ラウニ山 炎天竜の試練編
第31筆 業炎狼
翌日、連絡用アクセサリーにてアウロギ様とディルク翁にグループ通話をして出立することを伝えた。
現在、ナゴルア山脈に入ってから666分経過しており、中心部に程近い場所である。
獣の数字なのは因果か?
一度煌煉の塔が壊された影響か、火山活動が活発になっており、遠目からでも噴火している。
当然だが、酷暑だ。腕時計に気温が45度って表示されているんだけどっ!?
月並みだが、俺は修行の成果でマグマを泳げるくらいには暑さには強くなってしまった。
皆はどうだろうか?
「皆、暑くないですか?」
「ん?こんなの皆魔法耐性の延長線上だ。気候くらいじゃへばらねぇよ 」
オロチさんの返答にため息が出てしまい、⟬なんぞや鑑定さん⟭から改め⟬
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パーティー効果による耐性一覧(馬含む)
即死、各種属性魔法、環境変化、窒息、水中呼吸、溺死、避雷、毒、精神汚染等
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ここから先は視界が覆い尽くされるほどの情報量だったので割愛。
因みにこの眼鏡はARの応用で召喚したので決してゲーム的ではなく、現実的なものである。
というか、死亡前西暦2063年だった地球ではザラな技術だ。ダイブインゲームもあったけど……異世界暮らしの楽しさには敵わないね。
ちょっと不便な位が召喚は楽しくなるものだ。
「マサオミさま、そろそろ見えてきますよ。」
ウィズムが指差した先はナゴルア山脈の中で最も標高が高い
火天竜が住まう地とされており、
「馬で移動しているとはいえ、やはり遠い!君たち、空は飛べる?」
馬たちに問うと『しっかり捕まってな』と目配せして、突如エネルギーを圧縮した翼で彗星のごとく離陸した──?!?
「ぬわぁぁぁぁぁ!!? ちょ、速い速い速い!!」
焦る俺に対して皆は楽しそうだ。
「おぉぉ! 速くて良いじゃねぇか! 」
オロチさんは嬉しそうに首筋を撫でている。
「風が気持ちいいね、ルゥちゃん!」
「だね!」
白馬にのった二人は楽しそうに風を感じていた。
「あわわ……こんなに強いとカツラ取れちゃいます……」
ポロッ。空の彼方へとカツラがスキンヘッドになったウィズムが俺の方を見ている──ぷっ。尼僧目指しているんですか?
でも可笑しいな……髪は勝手に生えてくる設定にしたんだけど? あ、放射能の影響か。
それはさておき、時計の速度計には──時速300㎞!?
名前:なし
種族:神馬族副長
概要:ヴィセンテ・ガトニス氏の死亡ともに進化。ヴィセンテ氏共々高天原にて進化転生。
更に進化する予定。
現在最高時速500㎞。進化後の速度はマッハ126を越える。
なんじゃこれぇぇぇ!?
速い、速すぎる!
ヴィセンテという名前はシャルトュワ村で絡んできたチンピラくんの名前だったはず。
えーっ、あの子死んじゃったの!?
高天原にて転生!?
嫌な予感がするよ!?
なんか俺に変な憧れ抱いて生き急いだりしてないよねっ!?
心配だから、シャルトュワ村に戻る理由が増えた。
段々と速さに慣れてきたところで、ナゴルアドラゴンがいないか見渡す。
上空高くを飛んでいるのに関わらず、生物の痕跡はなく、山間を見ても棲みかの形跡もない。
俺たち以外誰もいないのだ。
これは
しかし、まだ時間はある。
赤兎馬にラウニ山の周りを飛んで貰うように頼み暫く探索していると一匹の炎を纏った狼がいた。
「皆、生存している生物を発見しました! ラウニ山の山頂近くにいます! 」
「オッケー、降りるぞ!」
「「「はい!」」」
オロチさんの指示に返事をして狼がいるところに降り立つ。
俺らに驚いた狼は唸り声を上げて警戒している。
その張り付いた表情には怒りや悲しみ、無念さが受け取れる。俺が予測する最悪の事態が現実味を帯びてきていた。
「
⟬エリュトリオン全集⟭の地図を確認すると、最南端の島があった。
ここはアウロギ様しか入れない神祐地らしいが、島について記載されたページには『炎を使う種族はみなここに住まう』とあるので大丈夫だとは思う。
ただ、種の保全的な意見に過ぎない。
「皆、ちょっと待ってね~。狼さん¥&#>%+@&?」
「ガウ、ガウガウ!」
俺がエリュトリオンの言語の中で唯一理解出来なかった
80音ある言語だから俺には発音すら出来ないのだ。
「ルゥ、何と言っているんだい?」
「えーっとね、『黒い竜たちがやって来てドラゴンと同胞たちを食べ尽くした。炎天竜アグバイシス様、怒って追いかけた。だけど、黒い竜はどこかに消えてしまった』だって!」
こんな時、魔物相手に話が解るルゥとミューリエは心強い。
黒い竜とは
炎天竜様の名前は初めて聞いた。もしかしたら追いかけたけど、逃げられたということか。
指揮者はいなかったのか?
