第30筆 煌煉の塔の再建

「やはり、朝虹の噂は本当だったのか……」


 足場に腰掛け、屋根を具現化ペンで描きながら呟く。


 三日三晩、雨が止まなかった。


 大工のアニキたちは俺が「不眠不休でやる」と言うと「若造には負けられんな!」とかなりやる気になって手伝ってくれた。


 だが、深夜になっても作業する俺に「もう……無理……あんちゃんは規格外だ……」と言い放ってくずおれた。


「あっ、大丈夫ですかっ!?  応えよ、〘画竜点睛アーツクリエイト〙──!」


 頭を打たないように巨大なクッションを遠隔召喚。解錠した新たな機能である。


「無理しないで、と言ったじゃないですか……俺は最低30分睡眠で大丈夫なんですよ」


 黒子型自動人形オートボットで簡易休憩所まで運び、毛布を掛けてあげる。

 全く世話が焼けるぜ。


 無論、「俺は神だから皆さん休んで」と再三に渡る警告はしたのだが、頑固な人たちだったので聞いてくれなかった。

 ……頑固なのは俺もか。地雷踏んだな。


 されど、肉体労働で稼ぐ職人だけに昼には何事もなく復活し、作業を再開してくれた。

 本当にありがとう。


 ふと、復活理由が気になって、片手間に能力鑑定が出来る眼鏡型魔導具、⟬なんぞや鑑定さん⟭を召喚して棟梁を確認。

 ネーミングは進捗状況を聞いてきたウィズムが勝手に決めたので悪しからず。


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 名前:ベレッソ

 職業:石工棟梁

 状態:過労により死亡後、雅臣の神のオーラにより蘇生。分割思考能力を獲得した。


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 おぉ、俺と同じじゃん。

 俺なんかの粗末な神気オーラで蘇生するのは予想外だったけど。

 この能力を手に入れるとイルカと同じく脳の半分を休ませながら動くことが出来る。


 俺の場合、長い修行のお陰で脳が四つに増殖して交代制で一つ休ませておけば大丈夫になった。

 え、気持ち悪い? 死にすぎると身体が星の構造になったり、脳みそ増えたりと変な能力が手に入るんです。ご了承下さい。

 どんどん人外になっていくので人間性を残そうと長時間睡眠を摂っているんだけどね。


 三日間脳のひとつを眠らせながら描いては具現化ペンで召喚を繰り返していた。


 時は経ち、本日は三日目の夕刻。

 やっと雨が止んで止んで晴れ間が見えた。

 光芒が射し込み、塔のステンドグラスが鮮彩に反射する。

 棟梁ベレッソさんらと共に再建した塔を眺めて感慨に浸った。


「いやぁ、棟梁。出来ましたね……!!」

「あぁ──!あんちゃんは神様には見えんがやっぱり神様なんだよなぁ。一応そういうことにしといてやるよ。技術と言い、体力と言い、本当にあんちゃんには敵わねぇ。」


 これには他の石工たちも唸っていた。

 色んな神様から勉強したからね。


「皆さん完成したので解散しますっ! お疲れ様でした!」

「「「お疲れさん!」」」


 ベレッソ石工団を見送った後、最後の仕上げにシュカロアに消されてしまった守護霊獣たる八色の炎に輝く魔鳥を召喚して完了した。


「君たちの種族名をレサーファ・イグニーシ護塔の不死鳥と名付ける。主はアウロギ様だよ。良いね?」

「「「ヒュッヒュルウゥゥゥゥゥ!!」」」


 元気な返答を頂いた後、王城にいるアウロギ様を探しに行った。


「足場よ、〘返還リバース〙──」


画集アートブック〙の画面に召喚物の足場が画面に飛び込んで戻っていく。

 歩いていても自動でついてきて戻ってくれるのでそのまま王城へと赴いた。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 王城特別応接室にて。


「失礼します」

「ノックなんてしなくて良いよ。入っちゃって」


 堅苦しいのが嫌いなアウロギ様が言うのなら、と思ってそのまま入った。


「出来たかい?」


 入室して早々、アウロギ様の質問は簡潔だった。


「えぇ、完成致しました。見た目は以前通りですが、俺の召喚物は願いに応じて自動成長していきます。戦闘状態になると要塞と化し、塔頂上部分は砲筒が出て来て穿ちます。」


 借りていた古い設計図の巻物を返却した。

 長さ20mを越える平安時代みたいな長い巻物で更に10m、改善した追加部分が記されている。

 毎回巻くのが面倒なので三冊分、写本を作ってそれも渡しておいた。


「あぁ、悪いね。ありがとう。本に作り直してくれたのか。」


 彼は一通り目を通し、時々驚きの表情を交えながらぼそりと「素晴らしい」と称賛した。

 渡した写本を精神世界の保管庫へ仕舞った。


「明日からまた塔に住むよ。僕は新機能の便利さがゆえ、引きこもりになりそうだ」

「ははは、ありがとうございます」


 鍛冶研究室を追加したので、彼にとっては最高のサプライズだったと自負できる。


「話題を変えよう。そろそろ宿屋に戻ると良いよ。

 君の自己判断はパーティーの皆に心配をかけたからね。いくら脳が四つあるとはいえ、皆知らないし。親しき仲にも礼節あり。『二度の感謝と謝罪は重要』と考えることをおすすめする。」

