛し、動きを押さえることに注力する。

 そこをアリシアが剣によって根元から切り倒すのだ。



 どちらの方法になるにしても、それが安全確実な狩り方だろう。



 その事を彼女に伝えると、俺達は細心の注意を払いながら草むらの中に足を踏み入れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る