「狼さん、黒い竜を統率していた者は見かけなかったかい?」
俺の質問に対して
「ガウ、ワゥ。ガゥ………クゥ」
「うんうん。『いた、いたよそいつ!
「そうか。辛かったんだな。話のお礼に肉をやろう。」
オロチさんが気を配って
彼の為にもどうにかしないとな。
さて、考察の時間だ。
キャラピアは日本語訳すると錦鯉?
鯉は昇れば龍になると言われるし、龍が手下の竜を引き連れていても可笑しくないか。
──敵方の目的が読めないが、種の絶滅も目的の一つとして考えておこう。
そして、襲ってきた魔神は海流の影響で、ドワーフの国から西方大陸へ行けないのを理解している。
ここから奇襲をかける可能性だってある。
……いや、待てよ? 何かがおかしい。
本気で俺たちを潰すはずならば種族ごと滅ぼして俺たちにとっては余裕で倒せる
否、ありえない。
次第に浮かび上がるのは方角がどこなのかだ。
「狼さん、最後の質問だ。魔神たちはどの方角に行ったか?」
「ガゥガゥゥ。ガゥ、グルゥゥゥガウゥゥゥ」
狼は先程よりも強く冷徹な唸り声と視線を向けて、ルゥが翻訳を続ける。
「そこなんだね。それは大丈夫。『北へと向かった。自分もあいつを追いかけて倒したい! 時が来たらで良いから仲間にしてほしい』だって! 」
──
初めてやってみるが、力が欲しそうなこの子に進化の道筋を立ててあげようかな。
「狼さん、君に名と祝福を授けよう。我は芸術と召喚術の神、雅臣。汝、炎を操る狼に更なる進化の道筋を示さん。アルレ・ヴォルフガングと名付け、そなたに闇炎の祝福を。抱け、希望の灯火──!」
アルレと名付け、即座に炎に燃える首輪と神力を込めた黒い炎を描いて召喚する。
画面へと手を突っ込み右手に首輪、左手に勢い強い黒炎を取り出した後、彼に凄みと低い声をあてて忠告をしていく。
「良いか、アルレ。力を求めるには相応の心の強さが必要。生半可な覚悟ではこの首輪に絞められ、黒き炎に焼き尽くされるぞ」
「ガゥ!!」
色良い返事と決意に満ちた瞳に俺の左手に纏わせた黒炎が映る。
──その覚悟、しっかりと受け取った。
「大丈夫そうだな、アルレ」
オロチさんのお墨付きを受けたアルレは眼を閉じてお座りをした。
彼の額に黒炎を当てて、神力を込めて増幅し続ける荒ぶる炎に苦しみに満ちた唸りを上げながらも負けずに耐えてくれている。
「うん、順調だね。第二フェーズへと映る。なりたい姿を浮かべよ──!」
「頑張って、アルレくん!」
ミューリエの声援を受けてアルレは歯をみせて笑う。まだ余裕があるのを見て安心した。
コスモちゃんから教えて貰ったこの秘技。
まさか使う事になろうとはな。
アウロギ様のように、不死鳥のように己が身を焼き付くし、彼の新たな姿へと昇華させる!
次第に全身へと黒炎が回り火だるまになったが、黙して集中していた。
彼のなりたい姿を読み取っていく。
……翼が欲しいのか。
それに岩の如く硬い肌に駆体と立派な毛並み。鋭利な爪と尻尾の付け根から数匹の蛇の頭。
マルコシアスに近い印象だね。
っ! そうか、宝石のように美しく……か。
〘
入れたのはアルレの魂だ。
彼が望む新たな姿を描く。
猛き赤の宝石と呼称しようか。
アルレの額の角、肩、爪、翼の先の爪など。
その部分にルビー、パイロープガーネット、血赤珊瑚、スピネル、アレキサンドライト、マラヤガーネット、ストロベリークォーツ、ルベライト、ベキリーブルーガーネットの9種を各所にしつこさを感じることなく描いていく。
翼はマルコシアスを参考にして蛇頭から毒を放つ姿も描いて。
最後に黒炎を纏い咆哮する姿まで……。
完成した。
「生まれ変わりしアルレ・ヴォルフガング。今ここに。〘
画面から自ずと出たアルレは描いた姿通りとなって命の灯火を煌々と輝かせていた。
自らの姿を鏡で見せて上げるとこれが本当に自分の姿なのかと舞い上がって火柱が立ち上ぼり、爆発した!
失敗、その2文字が思い浮かぶ。
無事か、無事なのか!
「ヴォゥゥゥ!」
おぉ、何ともない。身体の頑丈さも絵の通りになったようだ。そろそろ通知が来るかな……。
~世界の声です~
〈名もなき狼がアルレ・ヴォルフガング様と名義変更され、新種族:
凄いな! どうやら三段階進化したようだ。進化順番としては
「おめでとさん、アルレ。」
「おめでたいね、アルレちゃん!」
「進化おめでとうございます、アルレさま。」
「よくやったよー、アルレ~」
「ガゥ!!」
皆の祝辞に鼻を鳴らしたアルレは一人で魔神が向かったほうへと追いかけようとしたので止めた。
「アルレ、ちょっと待って。今から
「ガゥ……ガゥ!」
理解を示してくれたアルレと共に頂上の火口へと向かっていった。
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