シャルトゥワ村魔神襲撃事件
第33筆 急変
俺の朝は早い。
日の出と共に起きる。
筋トレに素振りと速筆の素描をしてから悠々と昇っていくそれを眺めながら召喚した茶を啜る。
子竜の朝も早く、俺の隣にちょこんと佇んで同じく朝日を見つめていた。
「キュウ、キュウゥゥ!」
このきゅうの中だけにも文法があることに気付いた。コスモちゃんに物覚えの良い身体を再構築して貰っただけに数時間あればほとんど理解できるようになった。
……『仲間にしてほしいんだ! 相棒が見つかればそいつに付いていく』か。
煌夢の炎天竜アグバイシス──その名は代々継がれ、この子竜で4代目。
俺たちイカイビトの守護竜としても活躍してきた。
「わかったよ。よろしく頼む」
「キュウゥゥ!」
握手を求めた俺の手を握り返してくれたは良いが、強すぎて骨折した。
まぁ、ミューリエの治癒魔法で治るから良いか。
背後に人影を感じ、振り返るとアグバイシス様が。
「すまぬ。息子が突然行くと言って聞かなくてな」
親の心子知らず、と言ったところか。
「相棒に会ったら別れるらしいです。」
「あぁ、聞いている。炎天竜は代々そうやって来た。我もそうだったからな。さぁ夜明けだ」
アグバイシス様が指し示した太陽は、悠々と万物を照らしつけて、陽の恵みを与える。
背後から一匹の不死鳥が太陽に向かって滑空して飛び立っていった。
あれはディレク翁の愛鳥、ハウザーじゃないか。
アグバイシス様がハウザーからこぼれ落ちた尾羽を拾って驚嘆した。尾羽から浮かび上がる文字にはこう書かれていた。
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シャルトュワ村に魔神が襲撃。麓の“無為の森”は転移禁止区域である為注意されたし』
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「こ、これはまことか──!? マサオミ、村が襲われている! 」
くっ、俺の予想が当たってしまった!
魔神が北に向かったとアルレから聞きはしたが、ここまで行動が早いとは………!!
「皆を起こしてきます!」
「あぁ、急いでくれたまえ!」
皆を起こし向かうはシャルトュワ村へ──。
◆◇◆◇◆◇◆
「おらおらおらァ! 邪魔だぜぇ、トカゲ風情が!! 〘
「ギィシャアァァ!? 」
森に入った途端、
もう八割方は、彼が倒している。
洗脳されている感覚はないのに、統率が取れていて、緑色に妖しく光る瞳は恐ろしさを覚える。
「まったく、どういうことなんですかッ!?
「ミューリエさま、ボクにも分かりません。ここは転送・転移禁止区域ですから転移門なんてあり得るわけ……」
「みんな、あれ転移門じゃないの?」
「ルゥ、あるわけないだろ──えっ?」
俺の否定は一瞬にして覆された。
ルゥが指差す先にあってはならないはずの転移門が確かにあった。
装飾は亀甲柄で、蛇が時折巻き付いた如何にも爬虫類感溢れるものだ。
下手に破壊すると、時空間の歪みが残ったまま戻らないこともあるので警戒しつつ、俗敵を倒していると、他の個体よりも巨躯の
「シュフ、シュフシュフフフフ……!」
王冠型の器官を拝し、異様に発達した緋と翠と藤の鱗を持った帝王種。
白金色に輝く髪は威厳を放ち、数百年に一体しか誕生しないと⟬エリュトリオン全集⟭には伝わる
「ワレラハ足止メニスギヌ。キサマラヲ邪魔スルノガ我ガ仕事……」
「へぇ、殺しはしねぇからさっさとかかってきな。雅臣、お前らは先行っとけ! ここは俺様が食い止める。」
「「「了解!」」」
「………フッ、ナメラレタモノダ」
「さぁて、久しぶりに暴れようじゃないか──!」
◆◇◆◇◆◇◆
「……行ったか。お前は強そうだから特別サービスをしてやろう」
オロチが
かの姿で相対した者たちはこう評した。
✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠
四対の大角歪に伸び、髪は濃色交じりの紅の八塩にうつろふ。
滾る血潮、大気をも震はせて黒煙と共に天下を焦がさず。
目元は黒煙にえし
全身より立ち昇る
肌は剛殻へと変貌、
鋭く伸びし長き尾は槍の如く。劇毒の衣羽織るその異形、ヤドウと名乗り、抗はれぬ“力の象徴”と恐れられき。
✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠
「──昔はそう呼ばれたもんだ」
これを見た
眼前にいる奴は何者かと。
我ら
自身を一族を統べる帝王とするならば、奴は逆らえぬ現象そのもの=神を相手取ってていると自覚させられたのである。
───だが、しかし!
