第13話 遭遇
フォルスト平原の草むらに入った俺達は慎重に足を進める。
腰までの高さの草は視界に影響は無いが、歩きにくい。
それに
不用意に足を踏み出せば、それが
なのでアリシアは剣で前方の草を刈りながら、俺は魔法の糸を周囲に張り巡らせ、警戒しながら進んだ。
「いませんね……」
前を行くアリシアが不安そうに言う。
平原は広い。
その中から対象を探し出すのは大変だ。
だが、問題の
なぜなら被害者の多くは旅人だからだ。
旅人が何も無い平原にわざわざ足を踏み入れることは考えにくい。
あるとすれば道に迷って街道を外れてしまうか、用を足しにちょっと草むらの中に入るくらいだ。
だから、街道沿いを重点的に探していれば必ず見つかるはず……。
「大丈夫だ。あまり道から離れない位置でそのまま……」
そこまで言いかけた時だった。
「……っ!」
周囲に伸ばしていた糸の先が異変を察知する。
俺はすぐさま叫んだ。
「アリシア! 右だっ!」
「えっ……」
彼女が右に構えるや否や、地面の中から巨体が持ち上がる。
アリシアは慌てて飛び退いた。
雑草に擬態していた茎が見上げるまでの高さにそそり立ち、その先に赤く巨大な花を咲かせる。
花弁には鋭い牙が窺え、そこからは涎にも似た溶解液が滴っている。
「くっ!」
彼女は片翼を開くと大きく羽ばたいて、地面すれすれを滑るようにして攻撃を避ける。
思っていたより身軽なようだ。
その機動力があれば……。
俺は放っていた糸で
それで奴の動きがピタリと止まった。
「
「は、はい!」
彼女は低い体勢になって
途端、木を切り倒した時のようなメリメリという音と共に、
見事、アリシアが剣で切り倒したのだ。
「よし!」
俺は思わずそう口にしていた。
これに対して彼女は、期待に応えられた喜びからなのか、笑顔を浮かべていた。
だが、気を抜くのはまだ早い。
「来るぞ!」
「はい!」
それは彼女も分かっていたようだ。
すぐに気持ちを切り替え、剣を構える。
直後、俺達の周囲を取り囲むように五体の
まるで先ほどの一体によって連鎖したかのようだ。
その長い首で全方向から食い付かれては逃れる隙も無い。
これだけの数……一度に行けるか?
這わせた糸の感触を確かめる。
野盗を相手にした時から感じていたが……スキルが覚醒したことで扱える糸の量が増えたような気がする。
だからといって出来る確信はないが……。
でも、状況的にやるしかない。
俺は全ての糸に神経を研ぎ澄ませ、魔力を込めた。
光の如き速さで糸が
直後、俺の指先から伸びる無数の糸がピンと張られる。
やってみるもんだな……。
周囲にある五体の
あとはアリシアが一体ずつ切って行くだけだ。
そう思った矢先だった。
「風の精霊よ我の呼び声を聞き、応えを示せ。アリシア・ヒッコライトの名において命ずる……」
呪文のようなものを唱え始めると、彼女の剣に青白い光が集まりだす。
魔法か……!
「風の如き刃で彼の者を切り裂け。
叫びながら剣を薙ぐと、周囲に向かって突風が巻き起こる。
次の瞬間、複数に分かれた風の刃が、五体の
地面に転がった巨大花は自身が撒き散らした溶解液によって溶けるように消えて行く。
「やるじゃないか」
「いえ……ルーク様があれの動きを押さえていて下さったからこそです」
彼女は謙遜しながらも嬉しそうだった。
だが、あそこまで正確に茎の根元を狙うのは難しい。しかも五体同時にとなれば尚更だ。
Eランクといえども結構、魔法の才能があるのかもな。
奴隷商の檻の中にいた時は魔術によって魔力を封じられていたので、その才を確かめることが出来なかったが……これは当たりを引いたのかもしれない。
ともあれ、この調子で行けば今日中に、ここら一帯の
――数時間後。
街道沿いに
俺が裁縫スキルで対象の動きを封じ、そこをアリシアが剣と魔法で攻撃する。
その方法が上手く嵌まり、効率良く獲物を狩ることが出来た。
お陰で夕暮れ前に、およそ五十体の
恐らくこれで街道沿いに潜んでいたものは駆逐したと思う。
辺りを何度か往復してみたが遭遇することがなくなった。
もし取りこぼしがあったとしても、それは街道から外れた場所になるので人的被害が出る可能性は少ないだろう。
「とりあえず、この辺で終わりにしておくか」
「はい」
朝からずっと働き尽くめだ。
さすがにアリシアの顔にも疲労の色が見えた。
町に帰ったら、何か旨いものでも食わせてやろう。
それに今日はふかふかのベッドでゆっくりと休めそうだ。
今日の成果だけで金貨五枚にはなりそうだからな。
「じゃあ、日が暮れる前にアーガイルへ戻ろうか」
「分かりました」
俺達はこの場を引き上げる為、草むらから街道へ出ようとした。
その刹那だった。
何も遮蔽物が無いはずのこの平原で、俺達の周りにだけ影が出来上がる。
「……?」
異変に気付いた直後、上方に只ならぬ気配を感じ、仰ぎ見た。
「……っ!?」
自分の顔が引き攣るのが分かる。
俺とアリシアは、そこに浮かんでいるものを目にした途端、愕然とした。
太陽の光を遮る大きな翼。
見るからに硬そうな黒い鱗に覆われた体。
長い首の先には、鋭い牙を持つ裂けた口がある。
それは見る者を畏怖させるほどの存在。
俺は思わず呟く。
「こんな場所に……
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