「申し訳──」

「僕に言ってどうするんだい。ほら、行った行った」


 アウロギ様に背中を押され、やっぱり皆怒ってるかなぁ、と思うと少々焦りが出てきた。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 不死鳥の煌めき亭に戻り、皆がいる部屋のドアをゆっくりと開けてみる──。


「あ、バカオミが帰って来た」


 ミューリエからの第一声がこれだった。

 膨れっ面の怒った彼女もまた可愛いがここは真面目に──。


「ごめんなさいっ! 脳が4つあるから本来寝なくても大丈夫なのにそれすら説明せず、皆のことを考えていない勝手な行動をしてしまいましたっ!!」


 必死に頭を下げること数十秒。正直ここから頭をあげるのが怖い……。


「フッ。顔を上げろ、雅臣」


 恐る恐る顔を上げると微笑するオロチさんが額を軽く拳骨した。


「アホオミお兄さまはこれで見納めになると良いですが……。」


 同じく微笑むウィズムっちから左胸を軽く拳骨された。


「雅臣お兄ちゃん、勝手な行動しないの。」


 白い歯を見せて笑うルゥからは両脚のすねを軽く蹴られた。


「皆の言うことくらい聞いてよね、バカオミ──!」


 最も怒っているミューリエきゅんからは肩パンを受け、暫く叩かれた。


 そして、皆のリーダー、オロチさんが総括する。


「皆の気持ちを代弁する。お前さんが帰って来た時、高慢な態度だったら皆で怒りの鉄拳制裁をするつもりだった。『お前はそれでもいち神としてどうなんだ』とな。だが、真面目に謝ってくれたからそこまで怒ってない」

「……はい」


 俺のどこが悪いのかと開き直ったら更に反感を買っていただろう。改めて、正直者でなくてはならないと痛感した。


「……だからね雅臣くん。今回みたいに大規模戦闘後は貴方の〘画竜点睛アーツクリエイト〙が必要になることも多いと思うの。たった一言で良いから『行ってきます』とだけ言ってほしいな」

「わかりました 」


 昔は我が道を往くばっかりだった。

 今は違うと胸を張って言えるようになろう。

 人に頼もう。


「謝罪の時間は終わりだ。アウロギ殿からアドバイス貰ったが、今の時期だけ発生する海流の影響でここから西方大陸に行けないらしい。その為、ギルドで受注したナゴルア山脈の調査をこなしつつシャルトュワ村の隣村の港にて出航する運びとなった。」


 海流の影響か……。


 召喚物で解消も良いけど、ツケ払いが怖いからなぁ。ツケ払いってのは天候を無理に変えすぎると反動で倍になって帰ってくるんだよね。


『エリュトリオン全集』より邪神が天候を操作して乱海流を作った記録がある。元々、中央大陸の真下側に南方大陸があった。


 そこを邪神が大陸のプレートをねじり上げて断絶。大陸の6割の面積、当時のイカイビトごと潰したらしい。

 だけど、執念で当時のイカイビトは海の守護者と共に竜巻で127年間閉じ込めて息絶えたと伝わっている。


 これによって隆盛を誇ったドワーフの帝国は滅亡。ドワーフ族自体も87%が絶滅。土聖神と水聖神が残った4割の大陸を西側に押して避難させたので、南方大陸は左側に寄っているというわけだ。


 今は海と痕跡の裂け目(海溝)があり、荒れ狂う波と止まぬ雷雨が降り続けている中、海底に眠るドワーフ皇国の宝を狙って海賊が探し求めているらしい。


 余談が過ぎたが、とにかく無理に変えるのは避けたい。最終手段として活用する。


「それで、明日出発ですか?」

「あぁ。あと、ルゥがアウロギ様から火属性魔法を贈与ギフトしてもらったぞ」

「うん! ほらね♪」


 ルゥが自慢気に手から炎を出して見せてくれた。

 そんなに舞ったら危ないぞ~。

 あぁ、魔法が使えるって羨ましいな──ってクッションに燃え移ってる!?


「ルゥ、引火してる! 消化しよう!」

「あわわわ!? 〘水弾アッセンクラ〙!!」

「ご、ごめんなさい……」

「フハハッ。ルゥ、そんなこともある。今日も楽しく賑やかに行こうぜ?」


 オロチさんの提案に皆賛同し、賑やかな一日は終わった──。

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