こちらにも背負って立つものがある。
荒れ果てた故郷の自然環境を元に戻し、あの時の暮らしを謳歌するために、この剣と槍を強く握りしめ、
亀の刺青が彫られたあの男と約束したのだ。
邪魔する者を打ちのめし、世界を再生して一族の楽園を作るとこの胸に誓ったあの日を──!
今一度、己を鼓舞して好敵手だと再確認する。
狂乱に満ちた赤き瞳は
「先程ノ非礼ヲ詫ビル。オレハ ラギ ト申ス。今越エルベキ壁ダト再確認シタ」
「そいつは嬉しいねぇ。その瞳、どうやら背負ってるものがあるみたいじゃないか。俺も負けたくないのさ」
「イザ、尋常ニ勝負!」
先手を打ったのは
右手にシミター、左手に槍を持つ彼の戦闘術は近~中距離戦闘でかなりの錬度の高さを有する。
対するオロチはどうだろうか?
己が拳で近距離戦闘を主とするが、敵と判断した者以外を害さない特殊な衝撃波を飛ばして遠距離攻撃も可能なオールマイティー型である。
そう、これだけではオロチが有利かと思われた。
「先手必勝。〘聖剣流帝級:覇剣閃〙──!」
ラギは四大流派が一つ、聖剣流を修めていたのである。
直ぐ様オロチは、拳を振りかざして、衝撃波を発生させたが、それを攻撃手段とする者たちにとって聖剣流は“天敵”……!!
衝撃吸収後、使用者の光属性エネルギーとして再圧縮され放つ一閃は不可避の一撃となる!!
「いってぇなぁ、まったくよぉ」
───その予定だったが、オロチは闇属性魔法を極めているため、〘
不可避攻撃が多いトップクラスの聖剣流の使い手に闇属性は掻き消されてしまうだけだが、オロチは純粋な力の塊を織り込んで粗方防いでしまったのだ。
如何なる武器も握るだけで崩壊させてしまう“力の象徴”しか出来ない芸当である。
故に怪力を抑える手袋を常時着用しているのだ。
「 厄介だな、聖剣流の使い手とは……やっぱお前はトカゲ風情なんかじゃねえ。立派な帝王だ」
「ソウデアロウ?
そう、オロチは無傷とは行かなかった。右肩から左脇腹にかけて〘覇剣閃〙の影響で裂傷を起こしてしまっていた。
「あぁ、普通ならそうかもな。直ぐに治せるが、お前の剣筋を見て確信した。良いマブダチになれそうだから治さないでおく。次は俺のターンだぜ」
「舐メルナヨ……! 」
何を言っているのかわからず首を傾げた直後、動いた残像のみをラギの右脇腹に重い一撃を与え、すかさずアッパーを叩き込んだ。
『気付ナカナカッタ──! 』
ラギの率直な感想だった。
抗えずにひっくり返る彼は、剣風を発生させて受け身を取ろうとしたが、これをさせまいとオロチがシミターを崩壊させたのだ。
このまま落下すれば袋叩きに遭う。咄嗟に出た行動は不壊の加護を持つ槍で怒涛の連撃を与えることだった。
竹藪を振り払うように軽々と往なすオロチは、隙を見て槍を掴み、その豪腕で投げ飛ばす──!
すかさず純粋たる力の咆哮を放ち鼓膜を砕こうとするオロチ。
投げ飛ばされつつもその衝撃を反転、光の推進力へと変換して一筋の流星が迷うことなく好き進む!
双極する力の奔流が屈するのはどちらか──!?
「オマエ、
──勝ったのはオロチ。
双方とも策が立っていたのだ。
ラギは槍の推進力のみに頼らず〘聖剣流王級技:
対するオロチは咆哮の後ろに、劇毒のブレスと禍重力拘束魔法を放ち相討ちとなったが、拘束魔法が一枚上手となり無力化に成功した。
聖剣流との戦いは必中攻撃ばかりで長期戦は不利。
闇属性魔法と徒手空拳を主とするオロチには、苦しい相手であった。
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