第35筆 邪神教の嘲笑

 鯉たちを回収後、被害者を弔おうと焼け跡にある遺体をよく見ると黒焦げになった木の人形だった。

 彼らにまんまと騙されたわけである。

 農作物を復活させるのは限度があるが、せめて焼けてしまった家々だけでもと再建しておいた。


 村に到着するとシノさんたちが動けない理由がわかった。ほとんどの者が村の中心部に打たれた巨大な楔の外周側に闇属性魔法で拘束されていたのだ。

 幸いミューリエの魔法で解除、楔も破壊することが出来たが、特殊なものだと時限式で楔がトリガーとなって爆破するもあるそうだ。


 ウィズムと俺で何が起こったのか聞き取り調査を行い、ミューリエとルゥは救護兼治癒、オロチさんは遅れて来ると連絡が入った。あのリザードマン石龍子族の帝王を確保したらしい。

 俺達いちパーティーどころの問題ではないので、ドワーフの国に支援要請を出す運びとなった。



 強者ぞろいのシャルトュワ支部が手出し出来なかった理由……あの竜の仮面を着けた男がやってきて、魔法を使おうならば〘抗魔法レヴォルテ・マジー〙という魔法でありながら魔法を消す能力によって無効化、更に魔力を吸い付くされ動けない所を拘束されたという。

 村で一番強いシノさんは秘策としてダルカスさんに〘幻創零救アズレドゥン・ツィオーネ〙を使用してもらおうとしたが、名を呼ばれると精神を操られる妖術のせいでギルドの面々は気絶。

 若者と子供たち10人を人質に取られ動きようにも動けなかったと悔しながらに語ってくれた。


「あの人質の中には雅臣を慕っとった子供たちもいたのさね。しかも精神攻撃耐性を無効化する領域妖術を使っていた。我ながら覇天の名が聞いて呆れる」

「シノさん、気を落とさずに。今は力を溜めて、必ず救いましょう」

「あぁ、その通りさ。アタシたちのしぶとさ、邪神教に教えてやろうじゃないか!」

「「「おぅーー!!」」」


 一応、今出来るだけのことはやってみる。

 最初の訪問時、ギルド越しで村人全員に通信用ネックレスは渡してあるし、人質になった子供たちの座標はわかるはず……うぅ、ジャミングされてわからない。

 向こう方はどんなハッカー雇っているんだ一体。


『もしもーし? 聞こえるか、オロチだ』


 オロチさんから通話だ。裏のボタンを押して応答する。


『もしもし、雅臣です』

『わりぃ、遅くなった。リザードマン石龍子族たち155名連れてきたんだけどさ、重くて敵わねぇわ』


 大きな足音がしてきたので通話を切り、段々と見えてきた傷だらけのオロチさんの後ろには手首に縄を巻き付けて引っ張られるリザードマン石龍子族の姿が。


「ぎょえぇーー!? 胸、パックリいってるし!! 大怪我の中、全員捕縛したんですかー!!?」



 ◆◇◆◇◆◇◆



「全く、部下のコイツらと来たら上司のラギより聞き分け悪くてさ、お陰で傷だらけよ。」

「あわわ、オロチさん、大丈夫ですかっ!? すぐに治癒を──」


 心配するミューリエの手を軽く振り払い断った。


「よせやい。胸の傷はそのままにしてくれ。ラギとの友誼の証だ。同じくラギの腹にある拳型の傷痕もな」

「シュフフ、友達ダカラナ。サシデ殴リ合ッテ受ケタ傷ダ」

「なるほど~、男の約束でしょうか? わかりました。私、他の人の治療に戻ります。お怪我のある方はいらっしゃいますか~?」

「すまねぇ、姉ちゃん! 女房が魔力切れで動けなくて──」


 ミューリエが理解のある人で良かった。

 ラギさんが笑いながら摩った右脇腹を見るとオロチさんが付けたであろう拳の痕を始点としてひび割れのように皺が寄っている。彼の本気の拳を受け止めて亜人族を初めて見た。


鍛練時、俺の心臓はほど。


やはり、魔神の眷属になるほどだから相当の実力者なのだろう。

 ──にも関わらず部下のリザードマン石龍子族らときたら、


「クッ、生カスクライナラ殺セ」

「我ラハオマエタチヲ殺しカケタ」

「ナラバ、命を以テ責任ヲトルモノ」


 先程から同じような話ばかりでこちらの話なんて聞く耳を持ってくれない。

リコさんが洗脳を解いてくれたのにも関わらずだ。


 聞けば故郷の飢饉が激しく、死にかけていた所に亀の紋章が彫られた魔神に話しかけられ、平静さがないのを良いことに甘言を信じてしまい洗脳され邪神教へ入信したとのこと。


現状を受け入れず、『殺セ殺セ』と喚く情けない部下たちをボスのラギが一喝。


『お前ラ、イイ加減ニシロッ!! 皆サンノゴ厚意ヲ無駄ニスルノカ!? スミマセン、コイツラハ悪クナイ。従ッタ長ノオレニ責ガアル。生キテ償イマスノデ、ドウカ恩赦ヲ……』


と謝罪してくれただけで十分。人生いくらでもやり直せると後ろ姿で見せてきたオロチさんを見習ってほしい。


「そんなこと言わないでください。皆さんは邪神教に唆されただけではありませんか。洗脳で敵対していたとは言え、被害者です。一緒に生き抜きましょう。」

「……イイノカ?」

「はい。その代わり、復旧を手伝ってください。」

「ア、アァ。ワカッタヨ」


 やっと理解してくれたリザードマン石龍子たち。その中に一匹だけ眼鏡をかけており、手招きする子がいた。

 彼だけ知的さを感じる雰囲気、風貌……さながら軍師といったところか。


「マ、マサオミサン」

「初めまして」

「オイラ、ロト ッテ言イマス。落トシ穴ヲ作ル時、コノ子達ヲ使ッタ。出テオイデ」


 彼の号令に答えて地面から体長1.5m、数十匹位の緑十字ならぬ緑六聖マークの石ヘルメットを被った土竜達がモソモソと出てきた。いきなり出てきたから村人達が驚いて震えている。


 驚かせてしまったことに悪気を感じたのか再び穴を掘っで顔だけを覗かせていた。


 確か……中央大陸の砂漠地帯を主な生息地としており、建築が得意な土竜、沙壌築厦土竜アルヒテクト・モールだ。


 知能が高く、定期的に生え変わる自らの大爪を加工して鋸やシャベルなど工具へと加工後、建築する独自の生態を持つ魔物。落とし穴なんて造作もない。


人に家を作ってくれることはあまりなく、余程友好度が高くないと実現することはない。


 しかし、強度・性能・機能面共に申し分無い程の堅牢な家を建ててくれることから、各国の宮廷建築士がスカウトしては突き返されるという親分気質の持ち主。

 魔物の中では珍しく料理して食べるグルメで食事にはウルサイらしい。


「ロトさん、凄いですね! 誇り高い彼らと友達とは恐れ入ります。」

「小サイ頃カラ友達。一緒に頑張ロウ」

「はい! ぐるるるるぅ……」


空腹感が急に込み上げてきた。

 ウィズム、夕食作るから集合かけて。


『皆さま聞こえるでしょうか? 夕時なので集合願います。マサオミさまが鯉料理を振る舞ってくれますよ』


 再び通信用ネックレスで村人たちに連絡、暫くの間逗留しながら再建することになった。

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